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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第六章 二学期 ~レミリア15歳~
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106.導き──その者、役を全うする

※私の作品の基本スタンスは「過度なやり返し展開は無し」となっております

「泣く子も黙る、悪役令嬢ですわ!」


 存分に大見得を切り、畳んだハリセンを持つ手は腰に、もう片方は口に添えて高笑いをしてみる。よくあるお嬢様キャラの高笑いだ。

 う~ん……あまりこんな事やったことなかったけど、悪役令嬢(レミリア)の体には馴染むのか、絵に描いたようなテンプレ高笑いができてしまった。そしてその……なんだか随分と気持ちよかった。物語の悪役令嬢が楽しげに高笑いするのが、ちょっとだけわかった気がするわ。


 それはともかく……見たところ目の前の先輩方は、私の発した“悪役令嬢”という単語は理解が及ばないようですが、これまでの言葉の経緯によってかなり大人しくなってしまった。

 ちなみに先ほどの発言、『“聖女”は“国王”よりも偉い』だけど、実を言うとあれは少し意訳である。本当の事を言うならば、『“聖女”は国に縛られる存在ではないので、国や“国王”による制限を受けない』となる。要するに、王位だ爵位だというカテゴリとは、まったく異なる位置にいるという事ね。まぁ、今は少しわかりやすさを強調するため、あえて上下を示すような言い方をしたのだけれど。


「それでは、そろそろ本当に本題に入らせていただきますわ」


 そういってハリセンを一発ペシッと教壇にたたきつける。その音に何人かの生徒がビクッと反応する。くぅ~、いけないいけない。なんだかちょっとこの悪役令嬢風の行いがクセになりそうだわ。

 ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた私を、目の前のいる全ての方たちが畏怖するように見てくる。もちろんこれはハッタリの脅しだ。実際の所私が、聖女として働きかければ本当にどうにかできてしまうかもしれないが、当然私はそんな事をしたいと思わない。というかそんな事したら、バッドエンドフラグを呼び寄せないとも限らないし。

 言い方は悪いけど、『聖女』という威光を盾に話を進められればそれでいいのだ。……悪役だけど。


「現在このクラスにて、つまらない虐め行為がなされているわね」

「「「っ!」」」


 その言葉を聞き、室内の大半が息を呑む。虐め行為を実際にやっていなくとも、下級生である私の耳に届くレベルでの行為が横行している……という事だ。

 だが、続く私の言葉に先輩方は困惑することになる。


「まぁでも……今回、そちらの話を取りただすつもりはありません」

「「「はっ?」」」


 今度は間の抜けたような声が室内に響き渡る。違うのか? それなら何を? そんな感じで困惑した表情が、目の前にたくさん浮かび上がる。ちらりとサニエラさんを見ると、これもまた不思議そうな顔をしているのがわかる。大丈夫ですよー、サニエラさんに悪いようにはしませんからー。

 ざわざわとする教室に、ピシャッとハリセン音を響かせる。とたんに皆の視線と意識を集め、室内には不気味なほどの静寂が戻る。予め教室に張り巡らせた闇魔法による消音効果は、内から外だけでなく、外から内にも効果があるのだ。そんな息が詰まるほどの静寂の中、私は顔に笑みを──友人家族からもいろんな意味で定評のある笑顔を浮かべて言う。


「ですが……先日、学園の花壇を荒らした人がこちらにいますわよね?」


 そう言いながら私の視線は、ある生徒に向けられる。先程いくつか言い合いをした方で、名前はリミエ・クーデリフト。サニエラさんと同じく伯爵家の方で、今回の虐め行動の首謀者だ。私が見ている事に気付き、目に見えて顔色が悪くなる。でも、安心して下さいね。わざわざ一人ずつお説教なんて事致しませんから。


「今回私がこちらにお伺いした理由はその件です。学園の校舎裏にある花壇は、私達生徒会と有志の方たちでお世話をしております」


 生徒会がお世話をしている──その言葉に教室内に気まずい空気が流れる。リミエさんをはじめ数人の方は、いっそう顔色を悪くして……中には俯いてしまっている方もいますわね。それ以外の人は、どこか非難するような視線をその方たちに向けている。

 せっかくなので、あまりその花壇について知らない方たちに私は色々と教えてあげることにした。

 ──そう、色々と大切な話を。


「その花壇なんですが、過去の先輩がクラスの方たちと共に作られた物なのです」


 ふいに花壇の生い立ちを話し始めた私に、皆は「?」という疑問たっぷりの表情を向ける。花壇の状況が問題なわけで、それがどうやって作られたのかは今は関係ないだろう……と。

