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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第六章 二学期 ~レミリア15歳~
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115.満天──煌めきは健やかなる心に

 2-Aの教室を後にした私とアライルは、学園祭の見回りに戻った。相変わらず廊下には普段見かけない光景が広がり、私としては「学園祭よねぇ~!」という浮かれ気分が沸き上がるものだった。


「楽しそうだなレミリア」

「ふふ、そうですね。この場所がこんな華やかな感じに見えるのなんて、もしかしたら学園設立以来初めてなのではないかしら? そう思ったら何だか面白くて」


 アライルは私の笑顔に気づいていたようだ。


「レミリアは、こういったその……賑やかな感じが好きなのか?」

「そうですねぇ……嫌いではありませんが、賑やかというよりも華やかな方が好きかもしれませんわ」


 そう返事をしながらも、やはりお祭りの雰囲気というのは楽しい。もしこれが前世の学園祭とかなら、校内の飾りつけももっと派手になり、パフォーマーなんかもそこいらを闊歩していただろう。


 一応学園祭の実行委員より、各教室の廊下にも通行の邪魔にならない程度の飾りつけをするように通達してあったので、廊下が寂しいということはない。ついでに出し物を宣伝するための立て看板──A看板などの提案もしたので、結構華やかな廊下に仕上がったのはかなり嬉しい。


 そんな看板で出し物を確認し、教室内の様子を見て回った。ほぼほぼ見回りあと一般教室はこれで終わり……という所へ差し掛かった時。


「おっ、アライルにレミリア嬢。見回りご苦労様です」


 にこやかに声をかけてきたのはアーネスト殿下だった。最後に訪れたのは3-Aだが、生徒会長であり実行委員長でもある殿下がここにいるとは。


「兄上、ご自分のクラスのお手伝いですか?」

「いや、別件で先ほどまでこの近くに用事があったんだよ。これから実行委員本部に戻るところだ」


 そうにこやかに言う殿下は、きっと誰より忙しいのにそれを見せない。多分本人としては本当にまだ平気なんだろうけど、働く人間にとって気づかない小さな疲労の蓄積ってのはどれほど怖いか、私は良く知っている。……ええ、本当にね。

 だからだろう、私の口から出た言葉は──


「アーネスト殿下、少しよろしいでしょうか?」

「ああ、なにかな?」

「私やアライルのいるクラスはカフェをやっている事はご存じかと思われます。それでもしよろしければ、殿下にも一度ご足労頂けましたらと思いまして」


 そう言ってゆるやかに頭を下げる。周囲で私たちの話を聞いていた人たちが少しだけザワっとした。なんせこの国の第一王子に「自分のクラスに顔を出しなさい」と言っているようなものなのだから。

 だが相手が私だとみると、学園の関係者はどこか納得した様子を見せる。まだ私は広く一般には顔が知られてないが、さすがに学園の人たちには聖女だと認知されていためだろう。

 私の言葉に少し驚いたアーネスト殿下だが、すぐに笑みを浮かべる。


「……分かりました。ではこれからお邪魔させて頂きます」

「はい、ありがとうございます。現場の責任者は妹のマリアーネですので、彼女に声をかけてくださればよろしいかと」

「了解しました。では失礼致します」


 手を胸に添え、きれいな礼を披露して立ち去るアーネスト殿下。その姿が角を曲がり見えなくなったところでアライル殿下が声をかけてきた。


「ありがとうレミリア」

「あら、それは何に対しての礼ですの?」

「むろん兄上に対しての気遣いにだ。今ここで一番兄上が休める方法をとってくれた。感謝する」

「まぁね。だってせっかくの日に、思い出が終始役目のために駆けまわっていました、では寂しいでしょ? あとはマリアーネに任せておけば、適度に休みと思い出を与えてくれるわよ」

