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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第六章 二学期 ~レミリア15歳~
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109.切欠──些細なるが大事へと

「──という訳で、このクラスの出し物は『カフェ』となりました!」

「「「「おおーっ」」」」


 教室の教壇にて、満面の笑みで言い切ったのはマリアーネだ。今年から新たな方針で執り行われる事となった学園祭。そこでクラス毎に行う催し……つまり出し物だが、彼女が希望していたカフェとなった。

 細かい事を言ってしまえば、マリアーネの当初の希望は『喫茶店』だったが、まあカフェと喫茶店の違いは諸々あるけど、ここ地域を鑑みたら呼び方の違いくらいだという認識よね。そもそも学園祭でやる内容で、カフェと喫茶店の差異なんて出ないし。


 そんな訳でマリアーネとしては、願望かなって大満足! という感じだ。だが浮かれながらも分別はついているようで、クラスの出し物とするカフェについては思った以上にちゃんと考えていた。


「まず飲食メニューですが、私達がやるカフェは街の食堂ではありません。学園祭にやってきた人たちや、よそのクラスの方々がちょっと休憩するのに適した場所の提供です。となれば食べ物にいたっては『軽いもの』が好ましいです。お手軽なものであれば、クッキーなどの菓子類で、一番ボリュームがあるものでもホットドッグやハンバーガーといった感じでしょうか」

「マリアーネさん、ハンバーガーってなんですか? ハンバーグか何か?」

「ええ、ハンバーガーというのはですね……」


 クラスメイトの質問に嬉々として答えるマリアーネ。その生き生きとした表情を見て、


(まさか前世にあったようなハンバーガーチェーン店みたいなの目指してない?)


 とか思ってしまった。だって「ポテトを揚げたりできないかしら」とか聞こえてきたような気がする。そういえば以前、家の厨房で私がハンバーグお作った時、少しだけハンバーガーの話をしたことあったかな。その時もポテトがどうこう言ってたような気がするし、ひょっとして覚えてたのかしら?


 ちなみにカフェを行うにあたり、クラスメイトの魔法がどう活用されるのか……その部分に関しても説明があった。

 まずクラスで一番多いのは火属性保有者だが、当然ながら調理時の火力担当となる。といっても、クラスで一番優秀な火属性保有者はアライルなのだが、生徒会という事もあり学園祭実行委員でもあるため、あまりクラスの出し物ばかりに集中できそうもない。その代わりにアライルには、クラスの火属性保有者への指導をお願いしてある。当日はその人達が、きっと十分な活躍を見せてくれるだろう。

 クラスメイトの能力を反映させる……という目的は、ぶっちゃけると一人だけでも満たしているのならば十分なのだが、折角なのでできるかぎり皆が活用できるようにした。

 他の属性保有者だが、水属性保有者は飲食用の水を十分に確保すると共に、食器の洗浄など裏方関係での役割が大きい。同じように風属性保有者も、洗った食器を風で乾かす分担だったり、教室内の空調を快適にする役割もあるとか。あと、客の呼び込みで食べ物の香りをさりげなく風に乗せて運ぶ仕事もあるとか言っている……あざといわね。

 ちなみに1-Aにはティアナ以外は土属性保有者はいない。そのティアナも学園祭当日は私が仕事でつれまわす予定なので、クラスの方へはあまり貢献できない事を名言してある。


 ……そう、そうなのよ。この1-Aは一年生の生徒会役員が全員いる。そのため学園祭当日は、クラスの出し物に貢献できない人物が多くなってしまう。そこで私とマリアーネで考え抜いた末、マリアーネには実行委員ではなくクラスの代表となってもらう事にした。実際のところ、クラス内で『カフェ』というものに理解が一番深いのはマリアーネだと思う。ならばその情熱をぶつけることこそ、クラスの成功、如いては学園祭の成功へと導く事だと思うから。

 そう決めた途端、マリアーネはそりゃもう生き生きしたわ。多分彼女も生徒会役員だから、クラスの出し物にあまり関われないのではと思っていたらしいから。なので学園祭中の実行委員としての仕事には、ティアナを同行させることにした。元々彼女は私が学園にいる間は、専属のメイドとする契約だもん。当日は助手としてしっかりこき使ってあげましょう。


