表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スノーボードクラブ  作者: 木田駿一朗
3/15

セッション2 -危険で野蛮なスノーボード-

2次元では、生徒会が学校一の権力者として描かれていることもしばしありますが、現実の生徒会てどうなんでしょうね?

ちなみに、本作は生徒内では絶対的権力者ですが、教師や教育委員会、PTAに対しては…まぁ大人の付き合いですね(笑)

 規律と秩序を重んじる人間は、スノーボードをどんなイメージで捉えるだろうか?

多分不良の遊びと捉えるだろう。スノーボードは自由で縛られないスタイルを重んじる風潮が強い。雪が積っていれば、街中から山岳まで、ボード1枚履いて、徹底的に遊び尽くす。遊び方は色々、とにかく楽しさと格好良さを求め、そこに妥協は無い。

しかし、その自由過ぎるスタイルが、他者の迷惑になってしまうこともしばしばある。例えば、危険な遊びに手をだしてしまい大怪我をさせる。気ままなファッションスタイルに拘って、時に服装の乱れと捉えかねない事もある。オリンピック種目として盛り上がるスポーツとしても定着しているとはいえ、スキーと比べ礼儀を重んじるような紳士的、伝統的スタイルはボードには存在しない。そのマイナスイメージが肥大化して、ボードに対する悪しきイメージもまた存在するのだ。


「だから、なんでダメなの?!」

雅は大声で嘆いて抗議した。会長から部の発足は認めないと突きつけられてるからだ。

「何度も言っているように、あなたのやろうとしている事はただの遊びだからよ。」

「だから、なんでそう決めつけるの?!」

「部活は教育の一環なのよ!皆で目標を持って、団結して達成する事を目指す場なの!あなたは、ただ部活と称してスノボーで群れたいだけじゃない?!」

「はぁ?意味分かんないよ。こっちは真剣に活動しよと働きかけているんだよ?!目標とか団結だってあるし!」

両者一歩も譲る気配は無い。とにかく俺も会長に聞きたい事がある。

「すいません、会長?認められない理由が俺にも分かりません。掲示板にも仮申請欄として掲示してあったでしょ?確か、生徒会の承認を得て貼る事が認められるはずですよね。生徒会は承認したんじゃないんですか?」

「えっと、神楽君だったかしら?まず掲示板の事だけど、あれ、湯沢さんが勝手に貼付けたのよ?承認はしていないわ。」

は?勝手に貼付けただと?

「6時間目の授業が終わった後に気付いたのよ。承認の判子が無い掲示板の貼紙に無許可で貼付けられていた。だから剥がして来た。」

そう言って、会長は剥がされた部員募集の紙を、机の引き出しから取り出し叩き付けた。

「普通、右下に判子を着くのよ。でもこの紙は何処にも無い。」

確かに無かった。昼休みのラウンジでは、他の部員募集貼紙では右下の片隅に朱色で「生徒会承認」と四角い枠に囲まれた明朝体の文字の判子が押されていた。

「ごめん、ユーキ。騙すつもりは無かったんだけど、どうしても創りたくて。それともうひとつ謝んなきゃ行けない事があって。」

雅が申し訳無さそうに俺にささやいた。

「もう一つていうのが、多分これの事でしょ?丸沼さんが湯沢さんを待っていた理由もそれよ。」

そう言って会長はまた机の引き出しから、今度は違う紙を取り出した。取り出した紙は「新規クラブ活動発足申請書」と書かれた紙だ。紙面には申請と仮申請の選択欄があり仮申請に◯がしてある。クラブ名はスノーボードクラブ。顧問には立山幸先生の名前。問題は部員欄だ。部長湯沢雅、これは問題ない。設立者は雅だ。雅が部長になるのは必然だろう。その下の欄にはカグラユウキ、丸沼智香という記載。

あれ、おかしいな。俺と雅が学校で初めて会ったのは今日だよな。いつの間に提出してたんだ?

「実はこれ、昨日出したんだけど、ユーキの名前予め入れておいちゃった。漢字分かんなかったから、カタカナにしちゃったけど。入部してくれると信じていたから。」

えらく信頼されているな、俺。まぁ俺も最初から入るつもりでいたから別に構わないが、問題は丸沼先輩の方だった。

「何で、私の名前を勝手に書いたの?雅。」

丸沼先輩は冷静で穏やかな口調だったが、顔つきから怒りと呆れが同時に伝わる表情をしていた。

「私、何度も断ったよね?別のクラブで滑るから入らないって。」

「いや〜、そのね。ともちゃんなら、いつか理解してくれると思ったから、つい。」

「いつになっても理解出来ないよ、こんなの?」

やや動揺気味の雅の言葉に丸沼先輩は、ばっさりと斬り捨てた。

「昼休みに、狭山さんに聞かれたの。『貴女もスノボーの部活に加わるの?申請書に貴女の名前が書かれていたわよ』って。だけど、そんな話私は身に覚えが無い。あなたに勝手に書かれたと確信したわ。」

