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破 謎の追っ手と束の間の休息

 荷物を持ち、隣の彼女と一緒に長い廊下を疾駆する。元々体力が少ないのか、既に彼女は息を切らしていた。

 前に目を向けると、廊下は左右に分かれている。


「…………はぁ、はぁ……あそこを、左だ」


 そう彼女は道の左を指差した。その時、突如として指を差した方とは逆――すなわち廊下の右手側から武装をした何者かが姿を見せる。

 相手もこちらを確認すると、黙って銃口を向けてきた。

 その瞬間に、私の意識は切り替わる。


 脚に力を入れ、これまでよりも速く、疾く廊下を駆け抜ける。

 撃たれる前にその男に肉薄すると、引き金が引かれるよりも早く掌底で銃をカチ上げた。そのままの勢いを利用して胴に回し蹴りを決める。反動でスカートが翻り、中身が見えそうになった。


「――って私、今は何も履いてないんだった!」


 慌ててメイド服の裾を抑えると、蹴り飛ばした男の後ろからまだ二人いるのを確認出来た。一人は拳の当たる距離、もう一人は少し後ろだ。

 とりあえず、左拳で銃口を横に弾くと顎、喉、鳩尾にそれぞれ一撃入れ昏倒させる。

 だが、その後ろの敵には対処が間に合わない。既に引き金が引かれつつあるのを目で追ったからだ。

 私は咄嗟に崩れゆく男の持っていた拳銃を蹴り上げ、空中で掴む。

 そのまま、構えると相手と同じ数だけ私も引き金を引く。

 何も無い場所で響く金属音。どうやら上手く銃弾を弾くことが出来たようだ。

 相手は焦るあまり空になったことにも気が付かず、カチカチと銃を鳴らしている。

 その隙に、手元にある無用の長物を投げつけ、近づき、腹に一発。うずくまるその動きに合わせて顎に掌底を当てて相手の身体を浮かし、その頭に胴廻し回転蹴りを叩き込んだ。

 その間にも彼女は廊下を左に曲がっていたので、私も後を追いかける。


「あのあの……! 見てました? ねぇ、見てました? 私、凄くなかったですか? こう、バンバン敵を薙ぎ払って!」


 興奮冷めやらぬ私の言葉に、彼女は息を切らしながらも優しく微笑んでくれた。


「…………はぁ……はぁ。あぁ、流石だったぞ。やれば…………はぁ……出来る子だ、な」


 初めて褒められた。そのことが私の心を温めてくれる。


「…………! ですよね! 自分でもよく分からなかったんですけど……こう、体が勝手に動いたっていうか。とにかく頑張りました!」

「そう、だな…………はぁ、はぁ。そんなエマに頼みたい、ことがある」

「えぇ、えぇ。何でしょう、何でも言って構いませんよ?」


 調子の良くなった私は大請け合いをする。


「そうか……。……はぁ…………だったら、頼む。…………もう無理だ、おんぶ」


 黙ってお姫様抱っこをする私に対して、彼女はすっかりご満悦。

 こうして私たちはこの謎の場所を脱したのだった。


 ある程度距離を置くことに成功した私たちは、少し休憩をしていた。

 その間、襲ってきた人達のこと、あの場所のことを尋ねるも彼女ははぐらかすばかりだった。


「にしても、良いんですか? こんな所でのんびりしていたら、またさっきの人に見つかりますよ?」


 諦めて別のことを聞いてみると、少女は手首の時計を弄りながらウキウキした様子で答えてくれる。


「良いんだよ。アイツらは私が逃げたと知っても、暫くはあの場所に居座る。だからこうしてやれば――」


 その言葉に合わせて、先程の場所付近から大きな爆発音と煙が上がる。


「――足止めになる。さて、私の体力も少しは戻った。少しでもいいから逃げようか」



 ♦ ♦ ♦



 それからの私たちは特に宛もなく歩いた。寒帯なのかいつも雪が降り積もっており、真っ白な雪に足跡を残していく。

 周りには壊れた建築物だけが並んでおり、人の住んでいる形跡はなかった。

