108.好転──災いじゃないけど福となる
2/5更新予定分は2/6に投稿致します
二学期も半月ほど経過した日の昼休み、生徒会長であるアーネスト殿下より放課後に集まるよう言われた。このように改めて集まるように言われる場合、学園にとって重要な催しが有ることを意味する。
そして私は、アライルが自主的にまとめている資料を時折見せてもらっているので、この時期に行われる行事なども概ね把握していた。
「……そろそろ学園祭の時期ですか」
「おや、レミリア嬢は知っていたのか」
「はい。以前アライルが資料をまとめていたのを拝見致しました」
「なるほどな。という訳だから、本日の放課後は皆集まるように。では解散」
そんなアーネスト殿下の言葉で、お昼休みの生徒会は終了となった。そして教室へ戻る道中、私はマリアーネ達から当然のように質問をされることになる。
「レミリア姉さま、学園祭って……あの学園祭ですか?」
「貴女の意味するあのが何を示すか明瞭じゃないけど……多分違うと思うわ。いわゆる“文化祭”みたいなものを想像してるでしょ?」
「あ、うん。えっとそれじゃあ……?」
「学園祭って言うのはね──」
教室へ戻る道すがら大まかな説明をする。ここで『学園祭』と呼ばれる催しは、私達がいた世界で言うならば『発表会』のようなものだ。魔法学園という名前の通り、指導項目に魔法が組み込まれているこの学園、そこでの生徒たちの成果を報告する催し──それを学園祭という名前で呼んでいるらしい。
その事も以前アライルから聞いており、私は一足先にガッカリしたのだ。でも、実は少しだけ気になることがあるのよね。たしかゲーム『リワインド・ダイアリー』での学園祭は、私達が想像するところの学校の文化祭、みたいな感じだったハズだ。ではなぜ食い違っているのだろうか。
マリアーネ達に説明をしながら、脳裏にそんな疑問がこびりついていたのだが……その答えは、すぐに判明することとなった。
「──というわけで今年から、学園祭は外部より来客を向かえより学園に親しんで貰うための行事という形になった」
「………………はい?」
「わあっ……!」
放課後、生徒会室に集まった私達にアーネスト殿下は、開口一番そのような事をおっしゃられた。一瞬思考が止まった私と対照的に、マリアーネはものすっごい笑顔を浮かべている。……ちょっとアーネスト殿下、何頬を赤くしてるんですか。話進めて進めて。
「んっ、んん。これまではご年配の来賓を招待しての魔法の技術や論文発表の場であった学園祭だが、今後はそれだけでなく多くの領民達を招待しての交流の場とする事になった。したがって、皆は当日までの準備の指揮や管理をして頂きたい」
「なるほど……それで、何かこの改めた学園祭に関して、参考となる資料などはありますか? 正直なところ、私もこれほどの変化に知識が及ばないと思われます」
クライム様の言葉に、お兄様もアライルも頷いている。それに対して女子側の反応ままちまちだ。まず私はなんとなくだが理解できている状態で、フレイヤとティアナはまったく理解が及ばない雰囲気。そしてマリアーネだが──
「あのっ、あのっ!」
「ん? 何か意見かな?」
「その、学園祭って外部から領民の皆さん……貴族だけじゃなく子供や年寄り、その他多くの方々がいらっしゃる……という事ですよね?」
「ああ、そうだね。今年から学園祭期間は、より多くの人々に門扉を開く構えだ」
嬉しそうに返答するアーネスト殿下。もしかして、マリアーネが貴族とか平民とか気にせず平等に接しているのを知っているため、その考えに応えられて嬉しいのかも。
「そっか……ならもう、完全に私の知ってる学園祭みたいなものよね……」
隣にいた私くらいにしか聞こえない声で、ポツリとつぶやくマリアーネ。そういえば彼女って前世記憶の最後って高校生だったわね。それなら私よりも学園祭とかに近い時期を生きていたってことよね。
