124.家族とディナー そして お客人
教会でのクリスマスのミサは、普段よりも受け口が広く設けられており、内容も万人にわかりやすいようになっている。もちろん普段行うミサの方も誰が来てもよいのだが、ことクリスマスの時は『聖なる日』ということで大勢の参拝者が訪れる。
そしてさらに、今年は聖女である私達が正式に発表された事もあり、それならば教会に来れば会える……と予想された人達により、例年より更に多くの人がやってきた。
そのため──
「レミリア、賛美歌の歌詞カードが足りなくなりそうですが……」
「確か孤児院の応接間に沢山あるから取ってきて!」
「マリアーネさん、この子迷子みたいなんですけど……」
「えっと、その子は確か街の屋台の──」
こんな感じで、普通にミサに参加しにきたはずのフレイヤとティアナが、早速教会のお手伝いとして働いている。といっても元々そのつもりだったようで、動きやすいが暗めの服に身を包んできており、ワンポイントとしてロザリオを架けた服装をしている。
そんな彼女たちと協力して作業を進めているうちに、いつの間にかお昼もすぎていたようで、いったん休憩をと司祭様から言われてしまった。これで私達が休まないと、司祭様やシスターエミリー、そしてお手伝いをしている孤児の皆も休めないので、言葉に甘えて休むことにした。
とりあえず孤児の中では、シスターになりたいというユミナちゃん以外は、私達と一緒に休みをとることになった。ユミナちゃんはシスターエミリーが大好きなので、当然今日なんかは終始行動を共にしているっぽい。
ととっ、私の腰にエリサちゃんが笑顔で抱き着いてきた。
「それじゃあ少し休憩ね! 孤児院に戻ってお昼を頂きましょう」
「はーいっ」
元気に返事をするエリサちゃん。他の子もマリアーネたちと一緒に孤児院へ向かう。そして中に入り食堂へ行くと、ミシェッタとリメッタが丁度よいタイミングで食事の準備をしていた。その手際よい働きぶりにまた目を輝かすエリサちゃん。
「あのっ、なにかてつだえること、ありますか?」
「……では、テーブルにお皿を並べるのをお願いできますか?」
「はいっ」
手伝いを申し出ると、ミシェッタより皿の準備をして欲しいといわれ元気よくお手伝いをするエリサちゃん。もしかしたら、思ったより早く家で雇う話とか出てきそう。
「最近のエリサは、孤児院の中でも色々と役立とうと頑張ってるんですよ」
「へぇ……」
そう私に教えてくれたのはルッカちゃんだ。孤児院女子組の年長で、いわゆるみんなのお姉ちゃんポジのまとめ役の子。彼女はマリアーネに憧れをもっており、こうやって私と言葉を交わすことは比較的珍しい。つまり、それほどにエリサちゃんの頑張りを私に話しておきたかったのだろう。
「教えてくれてありがとうね」
「はい」
まだまだ先だろうけど、この先もエリサちゃんの気持ちが変わらないなら、ちゃんと考えてあげないといけないかもしれないわね。そんな事を考えてじっと見ていると、私の視線に気づいたのかこっちを見てニカッと笑った。うんうん、今は元気が一番。
そうこうしている間に、準備も終わり昼食となった。先程までの教会が持つ一種特有な神聖さ──特に本日はクリスマス効果も相まって色々と気を張っていたのだろう。食事時は皆余計な力も抜け、思い切り和やかな感じとなった。
ちなみにメインディッシュは家からもってきた七面鳥だ。ちゃんとお父様に話を通して、孤児院の皆にと持ってきたのだ。コレがあったからこそ、ミシェッタ達には教会の手伝いではなく孤児院での食事用意に専念してもらっていた。
無論皆も大喜びで食べてくれた。ちゃんと司祭様やシスターエミリーやユミナちゃんの分は別にとってあると言うと、テーブルに乗っている分はあっという間になくなってしまった。いやはや、すっごく気持ちの良いなくなり方だったわね。
食事を終え、少しばかり休憩をした後に休憩を交代。といっても司祭様はさすがに長時間席を外すことはできないので、ミサにこられた方たちを総入れ替えしているタイミングで、食べやすいようにとサンドイッチを持ってきた。もちろんクリスマス仕様で中にターキーブレストスライス──七面鳥の胸肉ハムを入れてある。目立たないところで、ささっと食べてもらえたがとても美味しいとの言葉をもらえた。
そんな感じで気力も体力も補充し、教会のでのクリスマスミサは盛況のうちに何事もなく終了したのだった。
馬車に乗り帰路につく。
教会の周りが混雑することを鑑みて、私とマリアーネは同じ馬車に乗っている。もちろん専属の二人も乗車しているんだけどね。
ただ……これで家に帰れば、夜はそれこそ家族だけでのんびりと過ごすクリスマスとなるだろう。むろん屋敷の使用人達もいるのだが、こういう場合はそれを頭数には入れないものだ。
でもそうなると、一つだけ気がかりはある。
──そう。乙女ゲーム『リワインド・ダイアリー』におけるクリスマスイベントの発生だ。
この世界のクリスマスは『家族と過ごす』というのが一般的な形式なのだが、ゲームの中のクリスマスは、あくまでプレイヤーである日本人が馴染みやすい文化形式で成り立っていた。
なのでゲームの中のクリスマスは、家族ではなく恋人と過ごす情景が描かれていたのだった。実際のところゲーム内時間で二学期を終え、あとは休み明けの三学期で最終的なルートとエンディングが決まる……いわばその最後の前哨戦。ここでお目当てのキャラと過ごせないのならば、もはやこの先に進路修正はほぼ不可能……いっそリセットしてやり直せ的なジャッジメントイベントである。
その事については予めマリアーネには話したのだが、結局何もそれらしい事が起きず杞憂となってしまっていた。
「レミリア姉さま、何もありませんね」
「……そうね」
心のどこかで一抹の寂しさを覚えながら、私達は何事もなく帰宅した。
少し休んだのち、今年のクリスマスの締めくくりとして家族での食事をとった。何もなく……本当に何事もなく過ぎゆくクリスマスを、何か釈然とないまま送ろうとして──
「旦那様、ご予定の客人が到着なさいました」
「わかった、こちらへ通してくれ」
「畏まりました」
……ん? 客人? このクリスマスに?
「あの、お父様?」
「お客人とは一体……?」
私とマリアーネが一つの疑問を連分割で問いかける。だが、お父様がその質問に答える前に、ドアが開いて客人が入ってきた。それは──
「本日は私どもの無理を聞き入れて頂き感謝する。改めて……こんばんはマリアーネ」
「同じく感謝する。こんばんは、レミリア」
「「ええっ! で、殿下!?」」
クリスマスの夜、厳かな雰囲気に包まれた空気は一転……私とマリアーネの驚いた声が屋敷に響き渡った。
今年のクリスマスは……まだ終わりじゃなさそうね。
まだ暫く投稿時間が不定期になる日が続きます。