129.登城 そして 新年のご挨拶
4/6の更新は私用でお休みします。次回更新は4/8となります。
それから数日が経過し、ついには今年最後の日……大晦日となった。大晦日については、この国も前世もあまり違いは感じることなく、家族で年越しを過ごすというものだった。
「今年もあと僅かね」
「ですね……」
自室でちょいとアンニュイな気分で呟く私に、同じテンションで言葉を返してくれたのはマリアーネ。今日はいつものように私の部屋にて、二人で過ごしている。
年末年始とはいえ、もう特に何かする予定もない。どちらかと言えば、年が明けてからのほうが色々と忙しいだろう。
特に今年は、私とマリアーネが聖女であると、広く民衆に知れ渡ってしまった。なので年が明けたら色々と顔を見せないといけないそうだ。これまでも侯爵令嬢としての挨拶はあったが、今後はそれ以上に意味も責任も付いてくるようね。
そんな考えをめぐらせて、ボーっと外を二人で眺めていると、ふとマリアーネがポツリと呟いいた。
「大晦日なのに『お蕎麦を食べる』ってのが無いのが、ちょっと落ちつかないです」
「うん、わかるー! なんだろうねぇ……何故か大晦日ってなると、=年越し蕎麦なのよね」
「ですねですねっ。それでもって、ビジュアル的にはなぜかエビ天蕎麦で!」
「そうそうー! 近所の蕎麦屋も大晦日は年越し蕎麦の一品扱いで!」
思わずきゃあきゃあとはしゃいでしまう。その内容が年越し蕎麦ってのが些か渋いチョイスだけど、先ほどまでの空気の反動か声がうわずってしまった。
そしてそのまま、年末年始の食事事情について盛り上がってしまう。おせちがどうだとか、餅や雑煮はどうとか、三日目くらいにはカレーが食べたいとか……。
暫くはしゃいだ後、ふと会話が途切れたタイミングで二人の表情が少し落ち着いて、そっと笑みを浮かべる。
「今年も楽しかったですね」
「……そうね。初めてこの世界に来たときは色々考えたけど、今やここが自分の居場所だって思ってるわ」
「はい、私も同じです。それに……」
「ええ……」
二人共そっと左手を顔の前にかざす。そこにはクリスマスの夜にはめてもらった指輪がはまっており、窓からの日差しを受けて輝いている。
「新しい居場所も作ってもらったし」
「はい、そうですね」
笑顔を交わし、そして同時に自分の指輪をそっと手で包み込む。そうすると、どこか心が安らぐような気がするのは多分気のせいじゃない。
それから私達は、日が暮れて夕食になるまでずっと他愛ない話をしていた。
のんびり、だらだらと。
これで除夜の鐘があれば風情があったのに……なんて軽口をたたきながら。
──そして、新しい朝が来た。新年の朝。
さすがにこの世界では前世の伝統的な年越し特番なんてものはないので、大晦日であっても皆普通に就眠した。まぁそうじゃないと年明け最初から寝不足で、王城へ出向いたときに大あくびしまくりとか、貴族にあるまじき状況にもなりかねない。
朝食を終えて、私達も王城へ向かう準備をする。新年ということで侯爵家の者として挨拶に行くのだ。
皆それなりの格好をするのだが、特に私とマリアーネは普段よりも少々豪華な感じのするドレスを身に纏う。種明かしをするとこれは今日のため、王家より送られてきたものだ。……もっと種明かしをするなら、私のはアライルが、マリアーネのはアーネスト殿下からの贈り物らしい。
そんな中、一つ素敵な気遣いがあった。贈られたドレスには手袋もあったのだが、その際指輪はネックレスに出来る鎖が同梱されていた。
実は指輪を頂いた翌日にマリアーネと、三学期になり学園へいる間は指輪をどうしようか……という話をしたところだった。私達が無理を通せば指輪の着用は許可してもらえるだろうが、そんな我侭を押し通す聖女というのは如何なものか。そんな訳で学園では、指輪をしまう小箱を持ち歩こうかと思っていたのだが、結果ネックレスとして目立たないように身につけることになった。
幸いにも、変に目立たないネックレスならば着用していても問題ないらしい。指輪やブレスレットとかだとどうしても目に付くからダメっぽいけど。
