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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第六章 二学期 ~レミリア15歳~
114/153

114.進展──その存在が特別で普通に

 孤児院の子たちとティアナの家族と暫し話をした後、私は見回りの任に戻った。最初は私の隣を競っていたエリサちゃんとノルアちゃんだったが、すぐに仲良くなって二人で私の手をぎゅっとつかんで笑みを零していた。

 ……仲良くなってくれたのはよかったけど、その後仕事に戻るから──と、なかなか抜け出せなくなってしまった。なんとか司祭様とティアナのお母さんに説得してもらい、また今度遊びに行くから……という事でやっと解放してもらえた。

 しかし……やっぱりああやって、多くの人たちが笑っていられるのはいいわ。私の中の人年齢を合算すると、子供ってもうただただ可愛い象徴なのよね。

 そんな心情が表面化したのか、うっすらと笑みを浮かべてしまった。だからなのだろう、隣から──


「レミリア、何を笑っているんだ?」


 なんて声がかけられる。


「別に何でもないわ。……というより、何でアライルが一緒なの?」

「何でも何も、ティアナ嬢が急遽同行できなくなったなら、その代わりに同行するのは当然だろ」


 しれっと口にするアライル殿下だが、この時間は彼も見回りの担当である。とはいっても本来は一人での見回りだったはず。だが「レミリア一人では何かあった時危険だ」と押し切られて同行することになった。そう言われてしまうと、こちらも無下には出来ないというところかしら。

 ただ……アレなのよねぇ……。私も“聖女”という立場があるけど、それ以上に“第二王子”であるアライルは民の認知度が高い。普通に歩いていても、私に気付く人よりアライルに気付いて頭を下げる人の多いこと。でも、これはコレである意味良い見回り手段だとも言える。言い方が悪いけど、警官がいる目の前で犯罪を犯さないだろう……という感じかな。

 そんな理由があるからなのかは知らないけど、特にこれといった問題にも会わず見回りを続けていると、サニエラさんの教室こと2-B……『占いの館』の前に来ていた。そういえば昨日、ここで少しばかり話をしたわね……なんて思っていると。


「なんだレミリア、ここが気になるのか?」

「え? いえ、気になるとかではなく──」

「別に見回りでも参加してはいけない道理はないか。よし、入るぞ」

「へ? ア、アライル!?」

「いらっしゃいま──えっ!? アライル殿下と……ヒッ! せ、聖女様っ!?」


 おいまてコラ。なんか私に対する驚き方がおかしくない? やっぱり以前のアレが、良くも悪くも尾を引いてるんろうなぁ。


「ど、どうぞコチラへ……」


 なぜか及び腰な感じの生徒に案内されて、教室の中央にあるコレは……テント? みたいな所へ案内される。教室内にはボックスやらテントやらがあり、その中で個別の空間を作って占いをしているらしい。そういえばゲームでもこの時の背景って、暗めにした教室内にテントとか立ててあったわね。

 私とアライルは案内されたテントへ入っていく。


「いらっしゃいませ……まぁアライル殿下とレミリアさん! 来てくれたんですね」

「あはは……まぁ成り行きでその」


 楽しげに歓迎してくれたのは当のサニエラさんだった。そっか、サニエラさんは占い師として参加してるんだ。入ってきた私達を、向かいの席へと座らせる。


「それじゃあ、何を占いましょうか……って、お二人で来たということは、やっぱりそういう事ですよね?」

「ん? そういう事とは?」

「もちろん、お二人の相性ですよね? ねっ?」


 目を輝かせてたずねてくるサニエラさん。なんだかアライルが押されて見えるのはちょっと面白いけど、さすがにコレはとめておかないと。


「ちがうんですよ。実は私達、見回り途中でなんとなくここに……」

「まぁそうだったんですね。でも、せっかくだらお二人をみてあげましょう」

「そうか、ならよろしく頼む」

「あれ、聞いてくれてない」


 でもまあ、占い部屋にきて何もしないで帰るのも何だかなぁとも思うので、折角だから占ってもらうことにした。

 といっても占いなんて前世では、朝の占いコーナーで一喜一憂して終わり……程度にしか気にしたことなかったのよね。多少はラッキカラーとか気にしちゃったりしてたけど、わざわざ出かけて占って……とかはしたことないし。


「では、お二人の相性を見させて頂きますね」


 そう言ってサニエラさんが、目の前にある水晶に手をかざす。すると中にゆらりと炎が現れる。


「ではお二人とも、この水晶にそっと触れてください」

「ああ」

「こんな感じ?」


 私とアライルがそっと水晶に触れると、一瞬炎が強くなったと思ったら、すぐさますうっとかき消すように消えてしまった。その後には、なにやら暗い闇が漂っているようようだが……んー、なんだか綺麗ねコレ。


