咀嚼
芸術が貶められ
情熱が扱き下ろされ
先人が化石化され
どれ程経ったのか……
音楽のあるフレーズに
小説のある場面に
映画のあるシーンに
生き残りの恐竜が跋扈する
ステゴザウルスは極彩色で
濃緑の多肉植物を貪る
ああ、なんて官能的な咀嚼だろうか
詩を殺せ
詩と呼ばれる日本語を殺せ
そしてその灰の中より
プラズマの炎の眩き白光を翼として
幼い瞳のままで甦れ
月が満ち
生まれた赤子は
まだ太陽を知らない
知っているのは
何もかも出来はしないということ
それでも
何かは出来るということ
暴走せよ!
暴走せよ!
核心を乞う愚かな欲情よ
鈍麻の理想に抗え
平均化に決して酩酊するな
芸術とは反撃である
かつて押し込められた
現代への鬨の声が
今や聞こえて止まないではないか
途切れることのない
知性を受け継ぐものたちよ
分かり易さは敵だ
何時も引きずり下すための代弁だ
引きずり上げよ
自らを高め高空を行く鳥のように
いのちを燃やし冷たき気流に乗れ
月の音を聞く
今だ赤子の詩人たちよ
全ては特別で有るが故に
価値をすり替えられて
普通と名付けられてしまった
そのことを
マイノリティとして
苦しんでいるのだろう?
原石の言葉を吐き
精製される時を待て
突然に己の中より
噴き上げる抗えなさとなって
完成が華やぎ始める
カタツムリがその身のために
コンクリ―トを咀嚼するように
その足元の全てを咀嚼せよ
詩はいつか還っていく
遠い記憶の面影に
しじまに佇む何時かの日に
言葉は降り積もる雪のように
音もなく色もなく
最も静かなこころの内に
かたちなく埋もれていく