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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第七章 冬休み ~レミリア15歳~
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128.報告 そして 大切なもの

4/3更新分は4/4に投稿致します。

 明けて翌日、慣れ親しんだ朝食の風景なのだが、どうにも居心地が悪い……というか、戸惑いが生じている人物が二人。

 言わずものがな、私ことレミリアと妹のマリアーネだ。

 この二人に昨晩から今朝にかけて共通していることは、普段は家族で過ごすクリスマスを途中から異性と過ごしてしまったこと。そして──


「「「………………」」」


 両親とお兄様の視線が私たちにむけられる。正確には、私たちの左手の薬指……そこにはめられた指輪に。

 それを見る三人の目は、非難とか困惑とかそういった類の感情は一切なく、どこか優しく見守る中にちょっとだけ楽し気な色合いが垣間見えている。

 ちらりとマリアーネを見ると、丁度あっちもこちらに視線を向けてきた。

 いずれにしろ詳細は話さないといけないことだ。なので私達は小さく頷き合い、三人に顔を向ける。


「お父様、お母様、お兄様。お話があります」

「…………うむ」


 私の言葉にお父様がうなずく。残り二人も声こそださないが、同じように頷く。


「すでにお察しかとは思いますが──」

「私達はこのように──」


 先ほどまで無意識にかばう様にしていた左手を、すっと前に伸ばす。それにより、三人の視線はよりしっかりと私たちの指輪へと注がれる。


「私はアライルからの婚約を──」

「私はアーネストからの婚約を──」


 そこまで言って少し気持ちを落ち着かせる。そして、


「「──お受けいたしました」」


 はっきりと口に出して伝えた。ただそれだけだが、どこかつっかえが取れたような気持になる。おそらくはマリアーネも同じだろう。


「…………うん、わかった。おめでとう、レミリア、マリアーネ」

「おめでとう二人とも」


 お父様とお母様が祝福の言葉をくれる。そしてお兄様は、


「おめでとう……と言うか、ようやくと言うべきか」


 お祝いを口にしながらも、どこか皮肉ったような事を言ってくる。確かに私もマリアーネも、お互い殿下から婚約を申し込まれたままここまで来てしまっていたから無理ないが、「それならお兄様はフレイヤとはどうなんですの?」などと藪をつつくような事はしないでおく。……今日だけですよ。

 とはいえこちらも他に何を話したらいいのかという感じだったが、それを感じてお父様が一旦話を締めくくる。


「とりあえずまずは朝食をいただこうか。聞きたいことも話したいこともまだあるだろうが、そう焦ることもあるまい」

「ですわね。なんせ殿下からしましたら、とても気長に待たれておりましたから」


 私たちが殿下に会ったのは12歳のデビュタントで、そのすぐ後に私はアライルから婚約を申し込まれた。それはそのまま保留をして、昨日まで維持してきたのだった。

 マリアーネの方は、14歳の時──期間にして一年ちょっと前くらいに、アーネスト殿下から申し込みがあった。どちらにせよ、年またぎで王族からの婚約申し込みを保留するというなかなかの暴挙をしていた。

 だが結果として二人とも、クリスマスの夜に申し込みを受け入れてしまった。お互い予めそういう(・・・・)話があれば……との約束だったが、やはり前世の記憶持ちの私達に“クリスマス”というのは、恋愛関係にとって根強いファクターだったのだろう。


 なんにせよ今私とマリアーネの指には、互いが心を許した相手を思わせる輝きを持つ指輪がはまっている。

 それが、何よりも雄弁に物語っているのは事実だ。






 いつもより少しばかり長めの朝食を終え、私は自室へと戻ってきた。といっても、特にすることなく手持無沙汰になり、気付けば指輪をそっと指で撫でていたりする。

 そんな事を数回繰り返しているうちに「いかん、なんだか恋愛初心(うぶ)な乙女みたいだ!」という気持ちになり、それならばきっと……とマリアーネの部屋へ。

 ドアをノックすると、


「っ! は、はいっ」


 上ずったような声が返ってきた。なんとなくだが、彼女がどんな心境なのか手に取るようにわかる気がした。おかげで少しほっとして、私は多少落ち着きを取り戻す。


「マリアーネ、私よ。入ってもいい?」

「レミリア姉さま!? は、はいどうぞ」


 了承が得られたのでドアをあけると、ほんのすぐ目の前にマリアーネがいた。そういえばドア越しだけど、声が近い気がしたわね。


「えっと……どこか行こうとしてたのかしら? それなら──」

「あっ、大丈夫です。私もレミリア姉さまの部屋へ行こうとしていたので」


 なるほど、そういうことか。要するに私もマリアーネも、今の状況で一人でいるのはちょーっと落ち着かないので、ならば同志を……という事だったと。

 その事に二人して気づき、軽く苦笑いを交わしたのち私は部屋の中へと入った。


 家にいる時も学園の寮でも、大抵は私の部屋にマリアーネが来ることが多い。なのでこうやって自分の部屋じゃないというのは、見知っている部屋ではあるが微妙に落ち着かない感じがする。