まぁ私の前世では、卒業して数年は経過しちゃってるけど、それでも他の人よりは今回の学園祭の方向性は理解していると思うわ。それに、多分これでゲームと同じ学園祭になっていくんだと思う。これもまたゲーム設定よる強制力だとしたら、今回ばかりは天晴れをあげたいわね。
よしっ。それじゃあ私とマリアーネで、前世とゲーム知識を使った学園祭をやってみようじゃありませんか。
「会長、私とマリアーネから学園祭における生徒の役割についてお話があります。それは──」
私達が提案した事、それは以下の通りだ。
・各クラス単位で催しを行う。見世物でもいいし、発表でもいい。またちょっとしたお店(食堂など)も可
・催し物はそのクラスの生徒が持つ魔法または能力を生かした内容とする
・催し物の場所は教室とする
・これによる収益は教会へ寄付とする
これが私とマリアーネからの提案事項だ。ポイントは2つ目の、『魔法または能力を生かして~』という部分。これにより、それを踏まえれば色々と出来るという事が認知されるだろう。なによりこれまでの学園祭では、そこの部分に特化した行事だった。なのでその部分を残して生かす事は必須だ。
あとは4つ目の教会への寄付。教会はそのまま孤児院でもあるし、領民皆が大切にしている場所でもある。コレに関しては私とマリアーネの個人的希望だから、可能であればという事で入れさせてもらった。
残りの1つ目と3つ目は、まあよくある約束事ね。特に3つ目は徹底しておかないと、飲食系のクラスがあった場合、そこら中に屋台をだされたら問題だからね。んー……でも屋台が並んだエリアってのも欲しいわね。中庭に屋台ゾーンみたいなのを作ってみるのも悪くないかも……。
そういった事を含め、皆とおおまかな決め事を煮詰めていく。元来優秀な生徒会メンバーゆえに、一つの説明で二つ三つと方針が決まっていく。各クラスは代表者2名を選出して、学園祭の実行委員となる生徒会との連絡をつけながら指揮をする……等々。
最後にアーネスト殿下が本日の内容をまとめ、先生に提出する事になり解散となった。ともかく、これで私がゲームで見ていた学園祭が進行することになった。
その夜、私はティアナとフレイヤにお願いをして、マリアーネと一緒に寝ることにした。今回の学園祭に関して、ゲームのイベント等を話しておくためだ。
とはいえ、現時点で私達の立ち位置はゲームとは結構な違いがある。まず私が生徒会に所属しているため、自動的に実行委員にも組み込まれている。マリアーネはゲームと同じだが、学園祭における悪役令嬢からヒロインに対する嫌がらせは当然無い。
そうなってくるとゲーム内でのマリアーネは、純粋に学園祭に奔走しそして成功を喜んでいた。その辺りは規定事項であり、ゲームにおける学園祭の真なる役割は、“イベントCGの取得”と“現時点での攻略対象との親愛度を測る”事にあるのだ。
イベントCGは学園祭での活動やクラスの出し物などを一緒に執り行う姿が描かれているのだが、その中でも重要なのは『後夜祭』でのダンスである。これはその時点で一番親愛度の高い攻略対象が相手に選ばれるのだが、ここで意中の相手から誘われなかった場合、今後の攻略進行が困難になってくる。なんせ現時点で一番高い相手の親愛度を嫌われない程度に下げながら、なおかつお目当ての相手とは上げていかなかればならないのだ。
……などと大仰に言ってしまったが、実際のところ今のマリアーネとアーネスト殿下であれば、何の問題もないだろう。というか、この学園でアーネスト殿下が誘う相手なんてマリアーネしか居ないだろ。
そして、その相手たるマリアーネなのだが……。
「レミリア姉さま! 私、クラスの出し物は喫茶店がやりたい!」
……と、前世の高校生活で果たせなかった夢をいまここで! みたいな感じで意気込んでいた。
うーん……面白そうではあるけど……私はどうしようかしら。