「だから、丸山さんにわざわざ来てもらって、あなたを呼び出したのよ、湯沢さん?あなた、相変わらず身勝手な事してるのね?こっちはもの凄く困るのよ!」

会長は雅を激しく糾弾する。

「雅は何度も私に、自分の創る部活に入って欲しいて言って来た。それはもう何度もしつこくね。本気なのは認めるけど…、でもこっちだって…。」

「雅、さすがに断っている人を無理矢理入れさせる事は、俺も賛同出来ない。取りあえず、今は丸沼先輩を巻き込むのをやめておこう。」

俺も丸沼先輩に部に入って欲しいという気持ちは当然ある。だけど、今無理矢理入れても各々の関係を悪くするし、そうでなくとも本人が参加拒否をするのは明白だ。

「うん、分かったユーキ。」

「今は会長に部の承認をさせよう。それから発足させた後、改めて丸沼先輩を説得しよう。」

雅は渋々俺の言う事を聞き入れた。

「というわけで、丸沼さん、貴女は部活に入る気は全くないのね。」

会長が改めて丸沼先輩の意志を問う。

「当然、無い。」

丸沼先輩はきっぱりと言い放った。雅は悲しそうな表情を浮かべた。

「じゃ、丸沼さんの話はこれで良いわね。」

生徒会室に暗い沈黙の空気が流れた。重い、そんな重さにあらがうべく雅は口を開く。

「今まで無理言ってごめんね、ともちゃん。でも私、ともちゃんと一緒にボードを滑りたい!もっと、ともちゃんとも仲良くなりたいし、一緒にボードの面白さを追求したい!だから、今は部に入ってなんて言わないから、いつか一緒に滑って。ね?」

少し泣きそうな声だ。必死に笑顔を作ろうとするが、目は涙が浮かび上がるような光沢に満ち溢れていた。

「ま、雅が真面目に、本気で部活に取り組むって言うなら、いつかは…考えなくも無い…かな。」

丸沼先輩は、雅の気持ちを察したのか、半ば完全な拒否は出来なかった。今は無理、でもまだ交渉の余地はありそうだ。


 問題は生徒会長だ。まずこの人に承認を取り付けなければならない。

「残念だけど、さっきから言っているでしょう。発足は認めないて。」

俺が質問したもう一つの理由だ。是非問いたい。

「遊びだから認められないからですか?どういう意味ですか?」

「狭山さん、そこは気になっていた。私にはもう関係ない事だけど、雅が真剣に取り組みたいと言うなら、認めてあげもいいんじゃないかと。」

丸沼先輩が更に続いて意見した。ちょっと味方をしてくれている?

「まず、湯沢さんが書いた申請書の活動方針と目標なんだけど。」

そう言って申請書の該当する項目を指差した。メンバーの記載欄の下にあり、確かにさっきから目に入ってはいた。


活動方針:楽しむ

活動目標:がんばる


 あまりにもアバウト過ぎる内容。これじゃ会長はもちろん、丸沼先輩も入りたがらない訳だ。

「雅…いくらなんでも、会長や丸沼先輩じゃなくても、受け入れられないって。」

俺は呆れた。俺と丸沼先輩の名前を勝手に記載するだけじゃなく、方針や目標もこれで提出するとは。

「小学生じゃないんだから、もう少し具体的に書こうよ。」

俺は雅に小言を漏らした。なんか、相手が先輩だとかそう言うのも、タメ語を使うのが慣れたのもあって、どうでも良くなってしまった。

「例えば、2人で話した時のように、方針は『ボードを通して、楽しく仲間とのコミュニケーションを育み、技術の向上と共に自分の可能性を大いに広げる』とか、目標なら『検定の合格と公式大会への多数参加』とか、色々あるだろ?」

