諮問
全宇宙連合定例会議ではスペクトル分類G2V恒星系SOLについての諮問会が行われていた。
「例の恒星系の惑星において発見された知的生命体についての報告のことだが。現段階ではどうなっているかね?」
「現在も調査、観測は継続中です。現段階を一言で述べるなら、非常に奇妙という印象です」
「ほう。たとえば?」
「はい、調査対象の恒星系、惑星及び周辺衛星では非常に多種多様な電磁波が飛び交っております。それでいて、惑星の住人自身は音声を用いたコミュニケーションを行なっているようです。また意図せず電磁波を周囲に発信してることに自覚は無いようです」
「それはおもしろいな」
「まあまあ、それだからこそ我々の目にとまったわけだがな…」
「もっとも、住人にとって電磁波は長距離のみのコミュニケーションツールとの認識が強いと考えられます。また周囲に与える影響も考慮できないようです」
「面倒な話だな。音波コミュニケーションがベースで、わざわざ声を電磁波に変換して、また声に変換するとは…」
「まあ、あまり不思議な話では無かろう。我々の祖先にも音波を意思疎通のツールとして使っていたものもいるじゃないか」
「それより、他には?」
「はい、彼らは非常に多くの国家と呼ばれる集合に分かれています」
「それは…、確かに奇妙だ」
「質問だ。国家とは何だね?」
「はい、いわばイデオロギーの共通する者同士がそれぞれで集団を結成している状況とでも言えましょう」
「同じ種族であるのにか?」
「そうです」
「具体的には、その国家とやらはいくつ存在するものだね?コンタクトの妨げになるようなことはないよな?」
「およそ二百です」
「に、二百とな!」
議会にどよめきが広がった。
「同じ種族であるのにそんなにも分かれているのか!」
「ええ、しかも音波言語の数はそれ以上です。また国家内においても、さらに多数の集団が形成されていることが判明しています」
「何たることだ…」
「我々の中でもかつては多数の言語や集団に分かれていた歴史があった…。しかし、時代と共にそれは統合されていった…」
「もっとも、地理的要因も忘れてはなりません。住人は陸地がその惑星の表面積にして約三割しか存在しない惑星に住んでいるのです。かつ、陸地は非常に広範囲に散らばり、住民の分布も広範囲にわたっております」
「なるほど…」
「だとしても多すぎる!すでに惑星の住人における高等種族は自身の惑星の衛星や周辺惑星の探査が可能な程の技術と知能を備えているのだろう?なぜ自身の種族も一つにまとまらないような連中がそこまで進歩したというのだ!」
「まったく我々の中では合理性に欠ける」
議会からは次々に声が上がった。
「これまでの調査と類推から、この住人は互いに張り合うこと…いえ、時として、憎悪に近い感情をもとに進歩してきたと考えられます」
「なんと暴力的な話だな」
「ええ、それは当然です。住人は常に惑星上の何処かで争いをしていることも判明しています」
「恐ろしい…」
「そうなると、住人は同じ惑星上にいる他の種族との円滑なコミュニケーションなどは…」
「はい、かろうじて初歩的レベルに達していることが確認されたのみです」
「だろうね…」
「同じ宇宙に居るというのに嘆かわしい…」
「私がこの報告をいたしましたのは彼らと交流をはかることに懐疑的意見を提案するためです」
「確かに…この報告を聞いた限りでは、交流は危険とも言える」
「だが、SOL系の惑星の生物多様性は非常に魅力的だ。我々の故郷のどれと比べても、桁違いに種類が豊富だ。そういった意味では今後の推移を見守るべきだ」
「それは当然です。観測は続けます。ただし、対象の惑星の高等種族である…七十億は存在すると思われる人間と自称する種族の処遇に関しましては、さらなる検討、あるいは早急な検討が必要と思われますことを付け加えておきます」