驚くと思いますが、寮母(男)です。 第2話
道中、叔母となんだかんだしつつも。
遂にやって来ました、新雪寮!
「ほぁー。イメージと全く違いますけど、綺麗な建物ですねー」
男子寮というには華がありすぎる様な、西洋風の木造式で真っ白な二階建ての寮。
通りに接してる門を入ってすぐに見えるのは寮の側面で、寮の入り口はそこから左側に回り込んだ所にある。
入り口の上はテラスの様で、アンティークな椅子とテーブルが置いてある。……ふむ。男子寮なら何の問題もないけど、女の子がスカートであそこに座ってると、この位置からならパンツが……
「どうかした?」
「い、いえ、なんでも…あ、この表札に使われてる木材なかなか素敵ですねー」
思春期な妄想を膨らませていた俺に、不思議そうに訪ねてくる叔母。
誤魔化す為に目についた玄関横に置いてある表札、というか看板といった方が近い大きさの『新雪寮』と書かれたそれを触れてみたが……やだ、本当に素敵なさわり心地。
さらさらっとした表面でありながら、『樹』という生き物を感じさせる柔らかな触感……なんだろう…とても落ち着く。
「……美桜さん。俺、この東京でやってけそうです」ナデナデナデ
「そ、そう。良かったわね」
口元を緩め、ひたすら表札をなで回す俺を見て若干引きつつも、チャイムを鳴らして寮の中に入っていく叔母。
一緒について行かないと駄目なのに、手が離せない!
「くっ、まさかこんな罠が仕掛けられてるとは…!」
サスリサスリサスリサスリサスリサスリサスリサスリサスリサ……
「アホな事してないで早く来なさい」
「はい」
中で誰かと話していた叔母に腕を捕まれ、そのまま寮内への記念すべき一歩を踏み入れてしまった。
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寮に入って初めて思った事は、
(なんかやたらと良い匂いがする……)
という、またしても男子寮というイメージにそぐわないものだった。まぁ偏見ではあるが。
そんな事を考えつつ、頭の中でさっき見た寮の見取り図を思い出した。
玄関に入って正面奥の扉が食堂。左側がトイレで、手前に二階へと続く階段。更にその手前が管理人室だったか。
そんで、トイレと管理人室の向かい側にある扉は中で繋がっていて、確かダイニング……だったか?
「わあぁ、君が新しい寮母さんかぁ〜」
「おわっ…と」
右側の一番玄関に近い部屋を覗いて確かめようとしたら、なんだかぽわぁ〜とした女の子が現れた。……まだ挨拶すらしてないのに部屋の中を覗こうとしていたので、ちょっと後ろめたい…。
身長は150ちょいぐらいの、背中まである茶色に染めたウェーブかかった髪。頭の横で一房くくられている髪型は、しゃべり方と相まって幼く感じた。
……って何故に女の子が?
「初めましてぇ。新雪寮の管理責任者の沢樹 雅美でぇす。今、寮長をやってる子を呼んだからぁ、ちょーと待っててねぇ?」
か、管理責任者?
「え、あ、初めまして。山田 銀一郎と言います。…えっと、管理責任者というと…学園の教員って聞いていたんですけど…」
「はぁい!文分学園では英語を教えてまぁす!」
叔母の方をみて確認してみる。
「こんなだけど一応教師よ」
初対面の相手にでも、エイプリルフールを楽しんじゃうオチャメな女の子かと思ったら、本当に教師らしかった。
てか、男子寮の責任者が女性の先生って。問題ないのかなぁ。
とかなんとか思いつつも。そろそろ気づかないふりをするのにも、苦しくなってきた訳でして。
正直もう、オチにも気が付いていました。
外の表札と触れ合っている時に聞こえた、叔母とこの先生と思われる女の人の話し声。華やか寮。そこはかとなく香る良い匂い。
男子寮じゃなくね?
そんな疑問を心の中に抱えていましたが。
廊下の奥から現れた、綺麗で可愛い女の人達を見つけて。
はい、確信に変わりました。
答えはもう出ているが、決して俺と視線を合わせない様にしている叔母の横顔に、意地でも答えさそうとじっーと無言で尋ねた。
ここ、女子寮ですね?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
頑なに目を合わせず、完全にシラをきり通すつもりの叔母。若干、瞳が揺らいでいる所をみるに、女子寮だと教えなかったのはわざとだな…。
ずっと叔母を見つめている訳にはいかず。近づいて来た、寮生だと思われる彼女達に目を向けた。
「お待たせしてごめんなさい」
先頭に立っていたのは、染めていない黒のセミショートな眼鏡美人さん。多分この人が寮長なのだろう。
「紹介するわ。新雪寮寮長で、学園でも生徒会長をやっている四ツ目 花さんよ」
「初めまして。四ツ目 花です。去年からずっと寮母さんは不在だったので、来て頂けるのをずっと心待ちにしていました。これから長い間、よろしくお願い致します」
丁寧な言葉と共に、丁寧にお辞儀をされる。なるほど。寮長と会長に選ばれるのも頷ける洗練とされた佇まい……ってか、この人達は俺が男だと聞かされているのだろうか…?
甚だ不本意ではあるが、昔から長い髪のせいで、女の子だと間違われてしまう事が多い。本当に不本意だが。なのでこの反応は男だと知っている上での反応か、知らずに女だと勘違いしての反応か…。
「で、こちらが新しい寮母よ」
どう返答すれば良いか迷ってる間に、叔母に淡白な紹介をされてしまう。
うん、わかった。この人達も聞かされてないな。
俺の名前も出さない紹介に、少し訝しげな表情をする寮長さん。
その後ろにいる、髪を後頭部で上げた涼しげな美人さんと、カメラを構えている溌剌系美人さんも不思議そうな反応をしている。もう1人のやたらと美人な人は、こちらに向かって笑顔で手をふりふりしているけど。
そんな雑な紹介をしてくれた叔母は、先程まで絶対に合わせなかった視線をこちらに向けてきた。
『さぁ、舞台は整ったわ。思いっきり行きなさい!』
叔母の眼がそう言っていた。
『そんなだから未だに結婚出来ないんですよ』
視線で答えた。
叔母は鷹揚に頷いた。ちゃんと通じたみたいで何よりです。
しかし、さっきの挨拶をした時の反応を見るに、寮長さんの横でニコニコしているこの先生は知っていたんだろうなぁ。
………はぁぁぁ。
俺へのイタズラか。ここの寮生へのイタズラか。それともイタズラ意外の理由があるのか。
とりあえず、目の前の美人な先輩達より一足早く気づいてしまった俺が、このサプライズな出会いに、オチをつけないといけないみたいです。
「初めまして。……驚くとは思いますが、今日からここの寮母として連れて来られた、山田 銀一郎と言います。……色々言いたい事があるとは思いますが、質問疑問罵詈雑言は、こちらの理事長にお願い致します」
僕もそうします。