表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

7.可愛いのに野獣?

本当に申し訳ありませんでしたッッ!!


1か月ぶりの更新。


サブサブタイトルは『そして冒頭に戻る』。


いや、長かったここまで…………。





「……ん……」


葉の擦れる音を聞き、瞼をあげる。

葉の隙間から漏れた光が眩しい。


「知らない天井ならぬ知らない森だな……」


俺は起きたてでだるい頭を無理矢理覚醒させ上体を起こし、現状を冷静に理解しようと努める。


「グリフォンを倒し終わった後……久保田に突き落とされた!?」


よくよく辺りを見てみると、俺を中心に見事な赤い薔薇が咲いていた。

材料が血なのがとっても残念だ。


「すると突き落とされた後、俺は意識を失いそのままここに落ちてきてグロテスクなことになっていたと。つまりまだここはダンジョンってわけだが…………」


辺りをもう一度よく見てみる。


「……どっからどう見ても森だな。太陽らしきものもあるし」


シルヴィアいわく、ダンジョンは未知の領域なので何があるか分からないらしい。

それが今になってようやく分かった。

というか実感した。

意味わかんないな。


「とりあえず俺は森初心者だからな。救助が来るまで待つ……いや、救助は来ないんだったな」


二度寝しようと思ったがそうも言っていられない。

状況はあまり良くないのだから。


「そうと決まれば行動開始だな」


そう言って俺は立ち上がる。

すると、


ガサガサ。


咄嗟に音のした方向に構える。

しかし、草むらから出てきたのは愛くるしい見た目の犬だった。

犬は俺が作った血だまりをペロペロと舐め始めた。


「なんだ……ただの犬か……」


そう言って俺は無警戒に犬へ近づいた。

この時俺は気づくべきだった。

ただの犬などダンジョンに存在しないことに。


俺が瞬きをすると犬は居なくなっていた。


「あれ?」


後ろを振り返ると、犬がいた。

――――――――赤く染まった人間の右腕をくわえて。


「え?」


猛烈な違和感に体が硬直する。


(腕?誰の?この場に人間は俺しかいないはず……)


嫌な予感がし、ゆっくりと視線をおろすと…………、


右腕が無かった。


「なっ!?」


意識すると同時に激痛が走る。

思わず蹲るが、すぐに『超再生』がはたらき、腕は再生した。

が、腕が治ってもなお脂汗は止まらず血に汚れた装備をさらに不快なものにしていく。

痛みからか?確かにそれもあるだろうがこの場合もっとも俺を動揺させているのは、


何が起きたのか分からない、ということだ。


腹切りによりステータスは以前よりも格段に増している。

今の俺のステータスは久保田や木下、雨宮をも凌駕しているはずだ。

にもかかわらず攻撃に対処するどころか相手の攻撃すら見えなかった。


端的に言って、俺は自身が理解不能な事態に恐怖していた。


視線を子犬に戻すと、子犬は俺の右腕を前足で固定し、食べていた。

俺が呆然としている間に子犬は骨まで平らげそのクリクリとしたつぶらな瞳をこちらに向けた。

"もっとくれ"とでも言うかのように。


「っ!?」


逃げなければ!

