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転生令嬢姉妹は平穏無事に過ごしたい  作者: のえる
第一章 始まり ~レミリア12歳~
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010.厄介事は連鎖するって本当ですか?

 密かにちょっとしたイザコザがあった後、私達はホールへと戻った。

 途中で所用で離れていたリメッタが戻ってきて、先ほどの事を知ると猛烈な勢いで謝罪してきた。とはいえ、リメッタが離れていたのも仕方のない事なので、もちろん誰も攻めたりはしない。だが、これが切欠なのか暫くの間、リメッタはマリアーネの近くから中々離れようとしなくなった。


 ホールへ戻ると、先ほどドレスを着替えて戻ってきた時と同じ様に人々に囲まれた。だが先ほどとは異なり、私とマリアーネはずっと手を繋いでいた。仲の良い姉妹アピールではあるが、本質では先ほどのような事がないようにとの牽制も含まれている。もちろん、さっきの令嬢達へはこれでもかといわんばかりの威嚇でもあるんだけど。


 その後も暫く挨拶を交わしていくうちに、今日来てくれたご子息ご令嬢の大半と挨拶を交わせれた。それでようやくひと段落ついたので安心したのだろう、まったく同時に私とマリアーネのお腹がかわいい悲鳴をあげた。

 思わず周囲を見渡すも、幸い近くにはメイド姉妹しかおらず気付かれなかった。それがまた二人同時で、顔を見合わせてくすりと笑ってしまった。


「少しお腹が減りましたわね。何か食べましょうか?」

「はい、食べましょう」

「でも折角ですから、皆さんと同じ物を頂きましょうか」

「そうですね。実は私ちょっと食べたいものがあったんです」


 そう言ってメイド姉妹を連れて私たちもビュッフェへ。普通であれば一旦下がって別室で何か頂くものだが、あえて会場で頂くことによるメリットもある。

 何よりこういう場でのマナーとして、『食事中の人に話しかけるのはご法度』というのがある。それを利用して、食事をしながらもホール内を見渡して色々と考えを巡らせる事が出来る。

 尚メイド姉妹が付いてまわっているが、ビュッフェでは自分で料理を取ったよ。こういうのって案外すきなんだよね。前世でもホテルランチとかでビュッフェをやってたりして、よく同僚と行ったりしてたような気がする。

 料理をいくつか取り、少し壁際に下がって食べながら周囲をみる。案の定、こちらが食事を終えて戻ってこないかなぁと見ている人も少なくない。ごめん、もう少し食べさせて。

 じーっと見ている私の視界に、アライル殿下の姿が見えた。……あ。


「マリアーネ、向こうにいるアライル殿下は見える?」

「ええっと……はい、見えました。まだ居たんですか」

「そんな邪険にしなくても……。それはともかく、隣の人がわかる?」

「隣の人ですか? んー……私は知りませんけど……」


 ──そう。アライル殿下がいるのであれば、当然その可能性もあると気付くべきだった。


「あれはアーネスト・フィルムガスト殿下──アライル殿下の兄で第一王子よ」

「あの人がですか……」


 そう言った瞬間、マリアーネの声が若干緊張したようになった。アーネスト殿下はゲームでは、アライル殿下をクリアした次のプレイから攻略対象になるキャラだ。この世界においてゲームのような二回目三回目という概念がない以上、クリア条件無しでいきなり攻略対象になっている可能性が高い。

 これで今現在、このホールには攻略対象が三人もいることになる。あの王子兄弟とお兄様だ。とりあえず今の所はあまり王子兄弟とは関係を持ちたくない。おそらくは15歳となり学園に通うことになれば、嫌でも何かしらのイベントなりで顔を突き合わせるのだろうから。

 その他にまだ見知らぬ攻略対象はいないかと眺めてみるが、どうやらゲームの記憶を呼び起こすような人物はもういないようだ。その後私とマリアーネは、軽いデザートで食事を終えた。今日の主役二人がずっと食べてるのも、申し訳ないし見た目もよくないからね。

 皆が居る方に足を運ぶと、すぐさままた囲まれてしまった。ご子息方は縁を結びたいのか様々なアプローチを、ご令嬢方は今日私達が着ているドレスを中心としたファッション話などだ。一応警戒してあまりマリアーネと離れないようにしていたが、さすがにもう先程の様な事はおこらなかった。

 こうして私とマリアーネのデビュタントは、少しばかりのハプニングがあったが概ね成功で幕を閉じる事が出来た。




 貴族令嬢として、最初に社交界と関わる大事なイベントであるデビュタントを終え、私もマリアーネも心底安堵していた。今は二人とも衣裳部屋でドレスを脱いで、楽な室内ドレスに着替えているところだ。さて、少し休んだらもう今日はお風呂にでも入って──そんな事を思っていたのだが。


