二人の庭師
「じいちゃんってさぁ。時々、庭で片目つむっているよね」
ユウちゃんは庭木を剪定する手を止めると、私の目を捉えた。
『そうねぇ』
あの人の姿を探すと、卵型に剪定されたツツジの木のそばにいた。逆さにした洗面器に腰かけ、鉈で枝を短くしている。
厳格なイメージを崩すのは忍びないけれど……。
『実はね、垣根を見てるの』
「垣根?」
道路を挟んだ向かいの家を指した。
『あの家の外壁に横線の模様があるでしょう?あの人が垣根を剪定していた時、私、あることに気が付いて言ったの「向かいの家の模様と垣根の高さがぴったり平行ね。まるで本物の庭師みたい」ってね』
念のため、風で揺れる葉の音に声を隠した。
『それ以来、剪定する度に縁側に呼び出されてね。片目をつむって平行か確認したのよ、自慢したかったのね』
私の耳元を通り抜けたであろう風は、そのまま、あの人の汗を撫でていた。
『いっつも、はなまる満点』
「俺は何点?」
孫の笑顔には、まだ見覚えのある幼さがあった。
『あなたは七十点ね。ほらあそこ、寝ぐせみたいに葉がでてるわ。外から見ると目立つから忘れずにね。あと剪定鋏の切れ味が悪くなぁい?砥石は倉庫にあるはずよ』
「ここにも庭師がいた」
ユウちゃんは肩をすくめて笑うと、倉庫に向かった。
「ユウ!ついでに倉庫から紐を取ってきてくれ、枝を縛る」
あの人は私越しにユウちゃんを見ていた。でも、充分。
見ると、足元の枝は見事に同じ長さだ。
『はなまる満点、ね』