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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第六章 二学期 ~レミリア15歳~
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110.団結──思いを集め束ねた行き先は

 翌日の放課後から、学園祭に向けての準備が始まった。私達のやるカフェについては、マリアーネが代表者となって指揮をとるので、基本的にそっちにお任せだ。

 だが当然私もフレイヤもティアナも、自分のクラスなので可能な限りのお手伝いはするつもりだ。

 そういえばゲーム中でも、学園祭の準備エピソードってあったわよね。もっとも当日や後夜祭に比べると地味ではあったけど、悪役令嬢(レミリア)ヒロイン(マリアーネ)にここでも嫌がらせをしてた気がする。ホント、非常識にも程があるわね。

 そんな考えをめぐらせていると、なにやら考え事をしたマリアーネがこっちにやってくる。


「レミリア姉さま、実はその……これからカフェに出すメニューを皆で考えようと思っているのですが」

「まぁ、楽しそうですね」

「はい。それでその、出来ればご一緒できないかと思いまして」

「あら……んーそうですわね……」


 かなり興味をひかれる提案なのだが、まずは放課後は生徒会室に集まることになっている。マリアーネだけはこのクラス代表者として、学園祭関係ではよほどの件で無い限り召集免除になっているだ。

 とりあえず集まって、もし時間が取れれば……そう話そうとした時。


「かまわないぞ。本日分の方向は昼休みにした限りだろう。私が行けば大丈夫だから、フレイヤやティアナもつれて行ってくるといい」

「あ……ありがとうアライル! そんな訳で私も行くわ」

「やった! えっと、ありがとうございます、アライル殿下」

「気にするな。それより、皆の注目を集める美味しいメニューを頼むぞ」

「ふふっ、まかせなさいっ」


 そう言ってアライルにVサインを向ける。すると「何の勝利宣言だ」と苦笑するのを見て、この世界にもVサインってあるんだなぁ~などと思ってしまった。




 それから女子は全員、まず荷物を部屋に置いから寮の調理室へ集まった。私達がいる寮が一番1-Aの生徒も多いのでそこの調理室だ。

 今日はまず色々とメニューとなりそうなものを作ることになった。ついでの本日の夕食にしましょうという話に。ある程度まとまったら男子にも試食してもらい、そこで意見を聞く段取りとなっている。

 カフェのメニュー予定は大きく分けて3種類。


 ・紅茶またはコーヒーなどのドリンク

 ・クッキーを主とした菓子

 ・ホットドッグなどの軽食


 この中で2番目のクッキーに関しては、前日までに作り置きが可能だ。それに多少多目に作って学園祭で消化しきれなくても、後々皆で食べれば問題ない。というかかえって喜ぶ子も多いだろう。


 1番目のドリンクに関しては、当日その場で作るしかないだろう。もっとも茶葉やコーヒー豆の他は、基本的にはお湯があればいい。好みで加える砂糖も問題ないし、砂糖は冷蔵保存するようにすれば大丈夫だろう。


 問題は……やはり3番目の軽食だ。お手軽にいけるようにするため、ホットドッグの形式がベストか。同じ感じでハンバーガーも考えたが、形状的に食べ進めていくうちに中身がこぼれやすいのが難点だ。


「……というわけで、今日はこのパンに具を挟み込んだ料理──ホットドッグを色々皆で考えていこうと思っています」

「あ、あの……」


 本日の予定を話し始めたマリアーネに、一人の生徒がおずおずと手を上げる。どこか迷いがあるような、困った表情をしているわね。


「私はその、これまで料理とかしたことないのですが……大丈夫でしょうか?」

「あのっ、私も経験がありません……」

「私も……」


 一人の発言が切欠に、半数以上の子が「料理未経験」と発言する。だがそれを聞いたマリアーネは、別段慌てることもなく笑顔のまま返事を返す。


「大丈夫ですよ。今回のカフェでは、当日の作業で調理経験が必要なものはほとんどありません。後々説明する具の焼き上げ作業は、私や十分技量のある方で受け持ちます」

「そうですか、わかりました……」

「あの、本当に大丈夫でしょうか? 私達学生がその、料理を出すなどと……」


 一人の子がやはり心配だと顔を曇らせる。当初私は、貴族令嬢が料理なんて──という反応をされると思っていたが、そういう声が聞こえない事に驚きながらも安堵している。それに、こうやって素直に自身の技量不足を懸念する様子は、かえって好感が持てるというものだ。マリアーネも同様なのか、笑みを浮かべている。


「心配いりません。実はですね──」

「?」


 笑みを浮かべたマリアーネが、なぜか視線をこちら……というか私に向ける。


「皆さんはもちろんハンバーグをご存知ですよね? あのハンバーグ、実はレミリアお姉さまが作った料理というのはご存知ですか?」

「「「「ええ~っ!?」」」」

「ふふ、そういえば……」

「そうでしたね」


 マリアーネの言葉に驚く女子生徒達。そんな中フレイヤとティアナは、そうだったわねと懐かしんでいる。


「今回私達が作ろうとしているホットドッグ、こちらも私達の周りでは見たことがない新しい料理です。……どうでしょうか? 新しい料理を広める先駆者として一役かってみませんか?」


