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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第六章 二学期 ~レミリア15歳~
112/153

112.前日──準備は完全に整った

 突然のティアナの言葉に、その場にいた誰もが言葉を失う。


『その役目、私にやらせて下さい』


 いきなり現れた一年生が、何故かそんな事を言い出したのだから無理もない。だが、すぐに二年の先輩方は気を持ち直してティアナをにらむ。


「あなた、一体何を──」

「待ってくれ! ……ティアナ、君はこの劇のセリフを覚えたのかい?」

「……はい。クライム様とのセリフ稽古を通じて、主人公とヒロインのセリフは全部覚えました」

「「「なっ……」」」


 堂々としたティアナの言葉に、先輩方もただ驚くのみ。だがクライム様だけは、笑みを浮かべて優しい声で「そうか」と呟く。そしてクラスメイトを見渡すと、


「皆、すまないが一度彼女と合わせてみないか。彼女が私の稽古に付き合ってくれていたのは本当だ。今この場でヒロインを演じられるのは、彼女しかいないかもしれない」

「んー……そうだなぁ……」

「でも、もし本当に出来るんだったら……」

「何より中止になるよりは……」


 クライム様の言葉に皆が前向きな考えを述べる。他にもティアナが生徒会役員だから、急遽ヘルプに入ってもらっても良いのでは? みたいな声も。

 ともかく、思いのほかティアナの性急な発言はかなり好意的に迎えられている。言い出したティアナもどこか拍子抜けするほどに。


「……いいわよティアナ。当日は私とじゃなく、クライム様と学園祭を楽しみなさい」

「あ、あのっ、そういうつもりじゃ──」

「いいから、後はこっちにまかせなさい。皆様、ティアナをよろしくお願いします」

「わかりました。ではティアナさん、少し通してみましょうか」

「は、はいっ」


 女子生徒に連れられて教室に設えた舞台のほうへいくティアナ。そんな彼女を追っていこうとするクライム様を私は呼び止める。


「クライム様、少しよろしいでしょうか」

「ああ、どうかしたのかい?」


 なんだろうと不思議そうにするクライム様に、私は声を抑えて口を開く。


「宜しければ、本来ヒロインを演じる予定だった生徒……お教え願えませんか?」






 私は今、学園の寮へ向かっている。目的は2-Aで本来ヒロイン役をする予定だった人物、カリーナ・エミテットさんの所だ。彼女の部屋は同じクラスの女子生徒から聞いた。何故私がそれを聞きたがっていたのかを知りたいようだが、そこは生徒会役員──しいては実行委員としての役割だと言っておいた。

 ……だが、実際のところ今の私は色々と考える事が多すぎるのだ。


 まずカリーナさんの病状について。この世界の彼女については会ってみないとわからないが、ゲームでの彼女……名前のない“女子生徒”という人物だったが、実は何の怪我も病気もしていなかったのだ。というのも、プレイヤーがクライムルートを進んでいると、ゲームのヒロイン(マリアーネ)は必然劇の練習を手伝ってセリフを覚えるイベントが発生する。その事を知った悪役令嬢(レミリア)は辱めのために、前日になってマリアーネを劇のヒロインにしてしまう。つまり元々のヒロイン役だった女子生徒……この世界でいうカリーナさんは、悪役令嬢に脅されて無理やり仮病で降板させられたのだ。


 つまり劇のヒロイン交代は、悪役令嬢が行動を起こさなければ発生しないイベントのはず。だが実際には、ティアナがその代役に立候補してしまった。そのこと自体は何も悪くない。むしろ彼女がクライム様と一緒にいられるし、彼のクラスの人たちとも仲良くなれる切欠になるなら万々歳だ。

 問題はこの状況が“どうして発生してしまったのか”という事だ。だが多分、これもシナリオの強制力の一旦なのだろう。そうなるとこの世界のカリーナさんは、どういう状況なのかという事が問題視されてくる。私はそれを確認したいのだ。


 色々と思考しながら、カリーナさんの部屋に到着。ノックをすると弱々しい声が返ってきた。「勝手に失礼します」と声をかけて中へ入ると、ベッドの上からこちらをどこか苦しそうな表情で見ている女性が一人。間違いなく彼女がカリーナさんだ。


「急なご訪問失礼いたします。私、レミリア・フォルトランと申します」

「えっ、レミリアって……まさか聖女さま──」

「そのままで結構ですわ」


 あわてて起き上がろうとするカリーナさんに近寄りそっと手で制す。少しばかりためらうも、そのまま大人しく横になってくれた。今の状況だけでわかるが、彼女は間違いなく体調を崩している。

 とりあえず話を聞こうと思い、彼女に断って近くにある椅子をベッドの横に置いて座る。まだ少し恐縮するような感じだったので、学園の中では私はただの後輩ですよと言ってみるが、どうもあまり効果がないようだ。……ひょっとしてお隣、2-Bから何か聞いてるのかな?