「レミリア様、マリアーネ様。ご主人様より応接室の方へお越し下さるようにとの事です」


 着替えを手伝っている専属メイド姉妹ではないメイドが、お父様からの伝言を持ってきた。さて、なんだろう……と思案した瞬間、まさか先程のマリアーネの件がばれてしまったのかと青くなる。本来であればお父様に報告すべきだが、領主でもあるお父様に知れてしまえば先ほどの令嬢たちは厳罰はまぬがれないだろう。正直そこまでを求めてはいない。勿論反省もせず今後も同じ様な事があれば、それ相応の対処もしないといけないけど。

 もしその話ならどう切り出せばよいのか……私達二人はそんな事を考えながら応接室へ。ドアの前で軽く深呼吸をしてノックをする。中からお父様の入室を促す声が聞こえた。

 意を決して私たちは部屋へ入ると──


「……え?」

「……あ?」


 私とマリアーネの見事なまでの間抜けな声が。いやいや、だって……まさかそこにアライル殿下とアーネスト殿下がいるなんて、思いもしなかったから!

 これは一体どういうことだ……と少し呆けていると、私達をみてアーネスト殿下が苦笑した。それで我に返った私とマリアーネは改めて挨拶をする。


「失礼致しました。本日は私達のデビュタントにお越しくださいまして、誠にありがとうございます」

「……誠にありがとうございます」

「こちらこそ、ご招待ありがとうございます」


 そう返事を返したのはアライル殿下。アーネスト殿下はそれを見てうんうんと頷いている。

 とりあえず何の話だろう……そう思いながら私達は彼らの向かいにあるソファへ並んで座る。するとお父様が立ち上がる。ん? なんで?


「それでは殿下。私は席を外しますので、以降はよろしくお願い致します」

「うむ、了解した」


 ……どういうこと? 驚いて声を発せないうちにお父様は出て行ってしまった。

 一体何を話すのかと少し緊張していたが、アーネスト殿下が私達の背後へ視線を向けている。……ああ、そういう事か。


「殿下、彼女達は私達の専属メイドです。彼女達に聞かせられない話であれば、私達も聞きません」

「えっ……」


 私の言葉に驚きの声を漏らすアライル殿下。声には出さなかったがアーネスト殿下も同様だ。


「マリアーネ嬢、貴女も同じ考えですか?」

「勿論です! リメッタに聞かせられない話なら、私も聞きません」


 おお、言うねぇマリアーネ。そんだけ殿下がイヤなのか、それともリメッタとの信頼が厚くなってきたのか。できれば後者が嬉しいなぁって思うんだけど。

 私だけじゃなくマリアーネにも強めに言われたアーネスト殿下は「わかった」と了承した。実際のところ、今のでも不敬罪だと言われかねない事ではあるんだけど。


「話したい事……というか、どちらかと言えば確認しておきたい事なんだが。先程、そちらのマリアーネ嬢が何人かの令嬢に連れ出され、そのまま糾弾されていたとの報告をうけている」

「!?」


 思わず顔の筋肉が強張ってしまう。よもやその話を殿下がしてくるとは。最初部屋に入ってくる時はその話を覚悟していたが、殿下たちを見てしまい今の今まですっかり抜け落ちていた。それをここで出してくるのは、かなり心臓に悪いですわね。

 心なしか先程まで少し顔を赤くしていたマリアーネが、青くなっているようにも見える。何を言われるのかという恐れからか、少し震えているようにも。思わずマリアーネの手をにぎり、アーネスト殿下の方を見る。


「……はい、事実です」


 私の声にマリアーネがこちらを見て、少し震えていた手も止まる。私が肯定したのを見て、アーネスト殿下が言葉を続ける。


「その際の内容についての詳細は知らないが、複数人数で……ましてやデビュタント当日に行うというのは、些か品位が欠けているのではと思うのだが。……どう思うかね?」

「……その通りかと」

「そうか。それでは……どうするつもりだい?」

「質問を質問で返して申し訳ありませんが、どうする……というのはどのような意味でしょうか?」

「そうだね、つまり──」


 アーネス殿下の端整な切れ長の目が、さらに細くなり凄みを増す。


「その令嬢たちへの処罰をどうするのかという事だよ」


 その言葉を聞いて、ようやく私は殿下達がなぜわざわざこうしているのか理解した。既に王族にはきちんと報告が行き、なおかつ徹底されているのだ。



 私とマリアーネが“聖女”であるという事が。



 しかもおそらく、『常闇(とこやみ)の聖女』と『栄光の聖女』であるという事も。その存在が国にとってどれだけ価値があるかを、このお二方は理解しており、それを脅かす存在に対して厳罰を処すためここにいるのだと。

