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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第六章 二学期 ~レミリア15歳~
121/153

121.信頼──いつしか強く育んで

 お兄様によると私に関する噂話……それは『図書館でレミリア嬢とヴァニエール先生が逢引をしていた』という内容だった。

 一体どこでそんなお話を……と聞いたところ、なんでもお兄様が入っている寮棟にて、昨晩噂になっていたとか。そういえば以前、入学したばかりの頃にもこんな感じで、お兄様から話を聞いたことありましたわね。

 とりあえずどう説明をしましょうか……そう思っていましたのですが。






「──つまり、噂は真実ではない。そういう事ですね?」

「「はい」」


 向けられた質問に、私とヴァニエール先生は迷いなく返事を返す。ここは学園の校長室であり、今私たちが話をしているのはその校長だ。

 要するに私とヴァニエール先生は、噂の真偽を確かめるべく校長に呼び出しを受けてしまったというわけだ。


 仮に噂の対象が私やヴァニエール先生でなければ、たかだか噂という事でこのような事にはならなかっただろう。

 だが、一人は聖女という肩書きを持つ人物、そしてもう一人は教師であり両殿下に魔法の師事をする人物、ともなれば学校側も無碍にはできなかったのだろう。

 そんな訳で校長室に呼び出され、同じように呼ばれたヴァニエール先生と共に、校長から話を聞かれているのだった。

 それにしても校長室に呼び出しなんて……前世の学生時代にも経験したことなかったわね。なんだかちょっとだけ新鮮だわ。


「……わかりました。あなた達二人の言葉を信じましょう」


 私達の話を聞き、しばらく考えたのち校長がそう言葉にする。それを聞いて私もヴァニエール先生も安堵の息が漏れた。だが、校長の言葉はそれで終わりではなかった。


「それでですね……もし差し支えなければ、昨日の事をお話願えませんか? お二人を見た人物が、そう(・・)勘違いをする程に親密に見えた……という事ではないかと思いまして。……ヴァニエール先生、あなたはレミリアさんとは親しいのですか?」


 んー……信じるとは言ってくれたけど、やっぱり気にはなるって事かしら。さて、先生はどう返事をするかしら。


「……彼女──レミリア嬢とは、特別親しい間柄ではありません。ただ、私が1-Aの副担任なので、余所のクラスの生徒よりは……という部分はあります。他にも、私は教会に併設されている孤児院に、以前より足を運んでおります。そこで以前、同じように孤児の世話に訪れていたレミリア嬢達に会いまして、そこで色々と話をした事もあります」

「ほぉ、あの孤児院ですか。レミリアさん、そうなのですか?」

「はい。私は以前より、妹や友人と孤児院へ足を運んでおります。そして先日の夏休み、私達が遊びに来ていた所へ、ヴァニエール先生もやってこられたました」


 確かそんな感じだったわね……と、夏休みの時のことを思い出す。ちょうど花壇をいじりながら、皆が『先生』って言って話題に出てた時に現れたのよね。


「ふむ……。わかりました、どうやらお二人とも節度ある交友の範囲で(とど)めておられるようですね」


 そう言った途端、少しばかり空気が張り詰めていたような校長室が幾分穏やかな感じになった。おそらく、校長が私達に対し何かしらの虚偽を見抜くような魔法でも展開していたのだろう。無論それに気づいたからといって、その事を問い正したりもしない。


「……話は以上です。二人とも、もう退室して結構ですよ」

「「失礼します」」


 もう一度しっかりと頭を下げ、私と先生は退室した。別に自分が悪いとは思っていないが、そういう風に勘違いされる行動をとってしまった責任はあると思ったからだ。


「ふぅ……少し遅れてしまいましたが授業に行きます」

「わかりました。……すみませんレミリア嬢」

「はい? 何がでしょうか?」


 ひとまず教室へと歩き出す私にヴァニエール先生が謝ってきた。何だろうかと思わず立ち止まってしまう。


「図書館での事です。本来は読書をすべき場所で、いくら楽しかったとはいえ夢中になって話し込んでしまうなんて……」

「あー……でもまぁ、それは私も同じですから」


 コレに関してはどちらが悪いとかではなく、両成敗というヤツだと思っている。私もついつい楽しくて話し込んでしまったのは猛省すべきところだ。


「ですが私は教師なのだから、生徒である貴女とそういった目で見られるような行為は慎むべきでした。申し訳ありません」


 そう言って深々と頭を下げる。本当にまじめな人だ。


「頭を上げてくださいヴァニエール先生。先ほども申しましたように、私にも過分に非があるのです。ですから今しがた、仲良く校長に怒られたのではありませんか。ですので、今後同じような失敗をしないようにする……そう心に留めておくことこそ、一番の反省ですわ」