俺は反射的に子犬とは逆方向へ全力で走り出した。

否、正確には走り出そうとした。

背後にもう一体の子犬を確認するまでは。


「どうしろってんだよ……」


するとさらに辺りの茂みから子犬が複数現れた。

囲まれていたのだ。

冷や汗がこめかみを流れ、背中から大量の汗が噴き出す。

まさに絶体絶命の状況。

子犬達が俺へ襲いかかろうとした時、


目の前の子犬達が薙ぎ払われた。


「は?」


子犬達を薙ぎ払った者は木の陰に居たのでよく見えなかった。

しかし人の輪郭が見えた。

子犬達が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

俺はそれを見て安堵した。

自分を脅かす脅威が去ってゆくのだから。

しかしそれは大きな間違いであったと言わざる負えない。

ここは迷宮。

まともな人など居はしないのだ。


俺は振り返って助けてくれた恩人を見る。


「助かったよ。ありがとう」

「…………」


恩人は無言だった。

様子がおかしいのでまた俺は声をかける。


「な、なあ。こっからじゃ良く見えないんだ。出てきてくれないか?」


そう言うと、恩人はゆっくりと歩きだした。

確かに人だった。


首から下(・・・・)は。


「なっ!?」


そこに居たのは一言で言えば狼人間(ワーウルフ)であった。

体躯は2メートルくらい。

腕や足は筋肉でパンパンに膨れ上がり、爪や牙はかなりの鋭さを持っている。


この世界には亜人がいる。

獣人もその中の一種族だ。

獣人は理性を持ち、言葉を話すことができる。

最初はその希望もあった。


だが、目の前のワーウルフは牙の間からダラダラと唾液を滴らせ、理性があるのかどうか疑わしい。

いや断言しよう。絶対に無い。

何よりその濁った目は先のグリフォンのように獲物を前にした狩人のようであった。

それに先ほど俺が全く認識できない速度で動いたはずの子犬達を何らかの方法で容易く蹴散らしたのだ。

状況は好転してなどいない。

むしろ悪化した。


「に、逃げないと……ってうおっ!?」


結論に行きつき、すぐに後ろへ全力疾走しようとしたが転倒した。

すぐに起き上がろうとしたが、足が切断されていた。

再生し、逃走を再開。


「ニガサナイ」

「ぐがッ!?」


ワーウルフが片言ながら話したかと思えば、腹の中心をワーウルフの腕が地面まで貫通していた。


「離せェエエ!」

「ゴハン」


必死に抵抗を試みるが、まったく効果はない。

そして獣臭い口臭とともにワーウルフは俺に口を近づけ、

肩に牙を立てた。

途端に激痛が走った。


「ぐァアアアア!!」


牙が骨に達し、ゴリゴリと音を立てる。


「いってェエエエ離せよォオオオオ!」


やがて骨の耐久度は限界を迎え、

バキッというあっけない音とともに折れた。


「ぐぁあ゛あ゛あ゛あ゛!!」


痛みにより頭が真っ白になる。

体からは致死量を越える大量の血が噴き出した。

だが、それも一瞬。

《超再生》によりすぐに骨も血も皮膚も完全に再生する。


「はあ、はあ、くっ!」


あまりの痛みに目を閉じ、歯を食いしばった。

我慢だ。

もう逃げることは諦めた。

だからコイツの腹が膨れるまで我慢して、コイツが去ったその時にまた行動すればいい。

それまで我慢すればいいのだ。

もはや俺はそう思うことにした。


そこまで考えた俺は目を開けた。


「は、はは。今日はとんだ厄日だな」


多種多様な異形の怪物どもが血の匂いに誘われたのか俺の方へと集まってくるのが見えたのだ。

絶望。

この一言に尽きる。


「どうしろってんだよ…………」


もはや悪態をたれることしか出来なかった。






どうして、どうしてこうなった?考えた。だけど答えは見つからない。


なぜだ?なぜ俺だけこんな目に遭う?

おかしいではないか?


グチャグチャクチャクチャ、ゴクン!


辺りには俺の血肉が飛び散り、内臓が散乱している。

それを複数のこの世のものとは思えない異形の怪物が食らっている。

目の前の一際大きな異形の怪物は俺の肉を抉り、千切り、食らい続ける。

時に頭を潰され、腕や足を折られ、首を引っこ抜かれる。

何がどうなっているのか分からない。


「意味わかんねぇよ……グェッ!」


丸太の如く太い腕に腹を貫かれた。

体が痙攣する。

貫かれた箇所は熱を持ち、命の雫が吹き出しているのが見て取れる。

尋常でない痛みが体を支配する。


「グゥアアアアアアアア!!!!」


(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い)


痛みと恐怖による涙と鼻水と冷や汗が止まらない。

その間にもあらゆるところが壊されてはそれ以上の速度で治って(・・・)ゆく。

まるで傷など最初からなかったかのように。

そしてまた食われるのだ。


(食われて治って、食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って食われて治って・・・・・・)


それの繰り返しだ。

なんなのだろうこの拷問は。

いつまで続くのだろうこの地獄は。



「もうやだ。疲れた」


自分は助からないだろう。

絶望と諦念で頭が一杯になった時、

急激な眠気により、瞼が重くなった。


ふと頭をよぎったのは俺をこんな目に合わせた奴らの顔であった。


俺は奴らを絶対に、そう、絶対に許さない!!

いつか奴らを……



殺してやる!!!