 だがそんな考えは、続く私の言葉であっさりと消え失せてしまった。


「その先輩、名はアンネリーナさんと申します。ご存知ありませんか?」

「アンネリーナ…………はっ!? ま、まさか……?」


 私の質問をうけたリミエさんは、その答えにたどり着いて顔面が蒼白になる。そしてその表情は、次第にクラス中の人たちに伝染したように広まっていく。

 どうやら皆さん、ちゃんと知っているようですわね──女王陛下のお名前を。


「そうです、アンネリーナ・ヴォルフリート女王陛下その人ですわ。なんでしたらゲーリック先生に確認をして下さってもかまいませんわよ。お二人ともここの卒業生で、さらに同級生でしたから。先生も花壇作りを一緒に行ったとお伺いいたしましたわ」

「そ、そんな、私、私…………」


 分かりやすいほどガタガタと震えるリミエさん。同様に困惑と絶望をないまぜにした表情をうかべる者や、俯きすでに嗚咽を漏らす者もいた。

 ……さあ、こっからですわね。私は『悪役』であって『悪』ではない。確かに彼女達の行ったことは恥ずべきことだが、だからといってこちらが何をしてもいいわけではない。


「別に気になさる事ではないのではありませんか? 先程おっしゃられていたように、この学園では身分による差別は禁止です。ですから花壇をお作りになられた方が、たとえ女王陛下であろうとも。もちろん花壇を荒らすような行為は見過ごせませんが、それはまた別の問題でしょ?」


 皮肉を込めた視線を向けるも、既に意気消沈しているようで私に対して反抗する気がみられない。次に私は、そんな人たち多少忌々しく見ている人たちに対して口をひらく。


「他の方々も、“自分は関係ない”みたいな顔をしていないで下さいね。特定人物への虐め行為……それが元となり、この件が起きたのですから。まさか同じクラス内にいて、その事を知らなかったとおっしゃられる方はいらっしゃいませんわよね。……あら、どうしましたか? もしかして、虐めの件に関しては触れないと思いましたか? 先程申しましたよね……『取りただすつもりはありません』と。別に無視しているわけではありませんよ。そういう事実があったのをふまえて、今この場では(・・・・・・)詳しく扱わないと言っているだけです」


 勢いをつけ一気に自己の考えを述べる。今この場では、言葉を発する者が強く、押し切った者が間違いなく勝者だ。そして私は勝者を譲るつもりは毛頭ない。

 戸惑う者、俯く者、嗚咽を漏らす者……全員が私の一挙手一投足を気にしている。


「……ところで皆さん、私はあなた方に一つお願いしたい事があります」


 軽くペシペシと教壇をたたいて、『しっかり聞いてくださいまし』という意思表示をする。


「花壇は昨日、私と友人……それとそこにいるサニエラさんによって、既に修繕いたしました」

「「「あ……」」」


 室内に少しだけ安堵した空気が流れる。花壇を荒らしてしまった事は取り消せないが、状況を修繕することができたという事は大切な結果報告である。だが、その事に虐めの対象となっていたサニエラさんが助力していた事は、皆にどこか後ろめたい気持ちを呼び込むことにもなった。


「サニエラさんは、私達生徒会がしばらくお世話できなかった夏休みの間、ずっとお世話をしてくださった恩がありまして……大変に感謝しておりますのよ」


 にっこりと……ここだけは、普通の笑顔でお礼を述べる。サニエラさんは「そんな……」と恐縮した様子を見せるが、他の方々はどうにもいたたまれない。自分達が何をしたのか、そして何をしなかったのか、それをじわじわと理解してきたから。


「……ですが当然これからも様子を見て、しっかりとお世話をしなくてはいけません。ですのでよろしければ暫くの間、皆さんには花壇のお世話をお願いしたいと思っておりますの」

「「「えっ……」」」


 思ったとおり困惑した反応がおきる。こちらの意図がわからない……そんな雰囲気がするけど、当然無視して私は言葉を続ける。


「特別に何かしろなどとは申しません。ただ花壇の……花たちのお世話をお願いしたいだけです。お受けしていただけますか?」


 そう言って、改めてゆっくりと教室を見渡す。私の言葉は、文字だけみればお願いをする文章だが、そこまでのやり取りをみれば決定事項通達以外の何者でもないだろう。

 しばらく待ってみたが、当然ながら反対の意見は皆無。もっとも、この場面で反対を言い出す人物がいたなら、それはそれで大物だろう。良し悪しはともかくとして。


「特に意見はなさそうですわね。では皆様、そのように宜しくお願い致します」


 最後にそう述べて、私は2-Bの教室を後にした。すでに最初の授業は始まっていたが、今日は先生に話を通して私が枠をゆずってもらったのだ。


 実の事を言うと、最初はもっと糾弾する気持ちもあった。サニエラさんと違い、リミエさんたちはティアナへの虐めの後、謝罪にすらこなかったのだから。だが、実際に教室で彼女たちを見て、その気持ちはすぐに消え失せてしまった。