俺は雅に例を示した。

「おぉ!!じゃそれにしよ!!ユーキあったま良い!」

雅は、短絡的な思考で納得をして記載欄を訂正しようとした。なんか、雅がもの凄く頭悪そうに見えた。大丈夫なのだろうか、こんなんで鬼のような会長許してくれるかな。

「会長、もしこの記載事項に納得が出来きませんでしたら、後日改めて提出し直します。それで宜しいでしょうか?」

今は申請を受理してもらう前に、会長に納得してもらおう。この申請内容で、俺たちが遊び半分ではなく、真剣に取り組むと言う姿勢を。


 だが、会長の考えはそのようなレベルではなかった。

「そういう事を言っているのではないの。まだ分からないの?私はスノーボードという、こんな遊びそのものを部として認めないと言ってるの?!」

会長の表情が更に険しくなった。

予感はしていた。もしかしたら、会長自身がスノーボードに対する悪いイメージを強く持っているのではないかと。


 もし申請書の記載欄に不備があれば、「この記載内容は認められないから、書き直しなさい。」と言って、後で提出をさせれば良い。だが、会長は「発足は認めない」と何度も言っていた。雅の真剣さが伝わらないとか、申請書の記載内容に不備が多いだからとか、そういう話ではなく、スノーボードそのものをダメと言っているのだ。


 会長の性格は勤勉で真面目だと先生達からも生徒達からもよく聞く。そして規律と秩序を重んじる事でも有名だ。生徒会長に就任したのは、本人が1年時の秋からだ。その時の相手候補と「個性と自由」と「公の秩序」とで様々な討論を展開していたらしい。俺も投票に加わった今年の選挙でも、同じ内容で討論が白熱していた。俺はそれで相手候補に投票していたけど、女帝の力は絶大だった。前年の実績が評価されたのか、組織が強いのか分からないが、ダブルスコアを付けての圧勝だった。

勤勉で真面目、規律と秩序を重んじる先輩が、自由奔放で時にそれ故の失態をやらかすスノーボーダー、ライダーに対して良いイメージを持てないという事は容易に想像が付いた。それに今回は、雅が色々勝手な事をしてしまっているのもあり、尚更だ。


 ただ、これは今俺が思っている会長のイメージなので、本音を確かめてみる事にする。

「会長、会長はスノーボードそのものについて、どのようにお考えなのですか?会長個人の考えを聞かせて下さい。」

「率直に言って、スノーボードは野蛮で危険な遊びよ。こんなの、部として認める訳に行かないでしょ。」

思った通りの答えだ。スノーボードをしている人間からすれば、酷く独断と偏見に満ちた答え。その答えを聞いた瞬間、俺以外の皆は唖然とした。特に丸沼先輩は同様を隠しきれない。表情がこわばっている。

「なぜ、野蛮で危険だと思われるんですか?」

俺は更に質問を続ける。

「そこの湯沢さんが良い例なんじゃないの?去年度のスキー部で色々問題を起こしたらしいわね。」

会長が雅を指差した。雅が動揺をしている。確か初めて会ったときはアルペンスキー部に入っていたと本人から直接聞いていたが、その時は既に辞めていた。

「あれは、私個人の問題でしょ?スノーボードやってる人はみんなこうだって決めつけないで!!」

雅が声を荒げた。今までに無い怒りに満ちた表情だ。

雅がスキー部でやらかした事、それはそれで気になったりはしたが、今はその話をしているんじゃない。

「雅がどうだったのかは知りません。俺は貴女が、スノーボードを野蛮で危険だと思う理由を聞いているんです。」

再度質問した。会長はムッとした表情を浮かべた。1年のくせに生意気なのよと言わんばかりに。

「だって、あんな危険な事をするのよ!テレビでもやってるでしょ?ちゃらくてヘラヘラした男がオリンピックの時に、乱れた服装で登場して、それを批判されたら『反省してま〜す』てふざけた態度をとって!」

会長は感情的になって、昔テレビで話題になった事件を持ち出した。そういえばそんな選手がいたな。世界的にも実績ある選手で、愛弟子をもオリンピックメダリストにしたあの選手が。

「そんなのが、パイプ切ったみたいな変なコースで、ぐるぐる回りながらジャンプするのよ?!あれ、頭打ったら死ぬわよ!」

ハーフパイプで高難易度のエアーやトリックを決めるという意味かな。

「それに信じられないくらいの大きいジャンプ台だってそう!なにアレ?」

それはキッカーの事かな?ワンメイクかスロープスタイルを見ていたのだろう。て!意外とボードの競技見ているんじゃねぇか!?