そんなわけで、今私とマリアーネは互いの婚約者から送られたドレスを着て、互いの婚約者の想いをこめた指輪をネックレスにして首にかけている。
「ははっ」
「ふふっ」
思わず声を漏らして笑ってしまう。その様子を家族は「?」という顔で見ているが、こればっかりは私とマリアーネ、二人にしかわからない。
……いや、もしかしたらもう二人ほど、わかってくれるかもしれないわね。
「「「「いってらっしゃいませ」」」」
私達も馬車に乗り出発する。普段なら両親との同行であれば、私の専属であるミシェッタやマリアーネの専属であるリメッタはお留守番となる。
だが今回は着ているのが殿下二人から送られた特注品なので、私達の専属である二人も同行することになった。
といっても、多少例年よりも服装が豪華になってるくらいで、やることは大してかわらない。
──そう、思っていたんだけど。
「レミリアさん! マリアーネさん! ようこそいらっしゃい!」
「わっ!?」
「えっ!?」
城へ到着し、では挨拶へ向かわねば……と思った瞬間、がばっと抱きしめられて大歓迎の言葉を向けられた。
だが、私もマリアーネもこの声には聞き覚えがある。というかこれって──
「「女王陛下!?」」
慌てて抱きしめてくる人物を見ると、紛れも無く女王陛下その人である。驚きに染まる私達をみて、ニコリと場違いな上品スマイルを浮かべると、
「もう、お義母さまって呼んでくれていいのにっ」
「あ、いや、それは……」
「まだというか、その……」
楽しげにいう女王陛下に、私もマリアーネも困惑の感情が振り切れてしまいそうになる。そんな様子を傍で見ているはずの家族も、さすがに相手が相手なので声をかけづらい状況らしい。
「母上、お二人が困っております」
「まったく、大丈夫か二人とも」
「「あっ……」」
かけられた声に視線を向けた私達は、思わず声を漏らす。出した声は同じだったけど、それぞれ向けた相手は異なっていた。
そこに居たのはアーネスト殿下とアライルだった。
「……まったく。嬉しいのはわかりますが、落ち着いて下さい」
「だって……折角二人が貴方たちの婚約を受けてくれたんですもの。こんなに嬉しいことは無いわよ。ねー?」
「「ははは……」」
かわいらしく「ねー?」と小首を傾げられるが、それに「はいっ」と答える度胸もなく、私達はなんとなく笑いが漏れてしまう。
女王陛下は最初にガーデンパーティーでお会いした後、年々距離が近くなって親しみを覚えていたが、今回の両殿下──女王陛下にとっての息子との婚約は、これまで以上に近しい関係の構築として受け入れてもらえたようだ。
とはいえ、相手は女王陛下。自分たちがたとえ聖女であっても、性根の部分で超VIPとド平民という格差がまだあるのも事実。どうしましょうかねぇ……と思っていると。
「ははは、ともかく一度落ち着け。……フォルトラン侯爵よ、変わりないか」
「はっ、此度の心遣い感謝いたします。国王陛下もお変わりなく」
アライル達の後ろから、ついには国王陛下まで出てきた。さすがにお父様はすぐさま応対し、お母様やお兄様もすぐさま頭を下げる。私とマリアーネもここに来て、ようやく慌てて頭を下げた。本来なら女王陛下にも下げるべきだったが、あんまりの展開で行動がすっぽぬけてしまっていたのだ。
「皆、頭をあげてくれ。それに今後は、今までよりも親密な間柄となるのだから。……なあ、そうであろう?」
ニヤリとニコリの中間的笑みを、私とマリアーネに向ける国王陛下。
うわぁ~……結局、相手のグレードが上がっただけで状況がまるで変化してないし。
「「は、はははいぃ……」」
少しばかり疲れた私達の返事っぽい笑い声が、静かにもれていった。
どうにも、この親にしてこの子ありってヤツかしら……はぁ。
つい先ほど、一番好きな悪役令嬢モノである「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」のアニメを見ました。とても丁寧に作られており、やはり私はこの作品好きなんだぁと実感しました。