3.無能の烙印
どうしましょう。
思った以上にドス黒くなってしまった(¯―¯٥)
「再起動!」
しまった!
スマホの癖がつい出てしまった。
いや、俺のスマホ最近故障気味でね?
ゲームよくやるんだけど強制終了多くてさ。
そんな時はやっぱり再起動に限るじゃん。
きっとステータスプレートもバグってるんだよ。
だってさっきお姫様がスキルは1つって言ってたじゃん!
だから3つ表示されるなんてありえない。
結論。つまりバグ。
でもこのステータスプレートって電源ボタン無いからどうやって再起動するのかなぁとか考えてたら突然画面が消えて再びステータスが浮かんだ。
びっくりした。
「……無駄にハイテクだな。音声コマンドありかよ……」
なんとも言えない気持ちになりながら再び表示されたステータスを確認するが、やはりその内容は再起動する前とまったく変わらなかった。
「つまり俺はスキル3つ持ちのイレギュラーってわけだ」
……やばい。破滅の未来しか浮かばん!
だってよりによって血流すほど強くなるスキルだよ!?
これあれじゃん!リアルな肉の壁役任されるやつじゃん!
嫌だよ?俺痛いの嫌いだし!
そこでシルヴィアから一声かかった。
「皆様どうやらステータスを確認できたみたいですね。それでは確認いたしますのでこちらにお並びください。大人の方々は別室で確認させていただきますのでこちらにお越しください」
シルヴィアの言葉に従って、教師達が謁見の間から出て行った。
YA☆BA☆I☆!
このままだと俺本当に肉の壁確定だよ!
というわけでこの一大事を回避するべくもう一度ステータスを見てみる。
「……起動」
するとステータスプレートが光り、ステータスが出た。
あれ?
*
如月聖也 17歳 人族 Lv.1
職業:腹切侍
HP:1000/1000 MP:100/100
ATK: D
DEF: E+
AGI: C-
DEX: D+
VIT: B
スキル:
・侍の最期腹切り
・BP操作 現在BP:23
・超再生
*
なんだ。興味本位からやってみたがステータスオープンじゃなくても普通に作動した。
どうやらまだ隠されたカラクリがありそうな……ってそうじゃねぇ!
早く打開策を見つけないと。
くそっ!兵士がもうそこまで来てる!
ん?なんでBP溜まってるんだ?
そこで俺はさっき久保田に殴られてたことを思い出した。
そういえばその時唇が切れて出血してたっけ。
痛かったなぁ、あれ。
切れた唇に触れると、今はまったく痛くなかった。
「……おかしいな?」
さっきまでいたかったはずなのに……ってそうか!
これがスキルか!
すごいなスキルって……。
「あれ?確かBP操作って……」
閃いた!
早速実行に移す。
「あるはずだ……絶対に!」
こういうファンタジー小説には必ずあのスキルがあった。
そしてついに俺は見つけた。
「……ようやく見つけた!」
俺の前の奴が今、ステータスプレートをチェックされてる。
急がねば!
そしてとうとう俺の番が回ってきた。
「ステータスプレートをこちらにお見せください」
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
俺はなに食わぬ顔でステータスプレートを手渡す。
ステータスプレートを見た兵士が一瞬固まる。
内心生唾ゴックンの俺。
やがて兵士は俺にステータスプレートを返してきた。
「……確認が終わりました。お返しいたします」
「はい」
ふぅ……なんとか乗り切ったか。
ちなみに俺の今のステータスはこんな感じだった。
*
如月聖也 17歳 人族 Lv.1
職業: 侍
HP:1000/1000 MP:100/100
ATK: D
DEF: E+
AGI: C-
DEX: D+
VIT: B
スキル:
・刀術 Lv.1
*
もう分かっただろう?
ちなみに俺の本当のステータスはこんなんだ!
*
如月聖也 17歳 人族 Lv.1
職業:腹切侍
HP:1000/1000 MP:100/100
ATK: D
DEF: E+
AGI: C-
DEX: D+
VIT: B
スキル:
・刀術 Lv.1
刀を振るう才能。何もしなければ素人同然。
・隠蔽 Lv.1
ステータスを隠蔽できる。
・侍の最期腹切り
・BP操作 現在BP: 3
・超再生
*
そう。俺はBP操作を早速利用し、スキル【隠蔽】と【刀術】を得たのだ。
やはり異世界チートものと言ったら主人公は自分のステータスを隠している事がほとんどだ。
それを思いだしたので、試しに探してみれば見事にあったというわけである。
しかし、隠蔽だけだとスキルが無くなってしまう。
ジョブが侍だったので慌てて俺は刀術を取得したわけだ。
我ながらかなりの機転だと思う。
にしても兵士が一瞬固まった時は焦ったな。
バレたかと思ったからな。
でも言われてないってことはバレて無かったってことだよな?