 こんな感じでうちのクラスは、マリアーネ主導によるカフェが開催される事になった。紅茶と簡単な軽食が可能な休憩処である。


 ちなみにだが、当然ながらメイド喫茶や執事喫茶ではない。全校生徒がほぼ貴族という魔法学園では、メイドや執事がいるカフェというのは武器にならないのね。あ、でもアライルが執事の格好をしたら、かなりの客寄せになったかもしれないわね。……なんとなく却下ね……うん、なんとなく。






 放課後に行った各クラスからの出し物についての確認で、1-Aのカフェはすんなりと了承された。普通であれば貴族の子息令嬢が行う飲食店なんて……という所だが、マリアーネが主導となって行うということでむしろ「大いにやってくれ!」という事になった。

 尚、他のクラスでも飲食のお店をやりたいという所はあったが、コンセプトが「学園祭の来客に貴族のお茶会を体験させる」的なものだった。要するに、私やマリアーネみたいに自身で料理を……という概念がないのだろう。ある意味そこは前世が庶民である私達の特権か。


 アーネスト殿下とお兄様がいる3-Aは、屋内に擬似的な星空を投影する……いわゆる『プラネタリウム』をやるらしい。この世界ってば私達の前世ほど星空って見えにくくないじゃない? と思ったのだが、やはり星空というのは魅力的な風景なんだとか。


 だが実を言うとこの話、アイディアの根底には私の言葉があったりする。以前家族で別荘へ遊びにいった時、夜空にきらめく星星を眺めながらうっかりプラネタリムの話をしてしまったのだ。あわてて王立図書館で知った知識だとごまかしたが、お兄様が随分と興味をもってしまい、結果ドーム形の天井内側に星星の光を投影して行うところまで話してしまった。

 といっても所詮は一時的な話題……と思ったのだが、いつのまにかアーネスト殿下にも話をしていたらしく、今年の学園祭の話が出たときに二人とも是非ともやってみたいという流れに至ったらしい。そこに魔力がどう絡んでくるのかは私にはわからないけど、正直なところかなり興味がある。もっとも、アーネスト殿下はマリアーネをどうにか招待したいようだけど。実行委員長でもある殿下だが、なんとか都合をつけてマリアーネと見れないかと既に考えているっぽい。……ああ、お兄様もフレイヤとですね。


 あと生徒会メンバーといえばクライム様だが、その2-Aはなにやら占い屋をやるらしい。クライム様が王立図書館と関わりが深いので、そこで世界各国古今東西の占いを調べてそれらの幾つかを行う占いの館的な出し物だとの事。ここでも魔力がどう活用されるのかは知らないが、水晶玉の中で炎とかきらめいていたら綺麗よね。多分そういう事じゃないと思うけど。


「……しかし、こうなると準備もだけど、当日も色々忙しそうよね」

「そうですね」


 本日分の報告も終わり、ちょっと雑談な感じになったタイミングで隣のティアナに声をかける。そのティアナも、学園祭というものがまだよく分かってないものの、大変だろうという事は薄々感じているようだった。


「当日の私は学園中を見回りするから、貴女もずっと同行しなさいよ」

「は、はい。……えっ! 私ですか?」

「貴女以外に誰と行けばいいのよ」

「あ、いや、でも……」


 そう言いながら視線を向ける先は──なるほど、アライルか。


「ヘンな気を使わなくてもいいのよ。私もアライルも当日は本当に忙しいんだから。ね?」

「あ、ああ。そうだな……うん……」


 そう言って少しだけ目を伏せるアライル。もぉ、そういう態度をとられたらこっちだて普通に流せないってわかってるでしょうに。ホラみなさい、アライル以外の人の視線がどこか生暖かいわ。知らぬ存ぜぬは本人だけって感じで、アライルだけまったく気付いてないし。


「……はぁ。仕方ないわね……ティアナも少しくらいは学園祭を楽しみたいのね。いいわ、あなたは途中まで一緒したら自由にしていいわ」

「い、いえ! そうではなくて──」

「でも私一人じゃ何かあったらって言うのでしょ? なら……アライル、その時はいいかしら?」

「あ、ああ。問題ない」

「そう? じゃあヨロシク」

「こちらこそ、宜しく頼む」


 私に返事をしたアライルが、手元の資料に視線を戻す。同じように私も、今日の会議内容をまとめた資料を整理する。

 どうにも自分に向けられる視線が気になるが、不快ではない事がもどかしい。


 もともと楽しみだった学園祭に、もう一つ楽しみが加わった。


 ……うん。楽しみだわ。



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