プロローグ~咲くには早い夜~
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後書きに小話追加
「でもびっくりだね。新しい寮母さんが急に見つかるなんて」
急遽、シフトの穴埋めで朝から晩まで働かされ、ふらふらに疲れて帰ってきたわたしを待っていたのは、そんな嬉しいニュースだった。
「そうね。前の寮母さんが辞めてから半年間、全然見つからなかったのにね」
「そっかぁ?そんなもんじゃないか。探してる時には見つからない、みたいなさ」
わたしの言葉に反応してくれた、かぐちゃんとありちゃん。
バイトが終わっていつも一人遅く、晩御飯を食べているわたしに付き合ってくれる二人。
二人だって朝から部活で疲れてる筈なのに「食後のティータイムよ」なんて言ったり、「ハハハッ、気にすんな」なんて笑ったり。
結局わたしは、そんな二人の優しさにいつも甘えてしまい、今日もまた寂しくない晩御飯を食べていた。
「あら、帰ってたのね千傘。お帰りなさい」
「あ、先輩。ただいまです!」
「ええ。遅くまでお疲れ様」
ちょうどご飯を食べ終えた頃、食堂に巴先輩がやって来た。
視界の端で、一瞬固まった二人に内心微笑みながら
「良ければ先輩もご一緒しませんか?ちょうど食後の一服でもしようかと思っていたので」
と誘ってみるわたし。
「そ、そうです!是非」「ご一緒にお茶でも!!」
と乗っかってくる二人。
もう、慌てすぎだよ。
ほら、二人共ガタガタ椅子を引き摺って立たないで。お行儀が悪いよ。
ほら、二人共自分の隣の席を勧めないで。先輩も困ってるよ。
ほらほら、二人共睨み合わないで。
ほらぁ〜、先輩がわたしの隣に座っちゃった……お願いだから、わたしを睨まないで、二人共…。
そんなわたし達を楽しそうに見ている先輩。きっとわかっててやってるんだろうなぁ…。
「っと、ちょっと待ってて下さいね。今、お茶淹れてきますから」
今日はカレーだったから、お湯を沸かしている内に食器とルーがこびりついた鍋を洗っちゃおう。
その間に二人も落ち着いているでしょう。…いや、先輩がいるから無理かな…。
「はーい、お待たせしましたー……って二人共、なんか座る場所が近くなってない?」
お茶を淹れて戻って来ると、明らかに二人の席がわたしと巴先輩の座る席に近付いていた。
「「気のせい」」
「…ソですか」
まぁ、予想の範囲内ですけど。
座る距離は近付いても、視線は先輩と合わせられずに、時々ちらちら見ている二人。普段は気の強い二人の初な姿は、見ていてとても可愛らしい。
「どうぞ、先輩」
それ以上はつっこまずに、巴先輩にカエルの絵が描かれたマグカップを渡す。
「ええ、ありがとう」
先輩は自分のマグカップ以外を使わない。お茶でも紅茶でもお水でも、いつも自分のマグカップで飲んでいる。特に理由は無いらしい。
『マグカップで飲んでいる理由』ではなく、『飲む物によってカップを変える理由』が無いらしい。
こだわらない人だ。
「そういえば、さっき私が食堂に来た時、三人でなんの話してたのかしら?盛り上がってたみたいだけど」
「あ〜そうでした。新しい寮母さんの話だったんですけど、先輩は寮母さんについて何か聞いてます?」
二人にもお茶を渡しながら、先輩に聞いてみた。
新聞部の部長をやっている透子先輩と仲の良い巴先輩なら、何か聞いてるのではないかと思って。
「「……………」」
二人もわたしと同じように考えたのか。ちらちら見るのを止めてジーッと見つめだした。
「「……………………………………」」
ここぞとばかりにジーーーッと見つめだした。
「「…………………………………………………………………」」
「……二人共見過ぎ」
「「はっ!?」」
こんなに巴先輩に夢中な二人だけど、私がお茶を渡した時には「ありがとう」と言ってくれる。お礼を忘れない良い娘達です。
「ふふ、貴女達は仲が良いわね。…でも寮母については私もほとんど知らないの」
「そうなんですか?透子先輩なら、沢樹先生から根掘り葉堀り聞き出して、先輩辺りに話を広めてそうだと思ったんですけど」
「透子がいうには、沢樹先生も何も知らなかったみたいよ。知っているのは理事長だけで、調べようが無いって泣いていたわ」
「あ〜…なるほど。確かにそれじゃあどうにもならないですね…………ふふ」
好奇心の塊の様な透子先輩が「新しい寮母さん」と紹介されるその日まで、大人しく待っているのは無理だろうなぁと思っていたけど、やはり無理だったようだ。
しかし、流石の透子先輩でも今回は調べる方も無理らしい。
