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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第七章 冬休み ~レミリア15歳~
123/153

123.クリスマス そして 賛美歌

 魔法学園に入学をして初めての冬休み。

 そして同時にその日はクリスマスでもあり、この国の人々は一部の人々を除いて全員が休日となる。一部の人というのは、クリスマスを家族で過ごす人達のために食事などを提供する人達だ。前世の日本でたとえるなら、ケーキ屋さんとか某フライドチキンのお店とかだね。そういった大晦日の蕎麦屋的な店以外は、右に倣えでお休みになっている。


 そのため学園の寮にいる生徒たちは、前日の午後からすでに帰路についており、クリスマス当日は自分の家で朝を迎えるものが大半だ。私やマリアーネもその一人で、今年もクリスマスの朝は自宅で目覚めた。

 お休みではあるがグータラしてはいられない。クリスマスなので午前のうちに教会へ行き、ミサに参加しておかねばならないのだ。着替えを済ませ朝食のためリビングへ行こうと部屋を出ると、丁度同じように出てきたマリアーネと顔を合わせた。


「おはようマリアーネ」

「おはようレミリア姉さま」


 簡単に挨拶をして一緒にリビングへ向かう。途中この世界のクリスマスやイブについての雑談をしながら到着。そこにはすでに、両親とお兄様はテーブルについていた。


「「おはようございます、お父様、お母様、お兄様」」


 私たちの挨拶に両親とお兄様からもおはようの挨拶が返される。う~ん、なんだか久しぶりの我が家って実感するわね。私たちも、この家でのいつもの席にすわる。

 長テーブルを挟んでお父様とお母様側と、お兄様と私とマリアーネの子供側だ。こういう場合、家長であるお父様はテーブルの先端部に席を置きそうだが、


「そんなことしたらお前たちの顔がちゃんと見えないだろ」


 とおっしゃった。こちらでの食事作法としては、食事において会話をすることは逆に必要行為なので、相手をちゃんと見ることは大切なことだ。そりゃまあ家族だし、気心知れてるってレベルじゃないけど、それでもちゃんと言葉を交わすことは大切よね。

 なので今日もいつものように、食事をしながら会話をする。話題の中心はやはりどうしても学園生活になってしまう。なので私やマリアーネが話す側で、お父様やお母様が主な聞き手となる。お兄様はどちらかというと聞き手であり、私たちの話を楽しんでおりご自分の話はほとんどしない。

 でも私もマリアーネも、学園の事では話題はいっぱいある。結構しゃべったとは思うが、それでもまだまだ話題がある。食事も終わったが、続きを話そうか……と思っていたのだが。


「二人とも、そろそろミサへ行く準備をしたほうがいいんじゃないか?」

「あ、そうですね」

「わかりました」


 お兄様の言葉にはたと気付いて話を止めた。そうでしたわね、クリスマスなのだからミサへ行かなければ。そしてそのまま教会のお手伝いをする予定だ。

 両親とお兄様はもう少し後から来るそうだ。なんでも「二人が教会のお手伝いを始めた頃を見計らっていくよ」との事。くっ、報告しておかなくてはと話したのが裏目にでたわね……。

 悔やんでも仕方ないわ……教会へ行く支度をいたしましょう。






「あっ! 聖女さまーっ!」


 私とマリアーネが教会へ到着すると、私の馬車を覚えていたのかエリサちゃんが駆け寄ってきた。


「ふふ、おはようございますエリサちゃん。今日はよろしくね」

「はいっ! えっと……こちらこそお願いいたします」


 ニコリと笑って頭を下げるエリサちゃん。そのエリサちゃんだが、今日は教会のお手伝いをするという事で、黒いワンピースを着ていた。首から下げているのは……確かスカプライオといったかしら。身に着ける信仰のためのものよね。


「おはようございます聖女さま」

「あら、おはようございますユミナちゃん。その姿……」


 隣りでマリアーネにユミナちゃんが挨拶をしていたのだが、なにやら驚いたような声が聞こえてきた。なのでそちらを見てみると。


「まぁ! ユミナちゃん、それって……」

「はいっ、私の修道服です。本当はまだ早いのですが、神官様が特別にと……」


 少し恥ずかしそうにしながらも、どこか誇らしく答えてくれるユミナちゃん。かねてよりシスターになりたいとの夢があったが、今日はその夢への大きな一歩を踏み出せたことで嬉しいようだ。

 そんなユミナちゃんを微笑ましく見ていると、教会の建物から一人のシスターが少し慌てるように出てきた。あら、エミリーさんだわ。


「ユミナちゃん、エリサちゃんは捕まえられました──って、聖女さま!?」

「ふふ、おはようございますエミリーさん」

「おはようございます、どうなさったのですか?」

「あ、え、えっと……あ、おはようございます……」


 慌ててわたわたと挨拶をするのは、この教会の孤児院で育った見習いシスターのエミリーさんだ。見習いとはいえ、シスターがもう板についてきた感じかな。……今ちょっとあわてんぼうな感じだけど。