 だが私達に不用意に接する事は禁じられてる。だから“聖女”の私達ではなく、ただの令嬢に会いに来たという事か。思惑はどうあれ、一度もその話題は明言していないものね。

 しかし、私とマリアーネは既に先の件に関する令嬢たちには、特に何もしないことを決めている。それで反省すればよし、罪悪感で落ちぶれてもそれは自業自得。懲りずにまだ何かしてくるのであれば、それは流石に許容できません──そう伝えた。


 私の言葉に両殿下は少し目を見開く。ん? ひょっとして悪役令嬢っぽいから、とんでもない制裁でもすると思われていたのかな? それはそれでかなりヘコむ。

 アーネスト殿下はマリアーネの意見もうかがう。だが当然マリアーネも何もしないとの言葉を。それを聞いて両陛下殿下は優しげな目でマリアーネを見る。

 ……なんか対応がえらい違うんですけど。違うんですけど。


 そういう事で、今後も注意はするが今回の事は胸にしまっておく……そういう事となった。そこで私は、一つ気になったことを両殿下に聞いてみた。

 それは──なぜ、その事を両殿下が知っていたのか、である。先の話では、アーネスト殿下が誰かから聞いたような印象を受けたのだけれど。

 そう思っていたのだが、その答えはすぐ目の前から帰ってきた。


「……私がその現場を見ていたからだ」


 そう言ったのはアライル殿下だった。その発言に私もマリアーネも茫然とする。


「えっと……見ていた?」

「ああ。偶々数人の令嬢につれだされるマリアーネ嬢を見かけたのだが、どうもあまり友好的に見えなくてな。事情がわからなかったのでしばらく見ていたのだが、結果レミリア嬢が止めに入ったので私は何もしなかった」


 そう言うとアライル殿下は苦笑しながら、


「それにしても君たちは本当に仲が良いのだな。少し見ていただけで、その信頼関係が手に取るように伝わってきたよ」

「…………なんですかソレ」

「え?」


 ボソリと呟いた私は、次の瞬間立ち上がり──アライル殿下の頬を(はた)いた。


「ッ!?」

「なっ……」

「えっ……」


 私以外の人から三種三様の声が漏れる。後ろにいたメイド姉妹からも、声にはならない鋭い息音が聞こえた。


「殿下はマリアーネが不当に糾弾されている現場にいて、何もせずただ見ていたというのですか?」

「それは……」


 何か言おうとして口を開くも、すぐに閉じる。きっと何か考えがあっての事だろうが、目の前で言われも無い事で責められている令嬢(マリアーネ)を助けに入らないのは許せなかった。

 完全に私の勝手な押し付けだ。我儘ではあるが、それでも私のこの感情は抑えられなかった。

 やってしまってから『ああ、これは完全に極刑だなぁ』という気持ちでいっぱいになった。せっかく色々とバッドエンドを回避するために画策してきたのに、こんなにアッサリと崩れるなんて。


「レミリア姉さま……」


 マリアーネもその考えに至ったのだろう、涙目で私の方を見ている。ああ、ごめんなさいね……。

 そして私の目の前で、頬を叩かれてそのまま硬直していたアライル殿下。赤くなった頬をおさえることもなく、こちらを見ると。


「……すまなかった。後日正式に謝罪をする」


 そう言って部屋を足早に出て行ってしまった。それを見たアーネスト殿下は苦笑しながら礼をして退室していった。

 私がミシェッタに支えられ部屋を出たのは、それから優に三十分以上経過してからだった。






 後日、私とマリアーネはお父様に呼ばれた。

 また殿下がいたらどうしようかと思ったが、両親とお兄様だけだったので安堵した。だが安心したのもつかの間、お父様からとんでもない言葉が発せられたのだ。


「実はアライル殿下から、婚約の打診を申し渡されてしまってな……」

「…………はぁっ!?」

「こらレミリア、はしたないぞ」


 お兄様の嗜める声が聞こえたが、今の私はそれどころじゃない。

 よりによって婚約だと!? まさかこれがマリアーネに対しての謝罪と償いというつもり? 自分と懇意になればあんな事にはならないだろう──そういう考えなのか!


「ダメですお父様! マリアーネと殿下の婚約など認められません!」

「レミリア姉さま……」


 きっぱりと断言する私と、それを喜んでくれる我が妹(マリアーネ)。そうよ! こんな形でなし崩し的にシナリオを進められたら、どこでどうゲームと同期するかわかったものじゃない。断固阻止!

 案の定、こまったような顔をするお父様。申し訳ありませんお父様、こればっかりは譲れません。


「ええっと、そのだな……」

「何ですかお父様!」


 こればっかりは引けません! 負けませんことよ!



「アライル殿下が婚約をと言ってるのは……レミリア、お前なんだ」



「……………………はい?」



 ……えっと、ごめんなさい。意味がわかりません。



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