校長先生ぐらいになら、アポイントを取って聞きに行くぐらいは、あの先輩ならしただろうけど。流石に、いつ学園に来るかもわからない理事長から、情報を引き出す手段は無かったようだ。
……それでもなんとか理事長と接触できないか、必死で自分の部屋で考えてる姿が思い浮かんで、思わず笑ってしまった。
もしかしたら、巴先輩も、かぐちゃんも、ありちゃんも、同じ想像をしてしまったのだろうか。
食堂に小さな笑い声が四つ、重なった。
「とりあえず、わたし達は大人しく寮母さんが来るのを待っていましょうかー」
そう締めくくって、わたし達は食堂のテーブルの上を片付けていく。
あれから四人で、どんな寮母さんが来るのかを予想し合っていたら、思った以上に盛り上がってしまい、気がついたら日付が変わっていた。
「ええ、無駄な悪足掻きは透子に任せて、私達は大人しくしていましょう」
……時々、透子先輩に対してひどい事を言う巴先輩。
ありちゃんかぐちゃん曰く、そこがまた刺激的でイイらしい。
「それはそうと……本当に手伝わなくて良いの?お茶も用意して貰ったんだし、やっぱりカップぐらいは、洗っていくわよ?」
「あー、大丈夫ですよ。きっと「「私達に任せて下さい!!」」って言うと…言ってますから。先輩は先に部屋で休んで下さい」
「ふふ、なんかごめんなさいね。でも、ありがとう。お言葉に甘えて、先に休ませて貰うわ。ありさとかぐやもありがとうね」
「「い、いえ!勿体ない御言葉です!!」」
我先にと、キッチンに布巾を取りに行っていた二人が戻ってきて、手にした布巾をそのまま、顔の横まで持っていき敬礼をしだした。
「ふふ、それじゃあ三人共、おやすみ」
「はーい、おやすみなさい」
「「おやすみなさいませ!!」」
挨拶を済ませ、巴先輩は優しい微笑みを残して戻っていった。
「さーて、私達も早く終わらせて部屋にもどろーう!……ってどうしたの二人共?面白いぐらいテンション下がってるけど」
「……いや、今日も緊張のあまり、巴先輩とまともに話せなかったなぁ、と思って…」
「……ええ。会話の内容も緊張のせいか、あまり覚えてなくて…」
うん、予想の範囲内だね。
「そっか。次に期待だね。テンション下げても良いけど、テーブルは綺麗に拭いてね」
わたしはそう言うと、集めたカップを洗いに、キッチンへと入っていった。
「………たまに千傘って厳しいよな」
「………そうね」
二人が何か言っていたが、ここはスルーで。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞
桜はまだ咲かないけれど、今は春。
今年も、学校とバイトで忙しい毎日になるだろう。
それでもきっと、わたしはいつも笑っている。
去年もそうだった様に。
気がついたら、みんなと一緒に笑い声を上げている。
そんな、笑えるという幸せ。
今年はどれぐらい訪れるのか。
そんな事を考えただけで楽しくなってきた、自分のお手軽さに少し笑ってしまって。
ふいに訪れた幸せを。
一足早く、感じてしまった。
←←←←←←←←←
「……そういえば、透子が新しい寮母は男の子だって、沢樹先生から聞いたって言ってたかしら。三人に言い忘れてたけど……まぁ、別に良いかしら。先生のいつものしょうもない病気でしょうし」
~数時間前~
ガチャ
「ともえともえー!ビッグニュースビッグニュース!ビッグでびっくりなニュースだよー!!」
「あら。17年も生きていて未だに人の部屋に入る前のノックを覚えれない、貴女という存在よりびっくりする事ってどんな事かしら?」ペラ
「…………」トボトボトボ ガチャ
コンコン
「はい、どうぞ」
ガチャ
「ともえともえー!ビッグニュースビッグニュース!ビッグでびっくりなニュースだよー!!」
「つまらない事を2度も言う貴女にびっくりだわ」ペラ
「ふっふっふ。これを聞いても同じセリフを吐けるかなー?」
「…………」
「なんと!この新雪寮に!」
「…………」ペラ
「4月からー!?」
「…………」
「新しい寮母さんが来まーすー!!」
「……そう」
「しかも!なんと!その寮母さんはー!?」
「…………」ペラ
「……男の子でーすー!!!」
「……そうなの」
「…………」
「…………」ペラ
「……あれ?予想以上に反応が薄いな……もしかして私の話、聞いてない?」
「失礼な事を言わないで頂戴。聞いてる訳ないでしょう」
「あ、ごめん。流石の巴も無視は……っておーいー!?聞けよー!聞いてよー!!本当にビッグニュースなんだからー!!私の!話を!聞けーっ!!」
「…………」ペラ
「…………」
「…………クレイジー?」
「…………いや、銀河の妖精の方…///」