「……そうだな」


 どこか満足そうにつぶやくアライル。さて、それじゃあ私たちはどうしようか……と思ったのだが。


「どうしましょう。とりあえず見回りを済ませていったんクラスに戻ろうかと思ったけど……」

「ああ、そうだな。折角だから俺たちはしばらく戻らない方がいいな」

「ええ」


 要するにアーネスト殿下がカフェに来るということは、いくら学園内とはいえ相応の人物じゃないと対応できないという雰囲気がある。普段の1-Aならば生徒会の一年生が全員集合しているが、今居るのはマリアーネただ一人。ティアナは演劇だし、フレイヤはお兄様と一緒に実行委員本部にいるだろう。

 そうなれば対応するのは必然的にマリアーネになる。そして、おそらくアーネスト殿下は「暫し話し相手になってくれ」とでも言ってマリアーネを誘ってくれるだろう。いうなればこれは、マリアーネにとっての休憩&思い出作りでもあるわけだ。思い返した学園祭の思い出が、カフェの総指揮だけだったら寂しいものね。

 そんな訳で私たちは、できうる限りお邪魔をしないためにしばらく教室には戻らないことに決めたのだった。


「どこかで程よく時間をつぶせる場所でも……あ」

「どうしたレミリア。……って、そうかここは──」


 ここに来て、ようやく今自分たちがいる教室の出し物に気づく。3-Aといえば、確かプラネタリウムだったじゃないか。あのドーム状の装置に関して、私やマリアーネがアドバイスをして作り上げた記憶も新しい。


「せっかくだし見てみる?」

「ああ、そうだな」


 こうして私とアライルは、プラネタリウムへと足を向けるのだった。




(ほぉ、これは……)

(綺麗ですね……)


 教室内にあるドーム状の装置の中に入ると、その天井に綺麗に星が投影されていた。この世界でも夜空の星には星座があり、それにまつわる物語もたくさん存在した。それらの説明が、ドーム内部に心地よくアナウンスされて耳に届く。どうやら風魔法の応用で、空気の振動を調整しているようだ。

 夜空に描かれる星々や星座などは、内部から漏れる光をその形にする装置を作り出して投影している。懐中電灯みたいな道具はないが、水晶に火の魔法を閉じ込めて灯りとして使用しているらしい。それらを使って上手に内天井に星空を描いている。


『──と、こんな感じで私たちは夜空の星を見ているのです』


 耳触りの良い説明に、ふむふむと感心しながら星を見ている人々。


『ちなみにこの星空は私が動かしてます。なのでこんな普通に早くしたり、ちょっと戻ったりなんかしますよ』


 どっ!!


 軽快なトークとともに、映す星空を早送りしたり戻したりして皆の笑いを誘う。不覚にも私も少し笑ってしまったわ。横にいるアライルも、暗くて見えないけど「くふっ」という声が聞こえたのできっと同じだろう。


 この後はゆるやかに動く星に合わせ、星座にまつわる話をしてくれた。そして、


『では暫しゆっくりと流れる星々をご鑑賞下さい』


 とのアナウンスで、静かにめぐる星々を眺めてプラネタリウムは終わった。正直思った以上にちゃんとしていてビックリした。確かに私とマリアーネが、前世でのプラネタリウム知識を分け与えたけど、ここまで昇華したのは見事すぎる。下手すれば、国の研究機関からも声がかかってもいいんじゃないの? って思うほどだった。


 …………ちなみに。

 アライルはこの時、プラネタリムあるあるをバッチリ披露してくれた。

 ──そう。静かな星空を眺めながら『寝る』というアレを。

 これがデートとかだったら女性はいろいろお冠かもしれないが、アライルの事だきっと日々忙しいのだろう。

 目が覚めたアライルは申し訳ないと頭を下げたが、そんな状態なのに私の見回りに付き合ってくれていることに感謝した。

 それに、


「新しい発見もあったから構いませんわ」


 と告げたら、どこか悲しいような悔しいような顔をするアライル。

 え? 新しい発見ですか? 大したことではありませんわ。

 ただ……ちょっと、思ったよりもかわいらしかっただけですわ──アライルの寝顔が。



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