 虐めをしている当事者たちが、そういった行為に慣れていないのか、どこか戸惑いの気持ちを抱えていたからだ。サニエラさんのように“ティアナに謝罪する”という行動が取れればきっと解決したのかもしれない。だけどそれを取れなかった為、行き場のなくなった鬱憤がサニエラさんへと向いてしまった……といった所か。

 もちろんそれでも許されない事にはかわりないが、そういう場合の正しい道を示すことができる大人がいなかったのが一番の原因だろう。


 ともかく、これで彼女たちが変わる切っ掛けは与えた。そんな事はないだろうが、これでもまだ問題行動を起こすのであれば、その時はさすがに仕方ない。もっとも今日みたところでは、彼女たちもそこまでではなかったと感じた。それに花壇の世話となれば、きっとサニエラさんが手を貸すだろう。多分そこからやり直すことが出来るはずだ。

 こんな考えは、もしかしてこの世界では甘いのかもしれない。なんせ悪役令嬢(レミリア)は婚約破棄の末、断罪され厳罰を受けたのだから。でも私はそれに従わない、倣わない。私の中の基準で、進んでいこうと思う。






 その夜、私はマリアーネとフレイヤを部屋に呼び、ティアナを含むいつもの四人に今日のことを話した。

 サニエラさんを終始心配していたティアナの反応が心配だったが、


「なんか……レミリアさんらしいですよね」


 そう言って笑みを浮かべてくれた。その一言でほっとした空気が流れ、その後はいつものお茶+ちょっとだけお菓子増量の夜会になった。

 楽しく過ごした後、二人は部屋に戻り私とティアナを就眠となった。さて寝ようか……と思ったとき、ティアナが話しかけてきた。


「あの、ちょっとだけお話……いいですか?」

「もちろんよ。どうしたの?」

「あの、今日の事なんですけど……」


 そう言われて少しドキリとした。やはりティアナ的に何か不満でもあったのかなと。だが彼女が言ったのは、


「えっと……“聖女”として話を進めたのは、単にスムーズに話を進める為……という事ですよね?」

「ええ、そうね。おおよそその認識で間違いないわ」

「その……ではなぜレミリアさんだけだったんですか? マリアーネさんも同席されれば、更に効果的だったのでは?」

「あー……それが気になったのね」


 ティアナの言葉に、どこか愉快な気持ちがわいてしまう。おそらく言葉本来の意味の他に含まれる意味に、ちょっとだけこそばゆい気持ちが沸いてくる。


「いいのよ、こういう役目は悪役令嬢の私がお似合いなのだから」

「あの、時々レミリアさんが言うその“悪役令嬢”って何ですか? そもそもレミリアさんが“悪”って思ったこと一度もないんですけど」

「そうよ。だから“悪”じゃなくて“悪役”って言ってるでしょ?」

「う~ん……」


 それでもイマイチ実感がわかないらしいティアナ。私としては、そう思われないというは嬉しい事なんだけどね。


「でも、私とマリアーネを並べて、どっちが悪役に相応しいかと聞けば……」

「あー……ですね。それなら納得です…………あ」

「ほほぅ……そうも面と向かって断言されると、それはそれでちょっとイヤね」

「あ、あの……?」


 ゆらりと立ち上がった私に、ちょいとおびえる表情を見せるティアナ。そんな彼女をみて、私の中に潜む悪~い心がムクムクと持ち上がる。それを示すように、両手をわきわきとかまえてティアナにせまる。


「えっと、な、何を?」

「うふふ……寝る前にじゃれあうのって久しぶりね。昔はよくマリアーネとはしゃいで、うるさいって両親に怒られたりしたけど」

「じゃ、じゃあやめません? ここでも騒がしいのは……」

「安心なさい。すでに部屋の周囲に防音魔法を掛けたから」

「えっ、ちょっ、なんですかそれは!?」


 あわてて声を荒げるティアナだが、当然この声も外には漏れない。同じ魔法を今朝も使ったけど、今回はなんともお馬鹿な用途で使ったものだわ。


「さぁティアナ、覚悟しなさいっ」

「あ、ちょっ、まって…………きゃあああっ!?」


 ベッドの上で抱きついたり揉みあったり、ちょっとばかり童心に返ったようにはしゃいでみた。いつしかティアナも、顔に喜色を浮かべてやりかえしてきたのが、どうしてか無性に嬉しかった。

 ……うん、やっぱり誰かと一緒なのは楽しい。今日は一人でやったけど、今度何かあったときは皆と一緒がいいな……。何故だかそんな気持ちがよぎったのだった。



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