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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第七章 冬休み ~レミリア15歳~
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126.変わる考え そして 変わらない想い

 15歳のクリスマスの夜──(わたくし)レミリア・フォルトランは、第二王子アライル・フィルムガストと婚約をした。




 以前、私はマリアーネと『この世界では平穏無事を望む』という方向性を決め、ゲームでいう所の“バッドエンド”を避けるべく、お互い殿下との婚約は回避しよう……という話をしていた。

 だがある日、それについての考えを改めることとなった。それは学園祭があった日の夜のことだった。




 私もマリアーネも、何故だか二人きりで話をしたいと思った。なので部屋にマリアーネを呼び、ティアナはその日、フレイヤ達の部屋で睡眠を取ることにしてもらった。幸いにも学園祭の翌日は休校となっており、じっくりと話す為の時間は十二分にあった。


 少し窮屈だけど、私のベッドに二人で寝そべる。昔から二人だけで内緒話をするときは、ずっとこうして来たから。こうするのが当たり前で、落ち着くし、何より素直に話ができるような気がする。


「マリアーネ、今日はお疲れ様」

「レミリア姉さまこそ、お疲れ様です」

「……ふふっ」

「ん? どうかしましたか?」


 ふいに笑う私を見て、「?」という表情を向けるマリアーネ。


「ちょっと色々と思い出してね。今日の事もだけど、過去の──前世での学園祭とか、そういうのを」

「あー……私もです。私の学校では文化祭でしたが、その後夜祭でやっぱり飾りとかをファイヤーストームで燃やしてました。さすがに教師がつきっきりで火の管理をしてましたけどね」

「だよねー。こっちだと魔法でその辺りは抜かりなく対応できちゃうけど」


 燃え盛る火も消火用の水も、ここでは魔法で簡単に制御できる。とはいえ、学園祭の締めくくりとして燃え盛る炎は、何処か心に思い出を刻む目印にはなったと思う。


「……それでマリアーネ、今日はアーネスト殿下とはどうだったの?」

「そうですね……途中少し抜け出した時、占いの館へ一緒に行ったり、殿下のクラスの出し物のプラネタリウムを見たり……」

「楽しかった?」

「はい、最高でした!」


 満面の笑みをごく至近距離で炸裂させるマリアーネ。その微笑は異性なら誰しもが引き込まれそうな幸せそうな表情だ。

 元々マリアーネはゲームの主人公(ヒロイン)として人を惹き付ける容姿をしていたが、今の気持ちが篭った表情はゲーム画面からは絶対に感じ取れない魅力があった。

 だからこそ、私も決断しなくてはいけない。彼女のその気持ちに対して。


「ねえマリアーネ」

「はい」

「アーネスト殿下からの婚約、受けてもいいわよ」

「えっ…………」


 私の言葉にマリアーネが絶句する。おおぅ、ポカーンとした表情もなんだかかわいいわね。写真文化があれば、撮影してアーネスト殿下にあげれば大喜びするかも。

 などという生産性のないことを考えていると、しばし固まっていたマリアーネがハッとした表情でわたしにつっかかってくる。


「ど、どうしたんですかっ? だって、その……ゲームと同じ道をたどらないようにと、私達は殿下──というか、攻略対象をはじめとする異性との婚姻関係は、行わないという話だったではないですか!」

「ええ、そういう約束だったわね」


 どこか焦りや驚きを感じさせるマリアーネを見て、逆に私はいたって平静な感じで返答する。


「でもこれまでの流れを見るに、もうゲームの世界とは随分と違う関係性が構築されていると思うのよ。何より、ヒロイン(あなた)悪役令嬢(わたし)の関係が全然違うもの。ゲームと違い貴女が想いを向けるアーネスト殿下は、別段私と婚約を結んでもいないし、今後もそういった話は起きることもないわ」


 ゲームではヒロインが懇意にする攻略対象に、何故だか悪役令嬢が婚約をあの手この手で結ばせるという結構無茶な設定が存在する。そのあたりは“いかにもゲーム!”という感じだが、これが現実問題だと裏でいろいろ危うい取引とかしてるんだろうか。


「もし学園祭の時、既に貴女とアーネスト殿下が婚約しているのなら、もっと気をきかせて二人で過ごす時間も増やせてあげたでしょう。それに折角の学園祭……特にアーネスト殿下は三年生なのだから、二人一緒に過ごせる最後の学園祭だったのに……」

「そう、ですね……」


 マリアーネが少しさびしそうに私を見る。きっと私の言葉で、学園で一緒に過ごせる期間は一年……そして、既に半年は過ぎ去ってしまったことを感じ取ったのだろう。


「だからマリアーネ。きっと殿下は、言葉にはされなくてもずっと心待ちにしているわ。だから、もし今度そんな雰囲気になったら……迷わず婚約を受け入れていいわよ」


 そういってそっとマリアーネを抱きしめる。


「私の我侭で、いままで……御免なさい」

「レミリア姉さま……」


 私の抱擁に応えるように、マリアーネも優しく、でも強く抱き返してくれる。“ゲームと違って婚約しなければ悪い未来を払拭できるだろう”……そんな安易な考えが、マリアーネにさびしい思いをさせてしまった。

