131.談笑 そして 知らぬは本人のみ
「んん~、美味しいです!」
「クレアちゃんってば、本当に美味しそうに食べるわね」
「フレイヤはどう? 美味しい?」
「はい、とても美味しいです」
一通り話をした後、当初の目的でもあった“餅”について聞いてみた。今までフレイヤやクレアちゃんから餅の話を聞いたことはなかったので、望み薄かなぁと思って聞いてみたのだ。すると、今日クレアちゃんがフレイヤにと持ってきた品物の中に餅が入っているとのこと。なんとも偶然なんだろうけど、私達の意志が世界に反映してるんじゃないかと勘ぐったりもした。
まぁ何にしても餅があることには変わらないので、早速その餅を焼いて食べてみることにした。餅以外にも持ってきた素材の中に、大豆から作った醤油と焼き海苔が入っていたので、ならば餅は焼くに限る! という事になった。
オーブンではなく、コンロの上に金網をおいてそこで餅を焼く。途中でぷく~っと膨れてきたのを、フレイヤやクレアちゃんだけじゃなく、サムスベルク家の料理人までもが驚いた様子で見ている。……さすがに餅はこっちじゃ全然知られてないか。よくクレアちゃんは持ってきてくれた、ナイスよ!
そんでもって焼いた餅に砂糖醤油をつけて焼き海苔で巻いてみた。海苔を巻いたものを手づかみで食べるというのは、以前クレアちゃんのデビュタントで披露したおにぎり以降、時々食しているらしくてすんなり受け入れてくれた。
折角なので、キッチンを貸してくれたサムスベルク家の料理人さんにも餅を食べてもらった。
「不思議な食べ物ですね……」
「でもなんでしょう、美味しい……」
この人達はフレイヤが着物などをよく着てるのを知ってるので、その国の食べ物だよと説明しておいた。ともかく皆からの評価がよくて、なんだか嬉しかった。
お餅ついでに、せっかくだからと緑茶で口をスッキリさせてから、四人でフレイヤの部屋へ。さすがに四人ともなると、各々の専属メイドを同伴させると八人になってしまうので、そちらはサムスベルク家の手伝いをしてもらうことにした。
今や我がフォルトラン家とフレイヤのサムスベルク家は、家ぐるみでの付き合いなので互いの使用人でも自家の者と同じように扱っている。とっても、強要とかはなく和気藹々としたものだ。
場所を変えたついでに、今度は紅茶をお供に女子会に。
「──なるほど。それじゃあクレアちゃんも再来年は魔法学園に入学なのね」
「はい! でも、できれば皆さんと一緒が良かったです……」
「ふふっ、クレアったら」
少し剥れる様子のクレアを見たフレイヤは、その気持ちがむず痒くも嬉しくて笑みをこぼす。憧れであるフレイヤと一緒に学園に通える時間が、たった一年しかないのが不服なのだ。
でもそっか……二年後は学園入学ってことは。
「クレアちゃんの魔法属性がわかるのは来年ね」
「あっ、えっと……」
「ん?」
何となく呟いた私の疑問に、クレアちゃんはどこか歯切れの悪い様子を見せる。もしかしてこれは──
「クレアちゃん、ひょっとして……自分の魔法属性が何か知ってるの?」
私の言葉に、小さくコクンと頷くクレアちゃん。別に早く判明することが悪いことではないが、規定の方法で調査する前に判明するのは中々に珍しい。私やマリアーネの場合は特別で、自分達が乙女ゲーム『リワインド・ダイアリー』のキャラだったから単純に“知っていた”だけである。
しかし彼女はそうじゃない。となると、彼女に近しい存在で水属性を有している人物が怪しいときたもんだ。
そう思ってじーっとフレイヤを見ていると、観念したように一つ息を吐いた。
「……そうよ。クレアが水属性を保持してるって私が教えたの」
「なるほどね。でも、よくわかったわね」
「それについては偶然よ。昨年末、遊びにきたクレアに魔力をこめた水を見せたのよ。それにクレアが触れたら、水が見た事ないようなうねりを見せたのよ。それでもしかしたら……って思ったら」
「……それで判明したと」
「ええ、そうなの」
フレイヤの言葉を聞き、私とマリアーネの視線がクレアちゃんに向く。どこか怯えているように見えるが、これって私が睨んだせいかしら。
私はできうる限りの笑みを浮かべ、クレアちゃんの前へ行く。
「クレアちゃん」
「っ、はいぃっ」
……なんか声が裏返ってる。明らかに怯えてる系の対応だわ。
「いい先生が見つかったわね。フレイヤならとても優秀な水属性の魔法講師よ」
「…………あ。は、はいっ」
