130.一年の計 そして 人生の計は元旦に
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国王陛下との挨拶を済ませると、そのまま賓客と談話等をする部屋へと通された。一応王家と侯爵家という差はあるが、言ってしまえば縁のある両家の者だけならば、謁見の間とかで仰々しく話すこともないとの考えだろう。
といってもさすがに新たな年を迎えたばかりのなので、王家の皆々様はもう少ししたら公務があるようだ。
その事を聞いて、思わず私はマリアーネと視線を合わせてしまう。その心情はもちろん『いつか自分達も……』という感情からなるものだ。それを自覚し、少しだけ頬が熱くなるのを感じた。
だから──という訳ではないが、ちょっと気持ちの矛先を余所に向けようと周りに視線をめぐらすと、お母様が女王陛下と仲良く話しているのが見えた。そういえばあちらも交流があり、特に花に関してはいろいろと情報や意見交換とかしてたわね。家のお庭が中々に華やかなのもそれが理由だったわ。
「レミリア、マリアーネ。二人ともこちらに来なさい」
気付けば私だけじゃなく、マリアーネもお母様と女王陛下を見ていた。なので二人そろってお母様に呼ばれてしまった。隣に居た互いの婚約者は「いってきな」と笑顔で送り出してくれる。それをうけて私達は、おずおずと呼ばれたほうへ。
近づいてきた私達を、両手でぎゅっと抱きしめてくれたのは女王陛下だった。
「うふふっ、本当に二人ともありがとうね」
「あ、はい」
「……恐縮です」
ここで「何が」なんて事は聞かない。前々より女王陛下は私達姉妹に随分と心を砕いてくださっており、それこそ両殿下が私達に婚約申し込みをしている頃から、こちらの快諾の返答を待ってくださっていたのだから。
そんな訳でこちらの女性陣は、女王陛下が公務に向かわれるまで賑々しく歓談した。そして、以前もあったのだが「お泊りに来なさいね」との言葉を頂いて城を後にしたのだった。
王城から帰る馬車の中、私とマリアーネはとりあえず肩の荷が下りたという感じだった。いくら打ち解けているとはいえ、王族勢ぞろいの場に家族同伴で出席は緊張するというものだ。
ちなみにこちらの馬車には私とマリアーネ以外は、互いの専属メイド二人、合計四人しかいない。まぁ御者も入れれば五人だが、そこはメイド二人以上に数えないものだ。
そしてこういう環境になると、最近では私もマリアーネも結構前世話を普通に口にしている。ミシェッタとリメッタはきちんとしているので、その辺りを耳に入れても絶対に聞いてこないし口外もしない。
ちなみに何を話しているかというと、お互いの婚約者について……では全く無く。
「ねぇ、もしかしてクレアちゃん家……ハーベルト子爵の流通なら、餅とか扱ってるかもしれないわよね?」
「お餅ですか……やっぱりお雑煮ですか?」
「お正月だからね。普通に砂糖醤油で焼くのもいいわね」
「……こっちでたまり醤油とかありませんかね? つけて焼くならたまり醤油にしたいんですけど」
ちらっとミシェッタたちを見るけど「存じません」という感じで首をふる。んー……さすがにそこまでは高望みか。ちなみに二人は首をふると、またすぐ目を閉じて隅でおとなしくなる。う~ん、プロやねぇ。
「さすがにお節は無理だろうし、せめてお餅は食べたいよねぇ」
「今までは聞いたことなかったし、ちょっとクレアちゃんに聞いてみようか」
「それじゃあ……どうする? 帰ったら、ハーベルト家に向かってみる?」
「うーん……あっ! 多分だけど、クレアちゃんのことだから新年の挨拶にってフレイヤの家に来てるんじゃない?」
「ああ、なるほどっ」
そうえいばクレアちゃんはフレイヤに強い憧れを持っている。なので新年はきっと遊びにきているはずだ。なんせフレイヤが入学してしまい、昨年のように頻繁には会えなくなってしまったのだから。こういう必ず会える機会は見逃さないだろう。
というわけで、一度家に帰りすぐさまフレイヤの家へ向かった。ちなみに王家より送られたドレスはさすがに着替えたわ。
「まあ! レミリアにマリアーネ、ようこそいらっしゃいました」
「ふふっ、フレイヤあけおめ~」
「ことよろフレイヤ~」
「……あっ! ふふっ、『あけましておめでとうございます、ことしもよろしく』ですね?」
「「おぉ~!」」
出迎えてくれたフレイヤに、ちょいとおバカっぽい新年の挨拶をかましてみた。正直なところ通じるか半々だったのだが、この世界でいう“着物の国”に興味が強いフレイヤだったため、新年の挨拶がしっかりと返ってきた。
まぁ、私もマリアーネもかなり確信犯ではあったんだけど。なんせ──
「やっぱりフレイヤは振袖なのね」
「以前も見たけど、ホント綺麗な黒髪が似合うわよねぇ」
「ふふっ、ありがとうございます」
ニッコリと笑みを浮かべる姿は、まさに“立てば芍薬~”の件を体現してると思わせるほどだ。
