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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第六章 二学期 ~レミリア15歳~
105/153

105.顕現──だって私は悪役令嬢

※今回の視点はレミリアではありませんが<閑話>指定はしておりません


 私サニエラ・イーノリッツの最近は……少し憂鬱だ。


 その原因は至極単純で、どうにも複雑難解。とある事情により、クラスメイトから虐めを受けるようになってしまったからだ。

 以前私は、クラスメイトを率いてある一年生の生徒に嫌がらせをしていた。……ううん、もっとハッキリ言おう……陰湿な虐め行為をしていた。だがその件は、しばらくしてばっさりと終焉を迎えた。自分達がいかに愚かしい事をしていたか、身に染みて理解したからだ。

 その後、私は虐めていた生徒に謝罪をした。許してもらえなくても……そんな覚悟だったが、拍子抜けするほどあっさりと許されてしまった。そのうえ、共通する趣味も相まって友人として親しくするようになった。多少自分の中に罪悪感はあったものの、丸く収まったんだと大いに安堵したのだった。


 ──でも、実はそうじゃなかった。

 私と共に虐め行為を行っていた生徒たちが、今度は私を虐めの標的にしたのだ。一人だけ和解し、何もなかったかのように過ごす私を不快に感じたのだろう。

 もちろん私は、なんとか解決しようと思った。だが、私の言葉に耳を傾ける者はおらず、いつしかクラスの中は私を虐める数人の生徒と、その行為を見て見ぬ振りをする生徒……その二つになってしまった。


 そして、いつしか私は自分のクラス……2-Bの傍までやってきた。少々顔を合わせづらいので、ここの所教室へ入るのは時間ギリギリ辺りにしている。いつもはこの位に来ると、教室からの喧騒が廊下に漏れ聞こえており、そこへ私が足を踏み入れた瞬間一瞬静寂が訪れる……という事が繰り返されている。きっと今日も……そう思っていたのだが、なぜかすぐ傍まできてもいつもの喧騒が聞こえてこない。

 何かまた新しいパターンの嫌がらせか……そんな被害妄想を抱きながら、教室へと足を踏み入れて……私は硬直した。


「サニエラ、早く席に着きなさい」

「あ、えっと…………はい」


 そこには席についているクラスメイト、そして教壇には担任教師がいた。呆気にとられるも、とりあえず席に着く私。だがこれで、なぜ皆が静かなのは理解できた。しかし、その分余計な疑問が持ち上がってしまった。

 何故、時間前なのに先生がいるのだろうか。

 何故、皆は何も言わず素直に着席しているのか。


 そして──


 何故、担任教師の隣に……レミリアさんがいるの!?


 どう反応すればいいのか困惑していると、そのレミリアさんと目が合った。途端、なかなかに凄みのある笑みを返されてしまった。

 一体これから何が……そう思った時。


「……では、ここからは宜しくお願い致します」

「そう、ありがとう」


 担任はレミリアさんに頭を下げると、そのまま何も言わず退室してしまった。……ええっ!? この状況って、先生が何か言うための場じゃなかったのォ!?

 驚いているのは私だけじゃなく、他の多くの生徒もザワザワしはじめた。


 スパアァァァン!!


 突如教室内に何かを引っ叩くような音が鳴り響く。見ればレミリアさんが、教壇に何かをたたきつけたようだ。それは厚い紙を幾重にも折りヒダヒダがある……そう、貴族婦人が手にもつ(ファン)の様なもを。アレはどうやら武器というよりは、叩いて大きな音を立てるための道具みたい。

 その道具で皆の話し声を切り、自分の方へと注目を向けた。


「……早速だけれど、本題に入らせてもらい──」

「ちょっと待ちなさいよ!」


 レミリアさんの言葉を遮って立ち上がる者がいた。その人物の名前はリミエ・クーデリフト。この2-Bではリーダー的な存在で……私を虐めている者達のリーダーでもある。そんな彼女が、この状況に対して声を荒げている。


「……何かしら?」

「何かしら、では無いわよ! これは一体どういうつもりなの!?」

「どういう、とは?」

「なんで貴女がそこに居て、さも当然という顔で話をしているのかという事よ!」


 腹立たしい思いを手のひらで机にぶちあてる。ペシッという音が響くが、そうにもさっきのレミリアさんの音に比べて貧弱に感じてしまう。

 それでも「今私は怒っています」という思いは伝わったはずなのだが。


「今、私がそうしたいと思ったから、ここで話をしているのよ。わかったら座りなさい、まだ話を始めたばかりなのだから」

「なっ……あ、貴女いったい何様のつもりなのよ! そもそも貴女は一年生でしょ!?」


 完全にレミリアさんに気圧されながらも、苛立ちを募らせてリミエさんは噛み付くように言い返す。だがその質問は、彼女以外も抱えていたらしく頷く様子を見せる人も見受けられる。

 しかしレミリアさんは、さもその質問を予測していたかのように全く慌てることなく言葉を返す。


「ええ、私は一年生ですが……それがどうかなさいましたか?」

「この学園にいる間は、生徒は身分差別を廃止しているのはご存知でしょう。となれば、一年生である貴女は二年生である先輩の私に、そのような態度は如何なものかという事です」


