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「鈴木さん」を入れるまで

プルルルル……

「もしもしー、なんさい?」「えーっと16」「どこすみ?」「東京」「へぇー僕大阪やねん」「えーそうなの!?関西弁っていいよね!」「そうなんかな?あんまわからへんけど……」「いやいや、やっぱりいいよ!」………………



「鈴木さん」というアプリでは、毎日毎日このような会話が繰り広げられている。「鈴木さん」をご存知だろうか?「鈴木さん」をダウンロードしている不特定多数のユーザーに電話をかけることができ、一期一会の会話を楽しもうというアプリ。つまり、どこかの誰か、知らない人と喋ることができる。



「あーあ、毎日ひまやなー。」

9月の終わり頃、大阪に住むとしのりは自分の部屋のベッドに寝転びながら、ふと呟いた。

実は先日、親に部屋を移動させられたのだ。前の部屋は家族四人で住んでいる二階建ての2階が彼の部屋だった。しかし、母親がなぜか急に部屋を替えなさいと言って、農機具や米などが置いてある納屋の二階を家族総出で掃除した。そして、彼の部屋にあった机やベッドなどの家具を持ち込んだのだった。つまり彼は、家族から離れて生活することになったのだ。なぜ急に母親がそのようなことを言い出したのかよくわからないが、家族で住んでいる家があまりおおきくないため、実家が広い家だった彼の母親にとって不満があったのだろう。母親は彼の部屋だった場所を自分の部屋にかえた。


彼にとってはこの事はうれしい事であった。高校三年生の彼にとって親の監視下から逃れたいというのは当然の欲求だろう。しかも、彼の母親は息子に干渉してくるような人だったからだ。例えば、ケータイを勝手にみたり、財布の中身を全部みたり、勝手に部屋の掃除をするという名目で部屋を漁ったり、などなど……つまり、過保護な母親だったのだ。

母親にとって、息子は本当に大切だったのだろう。共働きだったからという理由もあったのか、母親は息子を幼稚園から私立に通わせた。


としのりは小さい頃から親の言うことをよく聞く子供であった。よく聞くというより、怖くて言うことを聞くしかなかったというのが正しいのかもしれない。その証拠に小学校五年生くらいからだんだん親に嘘をついて遊ぶようになったりし、親に隠れてよく友達とどこかに行ったりしていた。

かといって親に歯向かう勇気もなく、自分の主張もせず、ただ親の目を盗んでこそこそとしているズルい子だった。そのような事情もあってか、高三になった今でもケータイには位置情報を通知するアプリが入っており、いつでもどこでも彼がどこにいるのかを見ることが出来るようになっていた。また、検索にもフィルタリング機能をつけていたりするなど、高校生にとっては異常とも言える息苦しい生活を送っていた。


そのような彼がやっと自分の城を手に入れたのだ。もう親の目を気にしなくてもいい。彼にとってその事はとても大きなものだった。

ただ、問題があった。この部屋にはネット環境がないということだ。ネットに繋がるWi-Fiはあの家の中でした届かないため、暇なときにYouTubeとか、ネットをみたりとかそういうことはできない。しかも水道もガスもないため、トイレや食事は家にかえってする必要がある。つまり彼は自由を手に入れたのではなく、やることがない暇を手に入れたのだ。


親から隔離された状況を手に入れた男子高校生が考えることはただひとつ。そう、女の子だ。しかし彼は、容姿がいいわけでもなく奥手だったので、彼女がいたことはなかった。


「あーあ、ほんまに毎日おもんないなー。」


そう呟きながら、ふと中学時代の合宿を思い出していた。

彼は中学のとき水泳部だった。合宿のとき、夜中に友達が

「鈴木さんやろーや!」「えー、あれ怖くない?」「いや、大丈夫やから!」

そして、友達が電話をかけはじめた。

プルルルル……

「もしもし?」「こんばんは」「いまなにしてんの?」「えー?暇してるww」…………


その光景は、としのりにとってとても刺激的だった。どこのだれかもわからないしらない人と電話で話すなんて……


そのときの刺激、興奮、そして背徳感がよみがえってきた。

刺激を求めていた彼にとって、そうするのは必然だっただろう。



としのりはプレイストアで「鈴木さん」をダウンロードした。

この先の未来に何が起こるかも知らずに……


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