私の発言内容にほっとした表情を浮かべるクレアちゃんと、それを優しげな眼差しで見ているフレイヤ。なんだか本当に仲良し姉妹に見えるわね。
だからこそ、学園で一緒に過ごせるのが一年間だけなのは寂しいのだろう。
そんなクレアちゃんだが、自身の魔法属性についての話題がひと段落すると、今度は学園について色々と聞いてきた。
「あ、あの、レミリア様」
「うん? 何かしら」
四人で楽しく会話をしていたおかげで、初めの頃はクレアちゃんも私に話しかけてくれるようになった。そんな折、聞かれた事というのは──
「学園のせ、生徒会で、その……」
「生徒会?」
唐突にクレアちゃんの口から出た単語『生徒会』。とはいえ、ここにいる学園生三人は、全員生徒会に所属しているから特に不自然ではない。
……不自然ではないんだけど。
「………………」
「フレイヤ、なんで目をそらしてるの?」
何かを感じたマリアーネが、私の代わりにフレイヤに質問をする。なんせクレアちゃんが生徒会なんて単語を口にするには、誰かからその話を聞く必要があるはず。そして、そんな話をするのはフレイヤしかいない。でもだからこそ、何でそんな態度なのか。
ひとまずクレアちゃんの質問を聞けばわかるだろうと、質問の先を聞いてみることにした。
「その、生徒会で一番偉いのは……レミリア様なんですか?」
「…………はい?」
何のことじゃと思ってフレイヤを見る。視線どころか顔を思いっきりそむけている姿勢は、この世界にボケやノリツッコミ文化がないのに随分とお笑い向けだ。
別段私は何も思わなかったが、これは一体どういう事なのかと少々愉快な気持ちになったので、すーっとフレイヤの方へ近寄る。……お、一瞬フレイヤがビックとした。
「ねぇフレイヤ。とりあえず怒らないから、どういう事か説明して?」
「うっわ……レミリア姉さま、ソレって絶対怒る時の言い回しでしょ」
「うぇぇえっ!?」
私の言葉で一瞬安堵したように見えたフレイヤだが、マリアーネの知ってる人の言葉で怯えが浮き出てくる。いや、とりあえず本当に怒らないって。
その後、本当に怒らないからと説得して聞き出した話というのは。
「その……ね? 別に何か意図があったわけじゃないのよ? 私達が生徒会に所属していることをクレアに話しているうちに、色々と盛り上がってしまって……」
「うん」
「それでこの前の学園祭の事を話したのね。実はクレアは用事で来られなかったから、その話をすごく喜んで聞いてくれたの。それで、今年の学園祭は今までと違ってたのは、レミリアが発案した事だって言ったらすごく驚いて……」
「うん」
「それで何故レミリアがそんな事ができたの? って聞かれて……」
「うん」
「レミリアが聖女だからとか、生徒会として教師からの信頼も厚いからとか……」
「うん」
「色々言ってるうちに、えっと……」
「…………続けて」
徐々に歯切れが悪くなってきたフレイヤに、私は続きを促す。ええ、もちろん怒ってないわよ。とても素敵な笑顔を浮かべていたハズだわ、ふふっ。
「実は、生徒会で本当に力を持っているのは実はレミリアなのよ……って」
「ほー……」
「ごめんなさいっ! でも、多分そうやって思ってるは私だけじゃないわ。……ね? そうでしょ、マリアーネ」
「うげっ、まきこまれ事故!」
対岸の火事みたいに傍観していたマリアーネは、突然の飛び火に淑女らしからぬ声を上げてしまう。こういう部分がまだ前世の女子高生ひきずってんなぁ。
別にソレに関しては特に怒ったりもしないけど、んー……私ってそういう風に見られているのね。時々“アライル殿下を尻に敷いている”みたいな事を言われてたけど、そういう部分から来てるイメージかしら。
とりあえず『生徒会の影のドン』『裏のボス』みたいなイメージはどうにかして欲しいわね。
……ただまぁ、
「レミリア様って、やっぱり凄いんですね!」
尊敬と畏怖の眼差しを向けてくるクレアちゃんを見て、私はこの期待にこたえるべきなんだろうかと少しばかり自問自答してしまった。
……ちがうよ? 平穏で平凡な生き方を望んでいるだけなのに。
先週は更新を幾度かお休みして申し訳ありませんでした。
世間の現状況により、私もついに自宅利用型テレワーク(在宅勤務)の指示を受けました。そのため暫くは会社への通勤が無くなり、その時間があれば丸々一回分の執筆が可能という状況になりました。
本日はテレワークへの実際の移行のため少し時間をとられましたが、明日からは普段の予定通りに更新が可能かと思います。
それでは今後もよろしくお願い致します。