だったらなんで固まったんだ?
俺が思考を巡らせていると、突如騒がしかった場がさらに騒がしくなった。
「すごい木下君!」
「剣聖だってよ!」
「いいなぁ!」
「能力値も平均B+らしいぞ!」
木下がどうやらすごいらしい。
すると近くからもこんな声が聞こえてきた。
「雨宮さん槍聖!?」
「すご~い」
「平均A-っておかしいでしょ!?」
「ほ、褒めても何も出んぞ……」
どうやら雨宮は木下より強いみたいだ。
「さっすが久保田さん!」
「拳聖なんてイカしてるっすね!」
「平均Bなんて最強じゃないですか!」
「へへへ!ま、俺だからしょうがねぇよな!」
これはあんまり聞きたく無かったなぁ。
俺なんて平均D+なんだが……。
世の中は不公平だな。
ま、俺も勇者だ。
そこまで悪くないだろうし悩むことは無いか。
「皆様確認が取れました。どの方も平均能力値C以上という素晴らしいステータスですね。さすがは勇者様方。優秀で頼もしい限りです」
…………んっ!?
あ、え?
もしかして俺って……最弱?
もしかしなくても俺ってば勇者様方にカウントされてない?
兵士さんが固まったのってそれが理由?
俺が驚愕のあまり固まっていると、不意に手からステータスプレートの感触が消えた。
「お前の俺がちょっくら拝見してやんよ!」
振り向くと、右手に俺のステータスプレートを持った久保田がニヤニヤと気持ちの悪い笑みを顔に張り付けていた。
「か、返せよ!」
「っせぇな!」
慌てて奪い返そうとするが、またも殴られた。
が、今度はさっきと違い数メートルほど吹き飛ばされた。
それだけではなく、切れた唇からは先程よりも多くの血が流れた。
そして口の中に異物を感じたので吐き出すと、血塗れの歯が地面に音を立てて転がった。
威力が全く違ったのだ。
恐らくジョブやスキルを認識したことでパワーアップしたのだろう。
「聖也君!!」
雨宮さんが心配して駆け寄って来てくれた。
こんなもの超再生を使えば一瞬にして治るが、力がバレてしまうため、使うわけにはいかない。
激痛に苦しみながらも、取り返そうと再度久保田を視界に入れたが、既に遅かった。
場に久保田の笑い声が木霊した。
「君は……人に暴力を振るっておいて何が楽しいんだッ!!」
雨宮がついに久保田にキレる。
いつもならここで退く久保田だったが、教師がいないからか、はたまた俺のステータスプレートを見てテンションがハイになったのか、とにかく今日は違った。
俺が悔しさで歯噛みしているのを見たのか、久保田は愉しそうに俺のステータスをバラした。
それも態々皆に聞こえるよう、大声で。
「だってよぉ、こいつの能力値―――――――――」
そこで久保田はステータスプレートを僕に投げてきた。
カラン、と音を立ててステータスプレートが僕の前に落ちた。
その音は静寂に訪れている謁見の間に嫌に響いた。
もちろん、その後の久保田の言葉も。
「―――――――D二つにE一つ。平均に関してはD+だぜ?」
またも場を静寂が支配した。
そして、徐々に嘲笑が響き始めた。
「D+って嘘でしょう!?」
「弱ぁ~い」
「私より下がいるなんてね」
「役に立たねぇな」
そこで久保田がまた調子に乗った。
「そうだ。コイツはなんの役にもたたねぇ!無能なんだよ!無能!」
しかし俺には止める手立てがなかった。
ただ、歯を食いしばって耐えることしか出来なかった。
教師がいないからなのか、生徒達は異様なほど統制され始め、無能コールが始まった。
『『『無能!無能!無能!』』』
『『『む・の・う!む・の・う!』』』
『『『む・の・う!む・の・う!』』』
『『『む・の・う!む・の・う!』』』
ただ俺は、
「ちく、しょう……」
「聖也君……」
耐えることしか出来なかった。
~別室~ 教師視点
シルヴィア先導の下、教師達が案内された部屋は地下にある何も無い部屋であった。
部屋に入るやいなや、体育科の見るからに体格のいい教師がシルヴィアに詰め寄った。
