1-2.平和を祝う宴①
「ちょ…ヴィニー…まって……」
森を抜け村へ帰る道、僕はどんどん先へ進むヴィニーに声をかける。
坂道。普段ならさほど気にはならない緩やかな登り坂。
しかし、今は疲労感と抱えている少女の負荷が速度を遅める。少しづつヴィニーが小さくなっていく。
ねぇ、聞こえてる?無視ですか?ああそうですか。
ヴィニー、君はそう言いう奴だよ!ぶつくさとアトラに同意を求めるように文句を言いながら村へ向かう。でもヴィニーがいたからなんとかアトラを見つけることができたと思う。
僕の問いかけにアトラは「んなぁ~」とつぶらな瞳で見つめ返事をしてくれた(多分)。
僕をわかってくれるのはおばあとアトラだけだねー。なんて無駄口を叩いていたらヴィニーが立ち止まったみたいだ。
もしかして待ってくれたのかな?文句を言った事をごめんと詫びつつ少し足を早める。
誰かの人影がみえた。誰かと何かを喋っているようだ。
バンバンと肩を叩かれ抱きつかれている。照れたように無理やり引き剥がし(たように僕からは見える)、こちらに身体を少しだけ傾け指を指している。
人影の正体はエイブ君だ!名前を呼びながらこちらへ走ってくるのが見えた。
「無事でよかった!帰って来れないかと……今、おやっさん達と森に捜索しに行くかって言ってたとこだったんだ。それにアルシアさんが酷く心配してるから……ってその女の子どおした?」
「心配かけてごめんなさい。あ、この子は神殿がある広場で倒れていて…それにずっと眠ってるみたいなんだ。」
「この辺じゃ見かけない身なりだし迷子かな?村についたらシスターにみてもらおう。本当にみんな無事に帰ってこれただけでも何よりだよ。」そう言いアトラにも心配の声をかけるその目は少しだけ水をまとっていてゆらゆらと揺れていた。
腰には銅の剣をさし皮製の鎧も身につけている。いつも森に出かける時の身なりではない。
きっと僕たちを探そうと森へ行くために準備したのだろう。ごめんねエイブ君。そしてありがとう。
速度の遅い僕に歩幅を合わせ隣を歩いてくれている。代わろうか?と少女を抱えてくれようとしてくれたが僕は大丈夫と一言伝え抱きかかえ続ける。
腕もダルいし足だってよろつく。なのに僕は断った。強がりかは分からない。
けど意地みたいなものはあると思う。目を覚ました時、一番に僕を見てほしい。そしてありがとうって言ってもらいたい。さっき会ったばかりのこの子の笑顔が見てみたいって。そんな僕がいる。
支えられヨロヨロと足を進めるとようやく村が見えてきた。
入口には大きな金槌を持っておやっさんが立っている。「帰ってきたぞー!」と村中に響く声で叫ぶと、その声に反応し村の人々から緊張感が消え、胸をなでおろし、よかった、心配したぞ、おかえりなど声をかけてくれた。
ありがとう、ごめんなさい。と返事をしていると中心にシスターに支えられるようにして立つおばあがいた。
皺くちゃな顔をさらにしわくちゃにしゆっくり近づいてくる。
エイブ君に女の子を預け、思うように軽やかに動かない足取りでおばあの元へ急ぐ。
言葉を発する前に僕の左頬に何かがぶつかる衝撃を感じた。そしてジンジンと痛み出す。
視界が涙で見えなくなりそうだ。そんなボヤけた視界に映る目の前のおばあの瞳にも涙が溜まっている。
「バカもの!森の奥へは行っちゃならないと……キツく言っておったのに…帰ってこれたから良かったものの…」
おばあの震える手がそっと僕の手に触れる。
ごめんなさい。とただ繰り返す。
心配かけてごめんおばあ。僕はまた涙と鼻水で顔を汚す。小さい子供のようにおばあに抱きつき大きな声で泣き叫んだ。
家につき少女を自室のベッドに寝かせシスターに任せ1階のおばあの元へ行く。
ほれ、と温めてくれていたスープとパンをテーブルに置いてくれたので、「ありがとう。いただきます。」と席に着く。おばあも向かえに座る。涙の跡、真っ赤な瞳。僕の胸を何者かに握られるようにジリジリ痛めつける。ごめんねおばあ。改めて謝りスプーンへ手を伸ばす。
ゴロゴロと大きめに切られた野菜と肉、熱々の湯気からは空腹をさらに刺激する匂いがし、鼻を伝い脳へ伝達するとお腹の虫が限界を迎えたと騒ぎ音を立てる。フーフーと覚まし口に運ぶ。
口の中に野菜の甘みとスープの温かさが広がる。
噛み締めると平和を認識出来た。
いつもの日常という平和を。帰ってこれたよ。僕は声をあげうわんうわん泣いた。
家に帰ってこれて、ご飯を食べれて、お風呂に入れて、ベッドで寝れる。
命の危機にさらされ、日常を失うかもしれない恐怖に出くわすなんて思いもしなかった。いや、そんなこと今まで考えたこともなかった。
そんなことは絵本の中だけだと思った。
だって僕は村の子供で、冒険することもなければこの大陸から出ることなんてない。他の大陸と比べると治安も悪くないし平和だ。剣だってヴィニーに付き合って交わすぐらいだ。
冒険者が村に来てもどこか他人事で現実味がなかった。屍を見ることなんて死んでもないと思ってた。
魔物もスライムぐらいしかいなくて、城下町付近には他の魔物がいるけど行くことも少ないし……。村を襲う程の魔物はいない。
再度僕はおばあに謝罪し今日の出来事を喋った。
「森の奥にはトロルがいたんだよ!アスティも戦った。アトラも僕たちを助けてくれて…」
朽ち果てた死体のことはあえて口にはしなかった。
むしろそれを言ったらまた目の前に出された美味しいものたちが食べれなくなる。全て食べたとしてもきっとすぐに出てきてしまうだろう。
「僕たちが着いた時もあの子は眠っていたから、きっとトロルに襲われたんじゃないかな?」
「そうだねえ。」うん。うん。と僕の話に頷き「起きたら事情を聞かないとね。」そう言いおばあは僕の手をぎゅっと握りまっすぐ見つめ、「心配をかけないでおくれ」と再度強い口調でお願いされた。
本当にごめんなさい。もう、心配かけないよ。絶対に。
改めておばあに誓いを立て食器を下げる。
「ご馳走様。みんな準備してるとおもうから手伝ってくるね!」準備の途中だろう。心配かけた分みんなの手伝いぐらいは率先してしないと。
終わったらあの子の様子をみにいこう。あの子が目を覚ますのを心待ちにしながら手伝いをしに村の中央広場へ向かう。
外に出ると夕暮れ時で辺りは暗くなり、中央の薪がゆらゆらと周りをほんのりと暖色色に染めている。
村の人達が着々と準備をしている。お酒やジュース、それぞれが持ち寄った食べ物、テーブルや椅子などどんどん設置していってる。
キョロキョロと見まわし手伝えそうなことはないかなと探してるとおやっさんに「ヴィニーがその辺でサボってるだろうから連れて二人で花火の準備してくれー!」と丘を指す。
「わかったよ。連れてくるね。」僕は駆け足で丘へ向かう。