「あんな事を見よう見まねでやる馬鹿がいるから、事故とかに繋がって健全なスキーヤーが迷惑を被っているんじゃないの?!」

それは確かに否定出来ない。実際スノーボーダーによる暴走事故は常日頃から起きているからだ。自由に滑りたい衝動が強過ぎたり、己の技術を過信したり。それが引き金となり怪我をしたり、させてしまうケースも少なくない。

一連の流れを聞いていた歩夢が口を挟む。

「それじゃ、会長はスキーは事故を起こさないと?」

「それは…その…スキーだって確かに、事故は起きるわね。だけど、スキーは健全なスポーツだから滅多には起きないでしょ?」

会長が言葉を詰まらせた。そして、スキーは健全と何を根拠に言っているのか、よく分からない事を言いはじめた。

「それじゃ、もしスキーが平気でゲレンデを暴走するような、ルール無用のちゃらい人達に人気があったら?それでも健全と言い張れますか?」

歩夢はさらに追い詰める。臨戦態勢だ。会長の言葉の矛盾を指摘し、論破する魂胆だ。

「え、それは…そんな人達がスキーをするわけないじゃない!現に湯沢さんだって…」

またその話か、だから雅は関係ない。雅が過去に何をしたかは知らないが、それは論点のすり替えだ。


 そもそも会長はスキー=健全、ボード=野蛮という完全なイメージ先行に捕われている。いや、これは会長に限らず、世間的にそういう風潮はあるかもしれない。なぜこんなイメージがあるのか。結局の所、スキーが「健全」嗜好の強い人達に人気があり、ボードは「野蛮」な人達に人気が出てしまった、いやこういう言い方は語弊があるな。

正確には健全嗜好の一般人目線から見た「野蛮人」、見方を変えれば「健全」という常識に捕われるのを嫌う自由人に、人気が出たスポーツだからだと思える。原点を辿れば、それらを創った人間が、各々そういうタイプだったからだとも言えるが。

だが、競技者がどのようなタイプの人間であれ、スキーもボードも一歩間違えば大事故に繋がりかねない危険がある事に変わりない。逆にマナーや安全意識、それらのルールをしっかり守っていれば、どちらも健全なスポーツとして成りうるのだ。それこそ歩夢が言ったような「ルール無用のちゃらい人」がボードはやれど、スキーはやらないなんて理論は成り立たないのだ。


「だからさ、なんでそこで雅ちゃんを持ち出すんですかぁ?スノーボーダーは雅ちゃん以外たくさんいるんですよぉ?」

歩夢は女帝を煽る。中々恐れ入った奴だ。だがその煽りは俺も言いたかった。

「そういうあなたたちはどうなのよ?あなたたちだってスノボーしているんでしょ?健全なスノボーしているって言い張れるの?!」

会長は歩夢の問い詰めから逃げるようにして、俺たちに質問で返した。

「僕の質問に答えてませんけど、会長?」

会長はもうまともに議論出来る様子は無い。これ以上会長を追い詰めようとすると、不毛な言い争いにしかならない。

「歩夢、良いんだ。これ以上やったら但の喧嘩にしかならない。ちょっと俺に言わせてくれないか?」

そう言って歩夢をなだめた。会長の質問に答える事にする。

「俺はボード暦3年になります。自分では意識しているつもりではありますが、本当はまだ未熟で、周囲に迷惑をかけているかもしれません。」

正直俺もルールやマナーをどこまで守れているか自分でも分からなかった。守ろうとしない訳ではない。

ただ、自分のスタイルである高速で滑り降りるフリーランでは、もしかしたら暴走行為を働いていたかもしれない。ゆっくり滑るボーダーを右へ左へよけながら追い越して滑っていたが、彼らの中に俺の事を迷惑だと思った人もいるかもしれない。なんだ、あの暴走ボーダーはと。

「つまり、あなた自身は健全なボーダーではないと?!」

会長がほくそ笑んだ。

「その可能性はあります。だからこそ部を立ち上げて、会長が仰る『健全なスポーツ』として、より多くの事を学びたいのです。」

この気持ちに嘘偽りは無い。今の未熟な自分に対し、ちゃんと知識や技術を学びたい。より高みを目指して、ボードの楽しさと奥深さをもっと知りたい。

「スノーボードは楽しい遊びでもあり、健全なスポーツでもあります。ですが、今の俺は一歩間違えれば会長の言うように、野蛮なボーダーになってしまうかもしれません。だからそうなる前に、正しい知識を身に付けて、本当の意味でスノーボードを楽しめる場所、それをしっかり学べる場所が欲しいのです。そのためには、このスノーボードクラブを創るしか無い、そう思っています。」


 子どもの頃から学ばせる小中学校のスキー教室や、この学校のアルペンスキー部、ノルディックスキー部のように、公的機関の元で学べるスキーは数多い。しかし、スノーボードはスキーのそれと比べると遥かに小規模だ。それに反して遊戯人口は若年層ほどボードの方が数多い。そうなると、必然的に無知なボーダーを多数産んでしまう。それがボードが危険という偏見をさらに増長させてしまっているのではないかと感じている。