「えっと……どうでしょうか?」

「……あ、はいっ。すみません、ちょっと驚いてしまっていました」


 どういう事から尋ねると、この水晶は互いの魔力相性を図れる道具らしい。まず最初にサニエラさんが込めた魔力による炎。これは単純に測定するためのものらしい。そこへ私とアライルの魔力を込めることにより、そこにある他者の魔力に対しどう反応するかで二人の魔力相性を見るものだとか。

 例えば二人の魔力が燃えている炎を消した場合、互いに相性が良いことを指し示すとか。また、逆に炎に消されてしまった場合も、お互いの相性は悪くないといえると。だが、片方だけ残ってしまうとか、どちらか片方だけ消滅するといった場合は、今現在のお互いの相性はあまりよくないということらしい。……この“今現在の”という部分は、保険をきかせた発言っぽい気もするけど。


 それで今回の結果なのだが……サニエラさん曰く「多分……良い?」との事。なぜに多分なのかというと、二人の魔力で炎は消えたが、その後水晶に映っているのは私の闇属性魔力らしいと。だがその中で夜空の星のようにきらめく光があり、それがアライルの持つ魔力の結晶ではないかと言うのだ。

 その状況から、私たちの相性は良いと思う……という事らしい。ただ、力関係はどう見ても私の方が上らしく、アライルは尻に敷かれる心構えをするようにとの事。……なんだそれ。

 そんな事を言われては、アライルも些かお冠ではと思いちらりと見ると……あれ、笑ってる!? どこか楽し気に浮かべる笑みは、作り物ではなく本心からの表情っぽい。何故かは不明だけど、変にへそを曲げたりしなくてよかったわ。


 そういえば、ここってゲームでは攻略具合のおおよそが確認できる場所だったのよね。結果が良ければ順調、悪ければ困難……というくらいの尺度で。私の場合は別にアライルを攻略しているわけじゃないけど、人間関係に不穏を呼び込んでないってことは吉と受け取るべきね。

 それを素直に嬉しいと感じ、私たちはこの場を後にした。




「それでは見回りを続けようかと思うんだけど……」

「ん? ……ああ、そうか」


 少し言いよどんだ私の声に、アライルが何かに気づいたようにうなずく。


「ティアナ嬢が出演する劇を行うのは、隣の2-Aだったか」

「ええ。だからその、続けて寄り道をするのは心苦しいものがあるのですが……」


 行きたいとは思うが、今さっき隣りに寄り道したばかりなので少々言いづらい。だがアライルはそんなことは気にしない様子だ。


「ティアナ嬢は急遽出れなくなった生徒の代打で参加したんだ。彼女の同行は知人としては無論だが、同じ生徒会の者としてきちんと見ておかねばいけない。違うか?」

「……いいえ、違いません……そうですわね。ありがとうございます」

「よせ。お前からそんな上品に礼を述べられるとむず痒い」

「大丈夫です。本日は外来者も多い故、このような振る舞いをしているだけですのね」

「……はぁ。できれば常日頃も少しくらいはそうしてくれ」

「その言葉だけ、記憶にとどめておきます」


 微妙なバランスの会話をしながら2-Aの教室へ入る。教室を舞台とするため、入り口を二重三重の黒幕で囲み、出入りで光が差し込まないようになっていた。アライルと私に気づいた係りの人が見やすい席に誘導してくれると言ったが、この後またすぐ見回りに行くので丁重にお断りをした。ちゃんと見たかったけど、こればかりは仕方ないわ。


 私たちが見た時には、すでに物語は終盤へと差し掛かっていた。ティアナ扮するヒロインの平民女性は、クライム様が演じる主人公の貴族様との恋に落ちて──という、身分違いの二人を題材にした恋愛物語である。

 …………あれ? どっかで……というか、これって……。


「なんだか……演じてる二人の物語でも見ているようだな」

「っ……アライル、脅かさないでください」

「すまない。でも俺がそう思ったのだから、レミリアが思わないワケないだろう?」

「まぁ、そうではありますけど」


 どう返事をしていいかと迷い、なんとなくな返事をして視線を舞台に戻す。当たり前だが、私たちが来たからと言ってそれを演者に伝えるなんて無粋はしない。だから今私たちは、たぶん私たちの前では見せないティアナの表情を見ていると思う。

 なんせ演技なのに、とても良い表情をクライム様に向けているのだ。ただ楽しいだけじゃなく、どこか憂いを帯びたような寂しげな笑みなど。

 きっと演じていながら、ティアナ自身思うところがあるのだろう。


「あの二人、良き結果にたどり着いていただきたいですわね」

「そうだな。……俺としては、自分の方も気がかりだが」

「……左様でございますか」

「左様でございますよ」


 おどけたやり取りを交わし、ふとお互いの顔を見る。暗い室内なのでよく見えない──と思ったのだが、やけに照れくさそうにしているお互いの顔が、その時ははっきりと見えたような気がしたのだった。



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