自分が狂い始めていることにも気付かず、

如月 聖也は意識を手放した。





ここはどこだろう?

見覚えのない白い空間に俺はいた。

なんだか体がフワフワする。

あれ?俺何してたんだっけ?

確か…………そうだ!怪物どもに食われていた!


そこまで思い出すと目の前に何かが浮かび上がった。

あれは……俺か?

力なく気を失っている俺が、怪物どもに食われ続けている姿がそこに映し出されていた。

俺はついに幽体離脱をしてしまったようだ。

にしても思い出すとイライラしてくるな。

なんで俺がこんな目に合わなきゃならない!!

そもそも久保田の野郎が俺を突き落とさなければこんなことにはならなかった。

次会ったら絶対ぶっ殺してやる!!


いつもそうだ。

傲慢な強者は弱者を利用し、要らなくなれば使い捨てるのだ。

理不尽。

理不尽だ。

こんなものは理不尽以外の何ものでもない。

真の強者ならば、弱気を助け強きを挫くべきではないか。

救うならわかるが、追い詰めるなんてもってのほかだ!

この世界は弱肉強食。

そんなものは間違っている!


…………なってやる。

ああ、なってやるさ。

誰もやらないなら俺がなってやる。

弱者を救い、傲慢な強者を駆逐する。

そのためならどんな手段をとってでも強くなってやる。

この世界で力が全てだと言うのなら、


俺が力で世界を変えてやる!!


その時、俺の中で確かに何かが変化したのが分かった。

そして俺の意識は急速に浮上していった。





目が覚める。

目の前にはトカゲに羽が生えたような怪物が大口を開けて俺に食らいつこうとしていた。


「口くせぇんだよトカゲ野郎が!」


俺はそう言ってトカゲ野郎の口内に思いっきり拳をぶちこんだ。

俺の拳はトカゲ野郎の喉の奥まで一気に届いた。

そのまま爪を立て、口内を引っ掻きながら思いっきり腕を引き抜く。


「グルァ!?」


これに驚いたのか奇声を発しながら後退するトカゲ野郎。

甘いな。俺の攻撃はこっからだぜ?

トカゲ野郎が体勢を立て直す前に俺は素早く奴の背後に回り、大きく跳んで奴の首を力の限り蹴り飛ばした。

ゴキンと鈍い音がなり、体調3メートル程度のトカゲ野郎は地に倒れ伏し動かなくなった。


俺はトカゲ野郎の頭にそのまま着地すると、俺を囲んでいる怪物、魔物どもを睨めつける。

体調はすこぶる良好。

血を流し続けたからか前よりずっと体が軽い。

ひょっとしたら切腹した時より能力が上昇しているかもしれない。

切腹したことを少し後悔した。

さて、そろそろ始めようか。



「かかって来いよ。お前らの(経験値)が世界変革の第一歩だ」






そこから先は俺の独壇場だった。

襲い来る魔物どもをちぎっては投げちぎっては投げ…………いつの間にか俺の前に立っている魔物は居なくなっていた。


「ふぅ~やっと終わったー」


思わずその場に寝転ぶ俺。

…………いや、実際ギリギリだった。

あれだけ啖呵きったけど実力的には俺がやや上というなんとも危ない戦いだったのだ。

受けた攻撃数は50回以上。

その内間違いなく致命傷だったのは30回くらい。

《超再生》さん万歳だぜ!


「さて、休憩終了。急がないと死体が消えちゃうからさっさと回収しないとな」


ドロップアイテムは稀にしか落ちないので今回はそのまま死体で持ち帰らせてもらう。

俺は国に見捨てられたからこの先、生きていくなら冒険者が良いだろう。

その時に売れれば金が稼げる。

こんだけあれば、まあそこそこ貰えるだろう。


俺はその後ひたすら魔物の亡骸をアイテムボックスに放り込み、倒した魔物の中で明らかに売れなさそうな物以外は全てしまうことができた。


「ファンタジーってのは良いなぁ。さて、とっととここを出ますかね。まあ、道なんて分かんないけど」


そう思って歩きだそうとした時に気づいた。

汗や血に汚れ、俺がとてつもないにおいを放っていることに。


「…………まずは体きれいにするか」


俺は水音がする方へと向かった。

どうか血の湖でないことを願って。






さあ、今回も真っ赤な物語でしたね(^^)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