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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第八章 三学期 ~レミリア15歳~
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138.令嬢姉妹と生徒会役員

 三学期の初日ということで、本日は授業はなく全校集会とホームルームのみで終了となった。

 何の気なしに「こっちでも初日は半ドンなのよね」と言うと、マリアーネに「何ですかソレ?」って言われてしまった。……そうか、マリアーネの前世世代に半ドンは死語か。ちょっとだけ軽く傷心してると、フレイヤとティアナがやってきた。

 確かに半ド──半日だが、私達はお弁当持参である。というのもこの後は生徒会室に集まって、皆で食事をしながら三学期についての大まかな話し合いがあるのだ。

 といっても、話し合いはそこまで真面目なものではない。この時期になってしまえば、三年生は凡そ自分の進むべき道は決まっており、こと基本的に生徒は貴族の子爵令嬢ばかりである。家を継ぐものは既に相応の志を持っており、そうでない場合の多くは王家や上位貴族への奉公と定まっている。


 生徒会の中で三年生はお兄様とアーネスト殿下だが、進むべきは明確である。兄は実家でるフォルトランの嫡男として、アーネスト殿下は王位継承権一位の名に恥じぬよう将来の国王目指しての勤めとなる。そんな二人だが、まだ生徒役員である。どうやらこの学園では、卒業するまで生徒会役員は任をまかされているらしい。まぁ、流石にこの頃になると見送られる側であり、名誉職みたいなもんなんだろうけど。


 私達は、いつものように……でも、久しぶりにお喋りをしながら生徒会室へと向かった。あまり大声で騒がしいのは淑女としてはダメだけど、まったく会話なく歩くのも寂しいものだからね。

 談笑している間に生徒会室に到着。既に男性陣はそろっており、私達の到着を心待ちにしていたようだ。……うん、わかってるわよ。食事を一緒にするという暗黙の了解により、お預け状態だったんでしょ?


「お待たせしました皆様」


 にこやかに挨拶をして入っていくと、こっちを見るアライルと目が合う。今朝ほどはどこか気恥ずかしい感じもしたが、今は別段そうでもない。どっちかというと「ハラへったぞ」みたいに見えるわね、腕白坊主って感じよ。

 部屋に入りすぐさま持参した弁当を広げ、ようやく昼食開始となる。男性陣はやはり顔に出さなくともそこそこ空腹だったのか、最初のうちは黙々と食が進んでいた。

 私達が半分ほど食べたあたりで、男性陣は皆食事を終えていた。分量的にはけっこう多いはずだが、その当たりはさすがだといわざるを得ない。

 それから少しして私達女性陣も食事を終える。……ふぅ、満足ですわ。

 ティアナが全員に食後のお茶を淹れおわり着席したところで、アーネスト殿下が皆を見渡して口を開く。


「……皆、少しいいだろうか」


 背筋を伸ばしたアーネスト殿下を見て、室内にいるすべての者が改めて居住まいを正して発言主へと視線を向ける。全員が自分に注視しているのを受けて、アーネスト殿下は言葉を続けた。


「この三学期においては、学園での大きな催しはほぼ無いと言っていいだろう。もちろん、三年生……卒業生にとっては、何より大切な卒業式はあるけどね」


 そう言ってニコリと笑みをこぼす。だが、それを見てマリアーネだけがほんの僅かに寂しげな顔を見せる。たまたま私は気付いたけど、多分気付いたのは……アーネスト殿下だけだ。

 そして、多分フレイヤも同じような表情をしていただろうと思う。なんとなく、彼女の周囲の雰囲気というか……それが揺れたような気がしたから。


「後は……卒業式の後の卒業パーティーか。その時は、既に私は生徒会長ではなくなっているから……クライム、よろしくな」

「…………はい」


 現生徒会の三年生が抜けると、一番上なのは二年生のクライム様だ。来年度はクライム様が生徒会長となるのだろう。……来年の話をすると鬼が笑うっていうけど、来年()でも同じなのかしら。

 などとお馬鹿な事を考えていると、アーネスト殿下がマリアーネを見て……そして優しげに笑みを浮かべる。その表情は、殿下がマリアーネの事を想っている時にだけ見せる表情だ。


「……私は卒業パーティーの場にて、公式な発表としてマリアーネとの正式婚約を発表するつもりだ」


 アーネスト殿下の言葉に、室内の空気が音も無くざわめく。今の言葉を聞くより前に、この部屋の者たちは皆既に周知の内容であった。だが、改めてそれを公式な発表として執り行うという事は、アーネスト殿下の強い意思を感じたのだろう。


 そして……それは私にとっては、色々と思いが交錯する内容でもある。

 乙女ゲーム『リワインド・ダイアリー』において、卒業パーティーでヒロイン(マリアーネ)攻略対象(アーネスト)の婚約発表は、(イコール)悪役令嬢(レミリア)の婚約破棄だったからだ。

 でも、今ここにいるレミリア(わたし)はそうではない。アーネスト殿下の弟であるアライルと婚約をし、その事に関してはなんら横槍が入る理由がない。少し前までなら、それでもどこか不安を掻き立てられたりしたかもしれない。だが──


「…………ふふっ」


 無意識に握り締めていた首からさげた鎖──そこに潜らせた指輪を見て、私は表情をやわらかくする。これは私の……ううん、私達の想いの形だ。

 そっと指輪を握り締め、送り主であるアライルを見る。先程生徒会室に入った時にも目が合ったのだが、あの時と違い心の奥に嬉しさと気恥ずかしさが沸いてくる。……うん、今朝目が合った時と同じかな。

 でも今度はそらす事なく、素直に笑顔が浮かんでくる。そんな私の顔をみて、アライルも笑顔を浮かべてくれた。そして暫し目を閉じ、再度開いたその目には強い心が感じられた。


「兄上、私からもよろしいですか」

「……ああ、もちろんだ」


 アライルの目を見て何かを感じ取ったアーネスト殿下は、一瞬驚くもすぐに目元に優しさを浮かべ返事を返す。


「兄上とマリアーネ嬢の婚約発表の後、続けて私とレミリアの婚約も発表したい。……どうだろうか?」

「………………あ」


 そう問いかけるアライルの視線の向かう先は……当然、私。

 ゲームのレミリアにとって婚約破棄を言い渡される卒業パーティー。その場にて、婚約発表をされるという事象に、流石に驚いて声が漏れてしまった。

 暫し頭が真っ白になるも、こちらをじっと見ているアライルの視線に気を持ち直す。そこには心配している気配は微塵もなく、ただ私を信じてくれている真っ直ぐな瞳……私の好きな赤い瞳だった。

 私はすっと立ち上がり、ひざを折ってスカートをつまむ。


「その時は、ぜひとも私をお隣に」

「勿論だ、よろしくレミリア」


 そう力強く返事をしてくれたアライルの笑顔は、既に見慣れているはずの私でも、改めて見惚れるほどに、強く、優しく、──愛おしいものであった。



投稿が不定期になっております。

まだこの状態は暫し続きますが、内容がそろそろ終盤へ向けて……という所なので、今しばらくのお付き合いをお願い致します。

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