 自分の言葉に納得がいったのか、リミエさんは落ち着きを取り戻した様子で言い放つ。多少強引な言葉ではあるが、それも正論であると思える内容でもあった。

 だが、それを聞いたレミリアさんは全く動じることなく……寧ろ、浮かべた笑みに少し凄みが加わるような感じを見せる。


「ふぅ……困りましたね。身分差別廃止の校則は知っておりますが……」

「だったらそれを遵守して──」

「ですが、何故私がそれに従わなければならないのですか?」

「………………はぁあああッ!?」


 レミリアさんの言葉に、リミエさんは驚愕の表情を浮かべ叫ぶ。その声があまりにも大きかったため、あわてて口をおさえる。だが特に外側から教室内を伺うような様子もない。その事を不思議に思っていると、レミリアさんが笑顔を浮かべながら言う。


「そうそう。今この教室には、外に声が漏れないように魔法をかけてあります。いくら騒いでも音が漏れることはありませんよ」


 そんな事を言いながらニコリと笑みを浮かべるレミリアさん。それがあまりにも堂に入っており、何故だか根拠のない怖さを感じてしまう。


「話を戻しましょう。何故私が校則を守る必要があるのか……いえ、守る必要がないのかという話でしたわね」

「あ、貴女……一体何を言ってるのかわかってるのかしら? この学園は、かつての国王陛下が国のみならず世界の魔法技術向上のため、若者を育て導くためのものなのよ。いわばここは、国王陛下のお言葉によって成り立った国の施設。そこで施行される校則は、学園においては単なる規則以上……法律と同等の意味があるのを自覚してますの!?」


 最後の方はさすがに少々声を荒げてしまうリミエさん。だが、今彼女が言ったことは間違いなく正しい。いわば校則は、そのまま国王陛下のお言葉にも等しい意味がこめられているのだ。その事は当然私達も知っているし、寧ろ侯爵令嬢であり両殿下とも親しいレミリアさんが知らない筈ないのだが。

 そんな言葉をかけられたレミリアさんは、暫しリミエさんをじっと見つめ……微笑んだ。


「ッ!?」


 その眼差しを向けられたリミエさんから息を呑む音が聞こえた。その反応に満足したかのように、手にした紙製のファンでペシペシと教壇をたたく。


「うっかりしていましたわ。そういえば、皆さんはご存知なかったかもしれませんわね」

「……何がですか?」


 リミエさんの問いに、ふふふと笑いながら手で口元をおさえるレミリアさん。その態度が大仰に不遜なのだが、あまりにもしっくりしており目が離せない。そんな彼女の口から出た言葉は。


「実は私、聖女なんですのよ」

「えっと……そう、ですわね……」


 聞いていた全員がどこか拍子抜けした。レミリアさんとマリアーネさんが聖女であるということは、この学園のみならず国の皆……しいては他国の人たちでさえ知っている事だ。それを改めて聞かされたところで、どう反応していいのかわからないのは私も同じだ。

 そう思っていると、レミリアさんは再び何か思いついたように笑いをこぼす。それがあまりにも楽しげで、まるで何かを演じているかのようにさえ見えるほどだった。


「うふふ、重ねてごめんなさい。そういえば皆さんは、お知りになっていないのでしたわね」

「貴女っ、さっきから一体何を──」




「“聖女”は“国王”よりも偉いという事を」




「──言って…………はああああッ!?」


 レミリアさんの言葉に教室内はざわめきを呼ぶ。それもそうだ、自分の方が国王陛下よりも偉いのだとキッパリと明言したのだから。ともすれば不敬罪と取られる発言だが、彼女が言う“聖女”というものが、はたして如何程のものなのかがわからない。

 だからこそ、私達は思ってしまう。本当に……“聖女”は国王陛下よりも偉いのでは、と。


「あ、あな、貴女……何をもってそのような事を……」

「何をもなにも、本当の事を言っただけですわ。なんでしたら、今ここにアーネスト殿下やアライル殿下をお呼びして確認していただいても結構ですわよ。よもや、殿下達の言葉を信じられないなどと仰るつもりはありませんわよね?」


 その堂々とした態度に、さすがにリミエさんも力が抜け椅子に座ってしまう。それを見たレミリアさんは、ニコリ……ではなく、ニヤリという感じの思惑がまかりとおったといわんばかりの顔を浮かべる。


「……この魔女め」


 ポツリともれ聞こえたのは誰かの呟き。それがリミエさんなのか、それとも他の誰かなのかはわからないが、静まった教室のなかではしっかりと皆の耳に届く。

 ……勿論、レミリアさんにも。


「魔女だなんて失礼ですわね。私は聖女──『常闇(とこやみ)の聖女』レミリア・フォルトラン──」


 浮かべる表情に、どこか愉悦を感じさせる眼差しを浮かべ。



「泣く子も黙る、悪役令嬢ですわ!」



 オーホッホッホと高笑いを響かせるレミリアさん。

 言葉の意味は分からないし、その姿からは脅威を感じさせる……はずだったが、なぜか私は楽しそうな彼女を見て、胸の奥がじんわりと暖かくなるのを感じるのだった。




次回はレミリア視点に戻っての続きとなります

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