 私の言葉を聞き、驚いたように頭をあげてこちらを見るヴァニエール先生。


「ともかく、この話はこれで終わりですわ。では、私は戻ります」

「あ、ああ。呼び止めてすまなかった」


 最後にもう一度軽く会釈をして、私は教室へと戻っていった。






 教室へ戻ると一瞬視線があつまりドキッとする。だが先生の「早く席に着きなさい」という言葉に、あわてて私は着席した。

 その後は特になにかがあるでもなく、ごく普通に授業が進行された。だが、何故だか怖くてアライルの方へ視線を向けられなかった。いやいや、別に私なにもしてないよ。


 そんな、心ここにあらず気味な感じで授業は終わった。先生が教室を出ていくといつもの空気に……ならない。うん、わかってる。皆して、ものすごい私を見てるのよね。

 こうなるとさすがに原因は私で、呼び出された件だろうなぁとは察してる。けど、それをどうすればいいのかしら。前にでて「誤解なんですよ!」とでも言えばいいの?

 そんな風に戸惑っている、一人の生徒が立ち上がった。……って、アライル!?

 そしてそのままこっちへ歩いてくる。うう、なぜか顔が見れないので、座ったまま少しうつむいてしまう。そうしている間にも、アライルは私の席の前に立つ。


「……レミリア」

「ふえっ! は、はいっ」


 ちょっと間抜けな声をあげて返事をしてしまい、反動で思わず顔を上げてしまった。その視界にうつるのは、どこか呆れたような顔をするアライルだ。


「どうにも教室の空気がおかしい。さっさと、どうにかしてくれ」

「あ、うん。えっと……その、ね?」


 落ち着いた態度のアライルを見て、どこかしどろもどろになってしまう。原因は私なんだろうけど、どうしたらいいのやら……なんて思っていると、アライルがすっと手を私の方へ伸ばしてくる。そして──


「ほれ」

「うぐっ!? い、いったあああ~っ!?」


 唐突におでこに痛みが走る。って、何よ!? アライルってば、今私にデコピンしたの!? 何故やったし!

 怒りよりも驚きが勝ち唖然としてしまった。そんな私をみて、どこか楽し気に……でも、なぜか優し気な笑みを浮かべるアライル。


「らしくないぞレミリア。普段のように、何があろうが私が正しい! みたいに踏ん反りかえっていればいいだろうに」

「なっ……別に私は普段そんな風には──」


 言いながら教室ないをぐるっと見渡してみる。そこには「でしょ、皆?」という気持ちが乗っかっているのだが。


「…………なんで皆、微妙に目をそらすのかしら?」


 さすがに憮然とした態度が顔に出てしまう。なによ皆して、私をそんな風にみてるっていうの!?


「もぉー! 私、そんなに我儘? 自己中心的? 唯我独尊なカンジ!?」

「くすっ……レミリア姉さま、最後のは皆さんわかりませんわよ」

「ですね。でも、多分そういう事だというのはわかりました」


 マリアーネのありがたくないフォローと、ティアナのもっとありがたくない追言が私に突き刺さる。


「……ハァ、もういいわよ。ともかく、妙な噂が流れてるみたいですが、事実無根なのでお間違えのないように。相手方にもご迷惑ですので、面白がって吹聴しなようにして下さいね。はいっ、おしまい!」


 言い切っておもいきり柏手を打ち鳴らす。すると何故だが拍手をされた。なんで?

 でもまあ、教室の空気は何時もの状態にもどってくれた。チラリとアライルを見ると、こちらも普段の笑顔だ。


「ふー……。ん、んんっ、アライル、ありがとうございます」

「何、気にするな。それに……」

「それに?」


 何? と問う私に、なぜかニヤニヤ笑みを浮かべるアライル。


「俺も以前、何度か叩かれたしな。くくくっ……」

「うぅ……」


 笑うアライルを見て妙に気恥ずかしくなる。

 だけど……うん、ありがとうね。そう素直に思えたのだった。



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