 優しい笑みを浮かべて皆にそう伝えるマリアーネは、とても輝いて見えたのだが……う~ん、どこか悪いこと考えてる自分にダブって見えるのは気のせいか。


「あのレミリアさん。マリアーネさんのあの表情……」

「ええ、そうね。でも意外だわ、ティアナにもわかるのね」

「はい。その……レミリアさんが何か考えてる時によく似てますので」


 くっ……悪意のない言葉のナイフが痛いわ。でもそっかー、やっぱりねー。

 何故だか落ち込むハメになった私に、マリアーネがちょいちょいと呼んでいるのが見えた。何だろうかと行ってみると、まずは基本的なホットドッグを皆に食べてもらおうかという事らしい。基本といえば……やっぱりフランクフルトを挟んだヤツよね。


 という訳でさっそく準備をして調理をする。あらかじめホットドッグ用にフランクフルトもパンも用意してある。

 といっても、言い方は悪いけどさほどたいした手間はかからない。

 まずはフライパンで千切りにしたキャベツをコショウなどで軽く炒める。それを一旦皿にとっておき、次は切れ目を入れたフランクフルトを同じように炒める。この時切れ目をいれておかないと、破裂するので注意だと強く言っておく。そうじゃないと絶対に驚いて料理がこわくなるからね。

 その後はパンの上部に切れ目をいれ、そこにキャベツとフランクフルトを挟む。そして仕上げにマスタードとケチャップ。マスタードは元々この世界にあったし、ケチャップは以前夏休みにティアナの家へ遊びに行った時に作ったのが切欠で、それから色々改良を重ねて寮の冷蔵庫には常備するようにしていた。


「──よしっ、完成」

「「「「おお~っ!」」」」


 淑女たる貴族令嬢とはいえ、好奇心には勝てないのか声を上げる皆。


「これはそのまま出してかぶりついて食べるのが普通なんだけど……」


 そう言いながら調理ナイフでホットドッグを幾つかに切り分ける。


「こうすれば食べやすくなるでしょ? 女性やご年配の方には、こういう出し方もありかなって思うのよね。それに今はまず皆に食べてほしいから──はい、どうぞ」

「あ、はい。それでは」

「私も私も!」

「ああ、私もお願いしますっ」


 わいわいとにぎやかしく、皿に乗ったホットドッグはすぐに消えてしまう。そのまま続けて作った分も、瞬く間に皆の胃袋に納まってしまう。

 そんな彼女達に耳を傾けると。


「こんな風に食べたのは初めてです。でも……美味しい……」

「この赤いソースは何かしら? トマトを使ったソースみたいですけど」

「マスタードと合わさったソースとフランクフルトが美味しいですわね」

「私、あまり野菜って好きじゃないけど、これなら……」


 どうやら味に関しては問題ないようだ。しかし中には、


「ソースは美味しいですが、口の周りに着きやすいですわね」

「そうですね。でも、この味わいは欲しいですし……」


 淑女のマナー的なことが気になるようだ。そう思っていると傍で食べていた子が私のほうを見て。


「あのレミリア様、この上にかけたソースはフランクフルトの下ではダメなのですか?」

「え? あー……そうですわねぇ……いえ、問題ないですわ。それなら食べたときに付着する事も減りますわね。有意義なご意見、感謝いたしますわ」

「は、はい」


 礼を返してマリアーネを見ると、既にフランクフルトの下にケチャップとマスタードを入れたホットドッグを作っていた。そしてそれを切り分けて食してみると……うん、確かに上にかけたよりもずっと口周りに付着しないわね。

 新しい案を加えたホットドッグを配りながら、せっかくなのでと待機していてもらったミシェッタ達に紅茶をお願いした。皆は紅茶にも口をつけながら、楽しげに食事をしている。先程アイディアをくれた子にもう一度お礼を言って、私もマリアーネと一緒に座って食事を……と思ったのだが。


「あ、あの! レミリア様とマリアーネ様も、よろしければ一緒に……」


 声をかけられてそちらを見れば、全員の視線がこっちを見ている。

 思い起こせば私達って、生徒会にいるからお昼はあまりご一緒したことないのよね。ちらりとフレイヤとティアナを見れば、呼ばれたのだろうクラスメイトと一緒に食事をしていた。それを見て、私もマリアーネも自然な笑みが浮かぶ。


「いきましょう」

「はいっ」


 にこやかに歩いていく私とマリアーネを、わっと歓声をあげながらクラスメイト達が迎えてくれた。

 やっぱり大勢でする食事って、何もなくても楽しいわ。そんな事を思いながら、ゆっくりと紅茶のカップを傾けるのだった。



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