 しばらく抱きしめあったあと、その手をほどきお互いの顔を見る。どこか目が潤んでいるように見えるのは、おそらく見間違えじゃないだろう。


「……わかりました。私はアーネスト殿下をお慕いしております。なので、もし次にそのような機会がありましたら……」

「うん、がんばってね」

「はい」


 そういって笑顔を返すマリアーネは、やはり綺麗で……愛おしかった。この世界の寵愛を一身に受けている、といわれても納得してしまいそうだ。

 だが、そんな笑みを浮かべるマリアーネが、どこか毛色の違う笑顔を浮かべて私を見てきた。


「……それでレミリア姉さま。ちょっといいですか?」

「え、ええ。いいけれど……どうしたの?」


 付き合いの長い私だからよくわかるが、その笑みは親愛とかではなく、何かしらを画策しているときのマリアーネの笑みだ。ぶっちゃけると、なんか企んでる!


「私が殿下の申し出を受けてよいのであれば、当然お姉さまも同じですよね?」

「は? な、何を言ってるのかした?」

「あれ、聞こえませんでしたか? 私がーアーネスト殿下からのー婚約をー受け入れるならー、レミリア姉さまもーアライル殿下からのー婚約をー受け入れるべきだとー──」

「な、ちょ、ちょ! 何でそうなるのよ! ってゆーか、何その言い方! 貴女この世界でそんな物言いしたことなかったでしょ!」

「はい。さすがにちょっと照れくさいので、少々バカっぽくしてみました」


 しれっと言うマリアーネだが、自分もアーネスト殿下からの婚約を受け入れる……という発言に、幾分頬が赤くなっているようだ。

 対する私はというと、相手の状況分析はできるのに、自身がどういった心境状態なのかがうまく把握できないといった所だ。

 そんな私にマリアーネが言葉を向けてくる。


「……アライル殿下の事、好きですよね?」

「それは…………」


 ふいにかけられた言葉に、どう返事をしていいのか困惑して口を噤む。

 アライルのことが好きかどうかと聞かれれば、多分……いえ、絶対に好きだと確信がもてる。それは、私が唯一名前を呼び捨てている異性だという所にも、如実に現れていると思っている。

 そしてそれは、同時に周囲へのアピールをしていることも、私自身は卑しくも自覚していた。私と彼──アライルは、こんなにも親しい仲なのだ……と。

 彼からの婚約の申し込みをされながらも、それを保留しておきながら自身の保身ともいえる行いをしていた。それを、自分の未来のためにといういいわけで、見て見ぬ振りをするような過ごし方をしてきてしまった。

 でも、それもそろそろ終わりだ。だって──


「……うん。私はアライルの事、好きよ。大好き」


 言葉にしてみると、自分の発言なのにどこかストンと着地するような感覚をうける。これが俗に言う『腑に落ちる』というヤツなのだろう。昔の人は本当にうまい事言う。

 そんな私の言葉を聞いたマリアーネは、浮かべていた何処か狡猾な笑みをすっと優しげな微笑にかえる。

 ……なのに。


「ですよねー! レミリア姉さまのはっちゃけた行動、ここまで愛想尽かさずむしろ擦り寄ってくる人なんてアライル殿下くらいですよねー!」

「えええ~っ!? マリアーネ、貴女ってばなんて事を……」

「いやー、ぶっちゃけここまでじらしプレイというか、鈍感スタイルというか……見ててアライル殿下のいじらしさに悲哀の涙を禁じえませんよ」

「そんなに? ねえ、私ってそんなに?」


 そりゃあ確かにずっと婚約を保留してたし、まだ碌すっぽ親しくもない時点でいきなり頬を(はた)いたり、なんだかんだでフォローを期待してたりするけど。

 ……あれ? 私ってば、よく愛想つかされてないわね。もしかして、見えない所でゲーム補正みたいなので、私とアライルが一緒にいるだけってことないわよね?

 そんな不安が顔にでていたのか、マリアーネがクスッと笑って私の頬を両手で軽くぺちっとはさみこむ。


「ふふっ、大丈夫ですよレミリア姉さま。アライル殿下も、こーんな面白い人そう簡単に手放したりしませんって」

「…………なんか、褒められてる気がまったくしないんだけど」


 少し剥れる私の頬を、やさしくぐにぐにとした後、その手で今度は私の両手を優しく握ってくれる。んー……こういう所は、やっぱり光の聖女よねぇ。


「大丈夫ですよ、レミリア姉さまは私の自慢のお姉さまなんですから」

「……ありがとう。マリアーネみたいな自慢の妹を持てて光栄よ」


 握られた手を解き、そのまま互いの指を組みように手を繋ぐ。ただそれだけだが、何とも穏やかでな気持ちが沸いてくる。

 私の視線とマリアーネの視線が互いを見る。そして一緒に笑みを零す。


「「あなたに会えて、よかった」」


 自然に出た言葉は私達の素直な思い。

 今後も変わる事のないごく当たり前で……特別な日常の一幕だった。


 そして、私は──




昨今の情勢より、忙しい最中ながらも土日は仕事を休むようにとのお達しを受けました。なので久しぶりに休日を取り執筆しております。出来ればここで少しは書き溜めたいと思っております。ここ最近は更新が滞っており申し訳ありませんでした。

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