「このスノーボードクラブでは、立山幸先生が顧問を引き受けてくれるそうです。立山先生はボードのインストラクターの資格もある方なので、発足が出来れば、俺たちは先生から沢山教わる事が出来ます。だよな、雅?」

「え、…うん、勿論!先生はOKて言ってたよ!LINEでも会話してたから、ちゃんと証拠もあるよ。」

丸沼先輩の時はあんなんだったからか、今度はLINEのトーク画面をこちらに見せて証拠を掲示して来た。

画面には、通信相手の名前に立山先生、吹き出しの表示は「スノーボード部、無事出来ると良いね(^^)先生も早く顧問になりたいな〜♪((O(〃⌒▼⌒〃)O))♪みんなで、頑張って楽しい部活にしようo(*⌒O⌒)b」と書かれていた。顔文字やスタンプも大量に貼られていて、茶目っ気たっぷりなトーク履歴が残っていた。

雅がドヤ顔で右手に持ったスマホを真っ直ぐ会長に突き出していた。さっきまでの怒りと悲しみで涙目だった顔がウソのように。


 俺は更に続けた。

「それと、丸山先輩!」

「え?」

俺は丸山先輩に顔を向けた。丸山先輩はきょとんとした顔でこちらを見つめ返している。さっきまでこわばっていた表情は和らいでいた。

「今言ったように、俺はボードをもっとよく知りたいし、しっかりと学びたい。そのためには、丸山先輩が必要なんです。」

「え、ええと…私は断ったでしょ?」

戸惑いを隠せない丸沼先輩。

「はい、ですからもう一度考え直して頂けないでしょうか?先輩はテクニカルをされていましたよね?先輩が培って来た技術と知識、俺にも是非とも教えて欲しいのです。よろしくお願いします!」

俺はそう言って頭を深々と下げた。

「そんな、そんな事言われても…」

丸沼先輩は更に困惑している。それでも俺は頭を上げなかった。

「僕からもお願いします!一緒にボードをしてください!」

更に歩夢も俺の隣に立って、先輩に深々と頭を下げた。

「2人とも、ちょっと、と、取りあえず一旦頭上げて。」

2人の後輩にいきなり入部してくれと頭下げられた同様なのか、顔を上げた時、丸沼先輩は赤面していた。しばらく考え込んだ。

考えた末に、何か吹っ切れたように、決意を固めたかのように、穏やかではありながら真剣な表情が目に写った。

丸山先輩は会長に対して切り出した。

「狭山さん、申請書の私の名前の記載、取り消さなくて良いわ。」

「は?」

会長は状況が飲み込めずにいた。何を急に言い出すんだこいつは?と思いたげな。

「狭山さん、私狭山さんに対して凄い怒りを感じた。『スノーボードは危険で野蛮な遊び』。その一言は私は許せない。私がテクニカルという競技でどれだけ真面目に取り組んで来たか知ってるかしら、狭山さん?」

「え、知らないわよそんな事。」

唖然とした表情で答える会長を尻目に丸沼先輩は続ける。

「テクニカルはスノーボードの最も基本中の基本である、ターンをいかに正確に且つハイレベルにこなすかを競う競技よ。基礎からしっかり学んでいないと、出来ない競技なのよ。見よう見まねで出来る、簡単なグラトリやパークで満足出来る遊び人ボーダーとわけが違う。」

丸沼先輩は更に語る。

「勿論、スノーボードをするにわたって、クラブチームのインストラクターや先輩から、再三マナーや安全に対する意識を叩き込まれた。ゲレンデでの全ての基本が出来ないと、テクニカルは出来ないとね。それらをすべてこなす事ができたからこそ、私が出場した大会でも賞を貰うなどの実績が作れたと自負している。だから、短絡的にマナーの悪いボーダーと一括りにして、ボードそのものを危険で野蛮とする狭山さんの言い方にもの凄く腹が立った!」

会長が「スノーボードは危険で野蛮」と言った時に一番激しい動揺を見せたのが、丸沼先輩だった。これまでの経験とプライドが、会長の無知と偏見に満ちた物言いで大いに傷つけられたと事は想像に難く無い。

「だけど、こうして2人の後輩からボードをもっとよく知り、学びたいて頭を下げられて、私は決めた。狭山さん、証明してみせるわ。貴女の無知と偏見に満ちたスノーボードに対する考えを改めさせるために。」

そして丸沼先輩は宣言した。

「私は、スノーボードクラブに入部します!」



雅がアルペンスキー部でやらかした事を描くのは、まだ当面先になります。だけど、いつかは因縁のあるアルペンスキー部のキャラクターを登場させます。いつになるかな(--;


あと智香てお人好し?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