 だが今の私達は、それ以上に落ち着かない案件がある。


「……とうとう、婚約しちゃったわね」

「ですね……」


 別に悪いことはしてないし、むしろ明るい話だとは思うのだが……色々と先の事を考えると単純に楽観視できるのかという気持ちもある。

 その反面、これまでのお互い相手との繋がりを感じ、予想していたようなゲームの結末を迎えることはないと思う考えもあった。


「……でも」

「ん?」


 ポツリと言葉を漏らすマリアーネに、少しばかり思考していた私の意識が呼ばれる。


「でも、これでよかったと私は思います」

「…………そうね。うん、私もそう思う」

「はい。だってレミリア姉さま、どこかホッとしたって顔してますもん」

「えっ! そんなに? 私わかりやすい?」


 別にポーカーフェイスをしてたつもりはないけど、安心感が顔に浮き出るようなことはなかったと思っていたので、思わず手で両の頬をおさえてしまう。


「そうですね……多分、私を含め家族と屋敷の使用人以外にはわからないかな?」

「ねえ、それって昨日から今朝にかけて顔を合わせる人全員よね? なんだか無性に恥ずかしいのだけれど」


 前世も含め、恋愛というものにここまで正面から向き合ったことがないのよね。だから今の自分がどうなってて、これからどうすべきかもよくわからない。

 でもそんなだからこそ、マリアーネが教えてくれた今の私の姿は気持ちを如実に表しているのだろう。


 ゲームのバッドエンドを回避するという目標は変わらない。

 だけど、そこへ至る経過を物理的に遮断する『婚約拒否』ではなく、きちんと気持ちを尊重したうえで立ち向かうと決めたのだ。


「私も、今後はアライルに嫌われないようにしないとね」

「くすっ、レミリア姉さまがなさることならきっと何でもアライル殿下はうけいれてくれますよ」

「そうかしら」

「はい。むしろここで大人しくなってしまったら『具合でも悪いのか?』と聞いてくるんじゃないですか?」


 あはっと笑いながら、ちょっと失礼なことを言うマリアーネ。この気持ちの余裕さも、きっと彼女も婚約を受け入れたことによるものだろう。


 …………あ。

 そういえば私、一つマリアーネに聞きたい事あったんだった。


「ねえマリアーネ、ちょっといいかしら?」

「はい、なんですか?」

「朝食の前にお父様たちと話をした時……あの時あなた、アーネスト殿下のこと名前で呼び捨ててなかった?」

「は、はい。そのアーネスト……にそうお呼びしたいと申し出て……」

「おお~っ!」


 そういって顔を赤くしてもじもじするマリアーネ。おそらくそのやりとりをした時の事を思い出しているのだろう。

 それにしてもマリアーネからお願いしたのか。なんかちょっと意外だなと思ってたら、こちらを見ながら。


「その……レミリア姉さまがアライル殿下と、お互い名前だけで親しく呼び合ってるのを見て、うらやましくて……」

「あ、あら? そうだったの?」


 話題の起点、矛先がこっちにやってきた。私の場合も、最初はアライルが「呼び捨ててくれ」と言っていたのを、いつしかそれを自身でも望むようになった結果だ。そうすることで自分の中の気持ちを、ある程度満足させていたというのもあったと思う。

 彼の……アライルの隣には私よ、と。でも、この気持ちを傲慢で塗りつぶしてはダメだ。そうなってしまうと、きっとよくない未来になってしまう。


「この気持ちを、大切に」

「はい」


 私の言葉で言いたいことは伝わったのだろう。

 マリアーネも迷うことなく、しっかりとうなずいてくれた。

 そして、また二人で顔を見合わせて笑みをこぼす。


 そんな私たちの指輪にはまった宝石は、窓から降り注ぐ日差しを受けてキラリと輝きを煌めかせた。

 互いの言葉をうけとめてくれる、想い人の瞳と同じ色を醸し出しながら。


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