 そこを私たちは日中歩き回り、日が落ちると屋根のある場所を探して暖をとった。


「へぇー、これがお風呂というものですか」


 ある時はドラム缶を見つけ、五右衛門風呂なるものを試したこともある。


「そうだ、極東に伝わる伝統的なお風呂だな。私も初めての経験だ」


 そう言った彼女は雪にも負けないほど真っ白な素肌を晒し、長い髪をアップにして纏める。

 低身長、小乳ではあるものの、体格に合ったその体つきは神々しさすら感じた。


「……そう、まじまじと見てくれるな。さすがの私も、少し照れる」


 頬が赤く熟れる。その肌の前では、顔色の変化など一瞬で分かってしまい、可愛い。

 身体を隠すようにして彼女は湯船に浸かると、さっきまでの表情とは一変、力が抜けたかのように穏やかに様子を見せる。


「……あぁー、これはいい。用意が面倒だし水も無駄だが、それに勝る幸福感が……すごい。たまになら入ってもいいな、これは」


 満足そうにぬくぬくと温まる様子は見ていて羨ましい。

 そろっと手を伸ばしてお湯につける。


「――っ! あっつい!」


 何かの異常を感知したかのような不快感。思わず手を引く私に、彼女は朗らかに笑っていた。


「ははは、君にとってはそうかもな。後でその身体を拭いてあげるから、それまでは火の番をよろしく頼む」


 むむー、納得がいかない。

 だけど、愚直にも私は空気を送り、木を焼べ、温度調節の任を果たす。


「あれ、そういえばそのペンダントって……」

「ん?……あぁ、これは私のお守りだよ。いや、お守りというよりは決意の象徴、かな」


 そう懐かしむようにペンダントを弄ぶ姿は何だか儚げだ。

 よく見ると、それはロケットだということに気がつく。


「中には何が入ってるんですか?」

「……もう忘れたよ」


 その横顔が何を語っているのか、まだ日の浅い私には分からない。


「えぇー。だったら、中を見せてくださいよー。開くでしょ? ロケットなんですから」

「それがな、肌身離さず持ち歩いてたもんだから錆びて開かないんだ」


 だったら私が開けてやる、と申し出たものの「君だと壊しそうだ」と断られてしまった。



 ♦ ♦ ♦



「あっ、そういえば私、まだ貴方様の名前を知りませんでした」


 湯浴みが終わり、私の背中を拭いてくれている彼女にそう話を切り出した。


「あー、そういえばそうだったかな。なんだ、知りたいのか?」

「いえ、別にそこまでではないのですが……ただ、呼ぶときに少し不便かなと」


 ニヤニヤとからかうような笑みでそう問いかけてくる彼女に対して、私は思わず素の返事をしてしまった。


「……なんだ、つまらん。まぁ、別に知られて困るものでもないし構わないが」


 そこで一つ咳払いを挟む


「私の名はアイリス。アイリス・B・マクミランだ。遅くなったが、これからもよろしく頼むよ」

「アイリス――アイリス様ですか。はい、よろしくお願いしますね」


 背中越しではあるが、軽く頭を下げる。


「それにしても不思議な縁ですね。記憶が正しければ、私の親と同じ名前ですよ」


それは私の中で親という認識のある名。


「……はっ、まさか私のお母さん!」

「…………君には私が子供を産むような年齢に見えるのか?」

「そうですよねー」


 半眼でそう問いてくるアイリス様に私は頷く。

 アイリス様は見た感じ十代後半。もし仮に二十代だと考え子供を産めたとしても、私の年齢と合わない。

 そんなわけは決してないのだ。

 けれど、知らずのうちに彼女との繋がりを見つけられて私は少し嬉しかった。

 この背中に感じる温もりは、決してお湯に濡らされたタオルのものだけではないだろう。

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