そんな彼女の後ろ、先ほどからチラチラと見えていた姿が。その影にフレイヤがやさしく声をかける。
「……ほら、ちゃんと挨拶なさい」
「は、はい……」
そういっておずおずと出てきたのはやはりクレアちゃんだった。ただ、なんと彼女も振袖を着ていたのだった。フレイヤが日本人形ならクレアちゃんは西洋人形だが、着こなしが良いのか柄センスがいいのか、とっても上手に振袖を着こなしていた。
「「おおっ!?」」
「レ、レミリア様、マリアーネ様……お久しぶりです」
「うん、お久しぶり。元気だった? にしても振袖似合うわね~」
「そうそう! なんかフレイヤと二人でペアみたいね」
「ほ、本当ですか!? 嬉しい……」
私達の言葉に、目を潤ませて喜ぶクレアちゃん。その奥にて、家のメイド二人がフレイヤの専属マインさんと、クレアちゃんの専属リィナちゃんと挨拶をしていた。なんだかんだで、あの辺りも結構親密なのよね。
その二人とも挨拶を交わしたタイミングで、まだ屋敷口で挨拶をしていたなと思い出して慌てて奥へ案内された。でもまあ、私としてはなんだか玄関先で新年のご挨拶をしてる風でちょっと楽しかったんだけどね。
「レミリア嬢、マリアーネ嬢、今年も宜しくお願いする。……特にフレイヤとは、いつまでも仲良くして欲しい」
「はい、もちろんです」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
「ちょっ、お兄様……」
挨拶の言葉に交えて、大切な妹のことをお願いしてくるクライム様。聞けばご両親は、さすがに立場上挨拶へと出向いているらしい。お二人はまだ学園の生徒なので、そういった事は再来年以降の話だそうな。
フレイヤからの咎める声と視線をうけならがも、何故かクライム様はこちらを笑顔で見ている。どうしたのかしら……と思っていると。
「ケインズから聞いたよ。二人とも、それぞれ殿下からの婚約を正式に受け取ったそうだね」
「「はい」」
「「えええぇっ~~~!?」」
返事をした私達の声に、かぶる勢いで二つの驚き声が響く。もちろんフレイヤとクレアちゃんだ。ちなみにリィナちゃんも絶叫しそうになったが、すばやく傍にいたマインさんに口を手で押さえ込まれていた。さすがに格闘技を修めているだけあって、動きもキレキレね。
「ふ、二人とも本当なんですか!?」
「お、おめでとうございます!」
当然ながら二人がすごい勢いでこちらにくいつく。別に隠してるつもりはなかったけど、クライム様が言っちゃうんですかぁって気持ちもあったりする。その当人は、どこかしてやったりな顔を浮かべて楽しげだし。
「……ええ、本当ですわよ」
「その証に……ホラ」
私達は、着替えたときに改めて指にはめなおした指輪を二人に見せる。それを見て二人が「「おぉ……」」と、感動とも感嘆ともとれる息を漏らす。
そして指輪の宝石をじっと見ていたフレイヤが、
「この指輪の宝石は……もしかして、アライル殿下とアーネスト殿下の瞳の色でしょうか?」
「ふふっ、正解」
「……あ。もしかしてフレイヤ、貴女も──」
「い、いえっ。別に私は。その、ケインズ様の瞳の藍をとは──」
くい気味に焦りながらも、非常にわかりやすくベタな発言をするフレイヤ。……この世界にはお笑いのお約束文化とかないから、こういうのって天然なのかしら。
ともかく自分の発言に、途中で気付いて硬直するフレイヤ。もしここにお兄様もいたら、一緒に石像になってたかもしれないわね。
だが、この空気を平気でつつく子が今日はいる。
「フレイヤさんって、本当にケインズ様が大好きですよね」
「あ、ちょ、まっ──」
「まあまあ、クレアちゃんもご存知なのかしら?」
「はいっ。フレイヤさんは隠しているみたいなんですけど、会話の中で端々にどう聞いてもケインズ様の事かなっていう話が出てきたり……」
「あ、あのねクレア──」
「そうなのね。具体的には?」
「あ、はい。たとえばクリスマスにお花とカードが届いたらしいのですが、そのお相手の事を尋ねましたら──」
「もっ、待ってったら!」
きしゃー! っと妙な感じに盛り上がる私達と、それを楽しげに見るメイド、おろおろするメイド、とりあえず静観するメイド姉妹。そして苦笑しながら「ごゆっくり」と奥へと立ち去る殿方。
なんとも賑やかしい新年の初日──元旦だが、これでこそ私レミリア・フォルトランにふさわしいと何故か思ってしまう。
……うん、私にさびしく静かなのは似合わない。
今年も全力で──……あれ。私、平穏に過ごしたかったハズなのに。でもまぁ、楽しければ万事解決よ。
少し投稿が遅れました。現在家と会社の両方にて、万が一テレワークをする事になった場合の準備などをして時間をとられております。次回更新は通常なら4/10(金)ですが、今回のように遅くなる可能性もございます。ご了承下さい。
後、毎度のことならが誤字報告ありがとうございます。報告は早急に反映させていただいております。