 しかたないので、少し緊張した状態の彼女と現状について話を聞いてみた。そして聞いた結果、私の個人的な見解では……彼女のまじめさが引き起こした結果だと推測した。

 彼女にとってクライム様は、同じクラスで共に勉学に励む憧れの存在で、それ以上を望むような事はなかった。だがこの学園祭にて、物語のヒロインに抜擢されて自分の限界以上にがんばってしまったのだと。その結果、いよいよ本番前という時になって、これまでの疲労などが蓄積し体調をがっつり壊してしまったらしい。


 ティアナの代役に関して、ゲームのような後ろめたい背景がなかったのは幸いだが、これはこれでかわいそうだとも思う。だが残酷だが、劇においてティアナが代役を務めるという話も私から伝えた。コレに関しては場所を聞いた時、2-Aの方達に私から言い出したことだ。きっと皆も言い出しにくいだろうと。

 それを聞いたカリーナさんはやはりショックをうけたが、それでも中止になるよりは……と気丈な返事をした。だが、やはり悲しかったのかそのまましばし泣いてしまったけれど。


 その後、一応彼女に浄化魔法【キュア】をかけておいた。疲労の蓄積となった原因と、ついでに発熱を取り除いておいた。それだけで大分楽になったようだが、ここ数日かけて蓄積した衰弱分は私やマリアーネの魔法でも回復できない。なのでどっちにしろ、彼女が明日の舞台に立つことは無いのだ。

 その事を話し、そろそろお(いとま)しようと立ち上がると、カリーナさんからお願いがあるとの事。もし可能であれなら、クラスの皆に伝えて欲しいと。

 明日の劇、自分は出演は出来ないが協力をしたい……と。彼女の言葉を携えて、私はそれを2-Aに戻り伝えた。やはり皆もカリーナさんを心配していたのだろう。出演は出来ないのは残念がっていたが、それでも一緒に成功させようとする意思は届いたようだ。






 そして夜、風呂も上がり部屋には私とティアナのみ。今日こうやって二人だけになるなら、何の話をするのかは誰でもわかる状況だ。


「ティアナ、明日は大丈夫そう?」

「はい。それでその……すみません、明日は見回りに同行できそうにないです」


 そこか落ち込むティアナを見て、私はしょうがないわねぇという気持ちになり、向かいのベッドに座っているティアナの横に移動する。


「そんな事は気にしないの。それよりも明日はクライム様とそのクラスの方々に、しっかりと貴女をアピールしてくるのよ?」

「は、はい! って、アピールですか?」

「そうよ。劇とはいえクライム様の恋人役を演じるんでしょ?」

「そ、それはその……そう、なんですけど……ううっ……」


 だんだんと言葉尻がごにょごにょと尻すぼみになるティアナ。劇の演目はこの世界では古くから伝わる恋愛物語らしく、前世でいう所の『ロミオとジュリエット』みたいな感じの話っぽいヤツだ。ただ、最後は悲劇ではなくハッピーエンドだそうで、そのあたりはちょっと違うようだ。……この世界にシェイクスピアが居ないせいかしら。


「ともかく明日は、劇のことだけ考えなさい。にしても、よくあそこで自分から言い出せたわね。隣に聞いてて少しハラハラしたわよ」

「すみません……。でも、あの時は何故か『言わなくちゃ!』と思ったんです」


 それがシナリオの強制や補正なのか、それとも困っているクライム様を助けたいと思う心なのかはわからないけど、少なくとも良い方向に転んだとは思う。

 ならばもう、後私達にできることはしっかり睡眠をとって明日を迎えるだけだ。


「ん~~っ! よぉし、ティアナ! 明日はがんばりましょう!」

「は、はいっ! がんばりましょう!」

「では、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」


 部屋の明かりを消し自分のベッドへ戻る。そして横になると、思ったよりもすっと眠気が襲ってきた。

 ふふっ、どうやら私も少し緊張して疲れているようね。

 でも、それ以上に楽しみだわ──おやすみ。



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