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行き場のない散文  作者: 茶屋
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異世界からの呼び声


 余羽聖司はごくごく普通の高校生だった。成績も交友関係も性格も大体が平均的。ありふれた高校生だった。

 だったというのは無論、それが過去の話だからだ。

 彼の人生はひょんなことから狂いだす。

 ある日突然、彼の目の前に美少女が現れたのだ。

「私の世界を、救って下さい」

 余羽が唖然としたのも当然だ。

 下校途中の道半ばで突然空間に裂け目ができたかと思えば、その亜空間のなかから美少女が這い出してきたのだ。

「やっと見つけた。選ばれし者」

 余羽は目をしぱしぱさせると眉間にしわを寄せ目頭を軽くマッサージする。

「私の世界を、救って下さい」

 それほど疲れがたまっている気もしないのだけれど、実際のところはわからないものだ。しかし幻覚を見るほどとは。今日は帰ったらすぐに寝よう、と余羽は思うのであった。

「何故無視するのですか」

 余羽は美少女を無視して歩き続けるのだが、美少女もその後をついてきて一向に諦める気配がない。

 余羽は今まで幻覚を体験したことはなかったが本で読んだ幻覚の知識が多少あった。

 たしかシャルル・ボネ症候群の幻覚は映像のみ。幻聴は伴わないはず。レビー小体型認知症? いやそんなもんになる歳じゃない。だとしたら統合失調症か? 

 精神科に行くのは気が引けるが、やはり受診すべきなのだろう。


 その後、美少女はどんな時でも余羽の前に姿を現した。ただし、決まって余羽が一人の時だ。異世界への干渉は極力抑えなければならないと言って姿を消すのだ。だから余羽以外に美少女を見たものはいない。その声を聞いたものはいない。

 余羽はそれは幻覚なのだから当然とも思えた。

 病院に行ったが脳の異常は見られなかった。念のため精神病院にもいったが、正確な診断は下されなかった。ただ、幻覚症状を伴う何らかの精神疾患だろうと推測だけがなされた。

 次第に余羽の精神は病んでいった。一人になると必ず美少女が現れ、あなたは救世主、自分の世界を救ってほしいと懇願する。

 余羽がいくら無視しても、美少女は一向に諦めてくれる気配はない。

 精神が損耗する中で、次第に現実と幻覚の境界が不鮮明になっていく。

 食事も喉に通らず、体力も衰えていく。

 それでも少女はささやき続ける。


 世界を

    救って

 あなたは

    救世主

 あなたは

    勇者


 いっそ幻覚の美少女の言葉に答えてしまえば、楽になれるのではないかとも思う。

 だが、寸でのところでそれだけはやってはいけないと脳が警鐘を鳴り響かせる。

 それをやってしまえば、何かが終わる。

 下手をすれば死ぬかもしれないという気さえする。

 彼女の存在を認めた瞬間、何もかもが崩れ去ってしまうんだ。

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