1-1.閉ざされた神殿①
朝日が僕を厳しく射す。
んん~。っと体を起こし伸びをする。
最近、誰かも分からない声が聞こえる。
そんな時には決まって見る夢がある。
鎧に包まれ剣と盾を持ち、目の前の強大な闇と戦う姿が。
昔、昔から伝わる伝説。まるで勇者アスティのようだ。
憧れているからなのだろうか。
いや、それなら毎日見てもおかしくはない。
それに、泣き虫でいつもビクビクしてる僕が勇者なんて……。
何度生まれ変わればそんな奇跡が巡ってくるだろう。
いやと、頭を横に振り消極的な思考を止めようとする。
だって今日は一年に一度の村のお祭りだ。勇者アスティが世界を救い平和が戻った日だ。そんな日に落ち込んでなんていられない。
おばあの居る一階へ向かう。
朝からお祭りの出し物の準備をしているはずだからお手伝いしないと。
野菜と豆を牛の乳で煮込んだスープに果実のシロップ煮は毎年おばあが出している。僕が凄く好きな料理。
今はきっとスープを作っているかなぁと、美味しそうなにおいを確認しつつ扉を開ける。
「おばあおはよう。僕も手伝うよ。」
たくさんの野菜を切っているおばあが笑顔で振り返る。
「おやおや、ルーぼうおはよう。毎年ありがとうね。そうねえ、朝ごはんを食べてから手伝ってもらおうかしらねえ。」
テーブルに用意されているご飯に目線を送りつつ野菜を切っていく。僕は「そうだね。いただきます。」とテーブルに用意された朝食に手をつける。
シロップ煮をたっぷりと、ちぎったパンに付けほおばる。程よい甘さに少し固めのパン。
シロップ煮をたっぷり付けることで何度もパン噛み締めることができる。僕的に。
固めのパンは嫌われる事が多いが、スープに入れたりして柔らかい食感も楽しめるので僕は好きだ。
ふと、視界にいつもはみないものが置いてある。封筒に入っている。恐らく手紙だろうか。
何気なく見てみようと手を伸ばそうとしたその時。
「ルーぼう、スープをかき混ぜるの手伝ってくれんかの?」
手を引っ込め「いま行くよ。ごちそうさまです。」と食器を下げお手伝いをする。
勝手に見ちゃまずいよね。と思いつつも、みたい気持ちが脳を支配しようとする。
思考を変えようとお祭りについておばあと話す。
去年は、村長が盛大に酔っ払って奥さんに呆れられたり、鍛冶屋のおやっさんと道具屋のお兄さんが飲み比べしたり、村の女性陣もお酒片手に楽しくお喋りして歌ったり踊ったりと、皆が楽しそうにいつもを忘れてひと時を楽しんでいた。
「今年はルーぼうもお酒を飲めるから、ヴィニーたちと飲むのかい?」
ドキリとした。ヴィニー=アーカム。この村の鍛冶屋の息子でボス的存在。意気地のない僕を小さい頃からからかう苦手な相手。「うーん…。どうだろうね…。」なんて曖昧な返事しか返せなかった。むしろ向こうが僕と一緒に飲むのを嫌がるだろう。
考えてたら冷や汗をかきそうだ。無の状態を保とうとすべくひたすらスープをかき混ぜる。
僕にほんの少しだけ勇気があれば違ったのかもしれない。色々と……。
ひたすらスープやシロップ煮を混ぜたあとは、お祭りまで時間がある。おばあが後はやると言って、皆の所へ行っておいでと促すのでお礼をいい家を出る。
まぁ、僕の「行く場所」なんてものはない。愛猫といつもの森に行って時間を潰そうか、あれ?猫いない?なんて考えてるそばから名前を呼ばれる。
「ルーファス、ちょっといいか?」
心臓が止まりそうになり一瞬嫌な汗をかいたが、呼ばれたくない相手でホッとする。
小走りで駆け寄り名前を呼んだ相手は、エイブ=ワット。道具屋のお兄さんだ。僕にも皆と変わらず接してくれる親しみやすいお兄ちゃん的存在。
「エイブくんか…よかった。どうしましたか?」
「よかったって(笑)ヴィニーだったらまーたちょっかい出すぞ」
僕は苦笑いで頬をかくことしかできない。本当によかった。
「まぁまぁそれは置いといて、飼ってるキャットパンサーがニュークスの森の奥の方に行っちゃったみたいだから、早めに連れ戻さないとまずいぞ。いくら魔物が襲ってこないっていっても、あいつも元は魔物の仔だろ?」
!!!。しまった!朝から見掛けていないと思ったら、森の奥まで行ってるなんて!
いつもなら家の周りから遠くに行かないのに、今日に限って森。しかも奥深くか。
エイブくんにお礼をいい走って森へ向かう。
なんだろう。凄く、嫌な感じがする。