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1章 邂逅編 Episode:26 英雄(ヒーロー)なんて

2076 | 03.30 / 17:56 あるビルの屋上


そこは、現実の世界とは切り離されたような異様な雰囲気に包まれていた。屋上一面は不気味な光が溢れ、鎖が生き物の様に蠢いていた。

中心には大きな十字架が立っており、磔にされたキリストの様に少女が手足を縛りつけられていた。

半田は少し離れた所から何かを十字架に向け投げた。それは周りの光と同じ色絵押していた。掌と同じくらいの大きさの球はゆったりとした放物線を描き十字架の前で止まった。


『湊玉の調べに導かれ、現世にもどれ。古の龍の巫女よ。』


半田が何か呪文のようなものを発すると、球は独りでに動き出し十字架の周りをぐるぐると回り出した。灯篭からも同様に光が溢れだし同じようなリング状の結界を作り出す。


しかし、それだけで何も起こらない。


「どういうことだ?なぜ発動しない...」


半田が十字架の目の前に立ち呟いた。


「巫女の契約条件は整っているはず...依代、座標、舞台、湊玉」


「どうしたの?これで終わり?」


美園は半田を挑発するように言った。半田は十字架を睨み手を翳した。


「ぐっ!」


美園を縛っている鎖がよりきつく美園を縛り上げる。


「そう言うことですか...貴女。アレを隠しているんですね?」


ギクリ、と美園は身震いをする。


「まぁ、いいでしょう。何れ彼らはここへ来る。」


半田は獰猛な笑みを浮かべ身を翻す。いつの間にか半田の後ろには二人の男が立っていた。俯いていて顔は分からないが、二人の体を二匹の大きな蜘蛛が蠢いたように見えた。


半田たちの居るビルに大勢の人影が集まっていた。



?????????????


暗い空間の中でオウガと鋼龍は外の風景を静かに見つめていた。


『どう思いますか?』


先に静寂を破ったのはオウガだった。後ろに向け言葉をかけた。


『たとえ、こいつらが二人で戦ったとしても勝率は三割を切るかどうかだ。向こうのガキは憑依型だろうが、五分じゃあ、どうとも言えねぇ。』


やはり、とオウガはその意見に納得した。たとえ二人掛かりだとしても、あの時の半田はまだ本気を出しているようには見えなかった。


(まだ、龍我マスターを戦わせるわけには...)


『かと言って、』


と、何か鋼龍が続けて


『こっちのガキは、如何せん。未だに力の使い方もわかっちゃいねぇ。だが、』


オウガは振り向き鋼龍を見た。


『アイツはまだまだ伸びるな』


自分の顎に指をあて面白そうに外の風景を見ていた。


『なんだ?何かおかしいのか?』


彼は知らないだろう。この空間には自分の姿を確認する鏡の様なものは無い。今彼の顔は。誰が見ても、


『いえ、貴方もそんな顔するんですね...』


そう言ってオウガは目を瞑った。照れくさそうに鋼龍はそっぽを向いていた。

すると、この空間に誰かが入ってくる感覚がした。


振り向けば、よく知った少年の顔だった。


『よぉ。』


片手を上げて少年は近づいてきた。


『オウガ、それに鋼龍だっけ?ありがとな。助けてくれて。』


言いにくそうに龍我は話す。何かを口にしようとすると噤み、そしてまた何かを言おうとする。


『フフッ。大丈夫ですよ?思うだけでこちらには伝わりますから。』


オウガは目を閉じ、龍我に意識を集中させる。暗い世界に淡く光りが灯り始める。

写真の様に一部分一部分浮き出てきた。


(ごめんな...)


オウガの耳にはそう聞こえた。


(護れなくてごめん。)


それは、記憶しゃしんの中から聞こえていた。声のした一枚を手に取った。

オウガの頭の中に何かが流れ込む。


『言ってなかったわね...私は花谷美園』


そこは、初めて名前を聞いた場所。


『俺は古月龍我だ』


『綺麗な名前だな。』


それは彼にとって何物にも代えがたい大切な存在である。出会って間もない、それでも彼女は彼を必要とした。護りたい。初めて思った相手だろう。


『だいじょうぶ?』


目の前には泣きそうな顔の美園が映る。助けるために護るために戦って負けた。


ごめん、その言葉が延々とオウガの頭の中をめぐる。


龍我は英雄とか、ヒーローに憧れていた訳じゃない。むしろ、何気ない毎日が大好きだった。

いや、憧れてはいたのだろう。どちらかというと、

諦めていた。

記憶から手を放すともう一枚を手に取った。


『これは...』


記憶から流れ込んでくるものは、


(そうですか、わかりました。)


オウガはなぜだろうか、胸の中心が熱くなっていることを感じた。感動したからとか胸打つような出来事があったとか、そんなようなことじゃなく、オウガ自身忘れかけていた何か懐かしいものだった。


『大丈夫ですよ。』


瞳を開き前を向いた。にっこりと笑い龍我に近づき、


『えっ?』


ギュっとオウガは龍我を抱きしめてまるで、子供を慰める母親の様に


『大丈夫です。私たちは貴方マスターの味方ですよ。いつだって頼ってください。』


『ああ。ありがとう。』


オウガは龍我から離れた。


『さて、主人マスター。貴方の言いたいことはなんとなくわかりました。ですよね?鋼龍。』


ふん。とだけ鋼龍は言って顔をそっぽを向いた。


『お前ら...』


オウガはにっこりと笑って、鋼龍は目をこちらに向けて、龍我から瞳を紅く灯して。


『『『助けに行きたい』』』


初めて意見があった瞬間だった。

皆さんお久しぶりです。今回は龍我中心の回です。メッセージお待ちしてます

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