「その……教会の中でミサの準備をしておりましたが、急にエリサちゃんが外へ駆け出してしまいまして……。それでユミナちゃんが慌てて追いかけたので、どうなったのかと私も来たのですが」

「くすっ、そういう事ですか。エリサちゃん、どうしていきなり駆け出したの?」

「聖女さまのお迎えにきたのー!」


 そういうと、わはーっと破顔して私に抱き着いてくる。エリサちゃんは何故か私に懐いており、将来は私専属のメイドになりたいという夢がある。そのため現専属であるミシェッタに対しても、並々ならぬ尊敬を抱いてもいる。……それでいいのかエリサちゃん。

 しかし、本当に何故私がやってきたことに気付いたのだろう。疑問に思って聞いてみたのだが、


「ん~……わかんない、なんとなく!」


 という返答だった。ちょっとばかり気にはなったが、すぐさま教会のお手伝いへと意識が切り替わった私は、マリアーネと共に教会のミサの準備を始めるのだった。




 クリスマスのミサは、普段行うミサとは少し違っていた。やはりクリスマスという事でか、普段よりも多くの人がミサへと参加するのだとか。それはつまりミサに慣れてない方も多く参られるという事。

 そうなるとミサについて色々と、手順なり何なりを説明する必要が出てくる。説明などの仕事はエミリーさんにお任せして、そのお手伝いを私たちはする。中に入られた方たちへの大まかな説明などだ。

 そして暫くたった頃、ふいに隣にいたマリアーネが「あっ」と声をあげた。何かしらとそちらに視線を向け……私も同様に声を漏らしてしまう。なぜならそこには──


「お兄様とフレイヤにクライム様とティアナ……」


 てっきりお父様とお母様だと思っていたので、その光景には素直に驚いてしまった。


「ふふっ、おはようございますレミリア、マリアーネ」

「おはようございますレミリアさん、マリアーネさん」


 笑みを浮かべフレイヤとティアナがこちらにやってくる。その後ろを少し離れてお兄様とクライム様もついてくる。

 聞けば、お兄様達はかねてよりフレイヤとティアナの同行を計画していたとか。フレイヤはともかく、ティアナまでつれてきたのは驚いたけれど。じろりと睨むと、少しばかり汗をかきながら内緒にして驚かせたかったとの事。十中八九お兄様の発案ね。

 でも、だからといってここで騒ぐわけにもいかな。そんな事をしている間に、いつしかミサの時間となっていった。




 ミサが始まった。司祭様の話を聞き、お祈りを捧げ、讃美歌などを歌うのだ。私はすでにこの世界で、何度かミサに行ってるので慣れたものだ。じっくりと話を聞き、その後一緒に賛美歌を歌う。

 元々前世でも今世でも歌は好きで、折角なのだからと気持ちよく歌ってみた。隣のマリアーネも私と同じで、不謹慎だがちょっとしたカラオケにでも来たようにと、いっそ清々しく歌ってみる。

 まぶたを閉じ、朗々と歌い上げていたのだが……よくよく耳をすませば、いつしか教会内に響くのは私とマリアーネの声のみとなっていた。どうしたのだろう……そう思ってそっと目を開いたみると──


「これは──」

数多(あまた)の精霊──」


 私たち二人の周りに、色とりどりの精霊たちが浮かび、舞い踊っていた。

 沢山の光に囲まれた私たちに、そこに居たもの全員が目と心を奪われていた。

 そんな中、一番最初に声を発したのは。


「聖女さま、きれい……」


 エリサちゃんだった。そして、その声で司祭様も気持ちを持ち直して、こんな事を言い出した。


「今此処におられるお二人の聖女に、精霊たちが多くの祝福を授けて下さいました。皆様も、聖女様とともに祈りを捧げましょう」

「はい……聖女さま……」

「聖女さま……」

「ああっ聖女さまっ……」


 その場にいた人達が、みな一様に膝をついて私とマリアーネに祈りを捧げる。その光景に驚くも、その心情がわからなくもないと私達はそっと苦笑してしまう。

 私達自身にどれほどの力があるかわからないけど、皆の強く願う気持ちは紛れも無く本物なのだろう。その心意気に私もマリアーネも、いっそう強く心をこめた賛美歌を歌い上げるのだった。


 ちなみにエリサちゃんだが、どうにも他の人よりも精霊を感じる力が強いらしい。なので教会にやってきた私達に精霊が惹かれて出て行ったのを、なんとなく感じ取って追いかけてきてしまったそうだ。

 もしかしたら、エリサちゃんが専属メイドを目指すのって、ある意味大正解なのかもしれないわね。



ここから第七章となります。

まだ暫く忙しく、更新時刻が不規則に遅れたりいたします。ご了承下さい。

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