「どういうつもりです!生徒達を戦争なんかに巻き込むなんて!」
しかしシルヴィアはあくまで落ち着いて、微笑みながら告げた。
「お話なら後ほどゆっくりと伺います。ですからまずはこちらを付けていただけませんか?」
すると兵士がシルヴィアの近くに来た。
その手に握られているのはチョーカーだった。
「これは?」
「生徒達をを率いる証みたいなものでございます。申し訳ありませんがわたくし共からは少々判別がしにくいのでご了承ください」
「……分かりました」
そして全員にチョーカーが行き渡り、各々がチョーカーをつけ始めた。
第一王女シルヴィアの様子が変わったことにも気付かずに。
チョーカーをつけ終えた体育科の教師が再びシルヴィアに近づき、
「さあ、これでいいだろう。それで、どうして生徒を危険なことに巻き込んだ?返答しだいではこちらもそれ相応の対応をさせていただくぞ?」
威圧感を出すためであろうか、体育科の教師はシルヴィアの肩に手を置いた。
置いてしまった。
すると、シルヴィアからゾッとするほど冷たい声が返ってきた。
「……その汚い手を離していただけませんか?」
「は?何を言って……」
「跪きなさい!」
「なっ!?」
シルヴィアの命令に抵抗することなく跪き、こうべを垂れる体育科の教師。
シルヴィア以外の誰もが何が起こったのか理解できていなかった。
一方シルヴィアは跪かせた体育科の教師の頭をグリグリと地面に踏みつけながら、
「正直、あなた方は邪魔なのですよ。子供だけなら簡単に操れたものを……わざわざこんなことまでさせるんだもの。面倒くさいったらないわ」
「な、何を……うっ!?」
体育科の男が何か言おうとしたが、シルヴィアが踏みつける力を強くしたのか苦悶の声が徐々に大きくなっていった。
「人が!喋っている時に!喋るなっての!」
「ぐっ!ガッ!グゥアアアアアア!!」
やがて何かが割れるような鈍い音が響き、体育科の教師の声はピタリと止んだ。
するとキョトンとしたような表情でシルヴィアが真っ赤に染まった足元を見た。
「あら?わたくしとしたことが、ついうるさかったので壊してしまいました……」
恐怖に固まった教師たちは何も言えずにただ先程まで生きていたであろう男性教師の亡骸をボーっと見ていた。
「その首輪は隷属の首輪と言いまして、逆らった者は容赦無く絞め殺せという命令が書き込まれています。ですので……」
シルヴィアは足元にある男の亡骸の頭を蹴飛ばした。
弾みで死人の顔が教師達の方を向いた。
「こうなりたくなかったら大人しくわたくしの奴隷になりなさい!」
この日から教師達は第一王女シルヴィアの奴隷となった。
しかし、シルヴィアは気付かなかった。
教師が2名ほど居なくなっていることに…………。
教師12人の中でシルヴィアに疑問を持ったのは、僅か二名であった。
一人目に怪しんだ者、彼女の名は草薙 椎名。
年齢は27歳。眼鏡をかけたその隙のない外見は秘書のように見える。
ちなみに独身だ。
彼女は最初から疑っていた。
シルヴィア・ミストリカのことを。
そして彼女はそのことを学校で数少ない教師友達である小野千春に話していた。
そう、彼女小野千春こそがシルヴィアに疑問を抱く二人目であった。
椎名はチョーカーを手渡されたとき、予め決めていた合図を千春に送り、自身のスキルを小さな声で発動させた。
「……【闇夜の悪戯】」
彼女のジョブは月下の暗殺者。
そのスキル【闇夜の悪戯】は言い換えれば絶対隠密。
その隠密性は歴戦の戦士の隣に居ても全く勘ずかれないほどだ。
音も匂いも気配も完全に消しているので、たとえ動いたとしてもまったく気付かれない。
そしてそれは効果対象を増やすことも可能であった。
(こんな奴の奴隷なんて死んでもゴメンだわ)
(ごめんね私の可愛い生徒達。待っててね、必ず助けに来るから!)
それぞれ思いを馳せながら、彼女達はその日誰にも知られず王宮を出た。