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プロローグ~咲くには早い朝~


「新学期から新しい寮母さんが来る事になったよぉ〜」


開口一番。朝食の席で、朝の挨拶もせずに沢樹先生が言った。


「おはようございます沢樹先生。…それが本当なら嬉しいんですけどね」


この先生はちょくちょくしょうもない嘘をつく。私がこんなセリフを言ってしまうのも仕方のない事だ。


「本当だよぉ!昨日の朝の職員会議で理事長が言ってたもん!」


「昨日の朝に聞いてなぜ今言うんですか。信憑性が下がりましたね」


「……もぉぉ!花ちゃんのイジワル!ちょっと言い忘れてただけでしょぉ!」


気まずげに拗ねる事が出来る器用な先生。どこか幼い話し方をみても、本当に年上なのだろうかこの人は…。


「んー。その反応を見るに、どうやら今回は嘘じゃないみたいだねー」


この寮で二人しかいない三年生の一人、鈴井先輩は先生の言葉を『真』と判断した。

沢樹歴一年の私では今いち嘘か真かわからない。三年の先輩方の様に、あと一年でこの先生の言葉を判断出来るようになるのか。

正直どうでも良いと思ってしまう私では無理だろう。


「あら、じゃあ本当に新しい寮母さんが来てくれるんですね!これでここの食生活も安定するわね♪」


「………うん。……カレー…シチュー…インスタントラーメン…時々コンビニ弁当…のループから抜け出せる」


両手を合わせて嬉しそうに華やかな笑顔を浮かべる結晶(ゆき)と、いつも通り表情が乏しいながらも若干声を弾ませているひかり。

沢樹歴は短いがひかり歴は長い私と結晶なら、ひかりが嬉しそうにしているのがわかる。

あまり不満を言わないひかりでも、やはり今の生活、特に食生活に関しては不満も不安も抱えていたのだろう。



そう、私たちは料理が出来ない。

ひかりのセリフでわかるように、全員が全く出来ない訳ではない。いや全く出来ない人もいるが、作れる人も本当に簡単なものしか作れない。


それでも寮母さんがいなくなった始めの頃は、皆料理本片手に色々頑張っていた。

しかし、いかんせん私達は皆、作る事に喜びを見出だせない集まりだった…。

始めに呟いたのは誰だったか、「面倒くさい」。その言葉は皆心の中で共有していた。


唯一まともに作れる千傘(ちかさ)はバイトで忙しく、あまり食事当番に入れる事がないし、少ないバイトが休みの日に食事当番させるのも申し訳がない。

逆に彼女も、まともな食事を作れる自分が、当番になかなか入れない事を気にしていた。なので新しい寮母さんが来ると知ったらとても喜ぶだろう。

ちなみに、千傘は今日も朝からバイトに行っていてこの場にいない。


「千傘ちゃんもかぐやちゃんもありさちゃんも、みんな喜ぶよね!」


「だねー。巴もきっと喜ぶよー。興味無さ気に『そう』としか言わなさそうだけどー」


そう言って、アハハハっと笑っている透子先輩もやはり嬉しいのだろう。


「そうですね。この場にいない人達には帰ってきてから伝えるして…でも間違いなく、皆新しい寮母さんは大歓迎でしょう」


もちろん私も含めて。


「良かったわぁ〜。それじゃあ理事長には、明日にでもお願いしますって言っておくからぁ」


「はい、お願いします。」










∞∞∞∞∞∞∞∞∞



時は春。


今年は三人の新入生がこの新雪寮に入ってくる。


名前ぐらいしか知らない新入生達と、名前も知らない新しい寮母さん。

仲良く出来るだろうか、という期待と不安。


まだ見知らぬ彼女達もまた、同じ気持ちでいるんだろうか。


そう考えて、勝手に少しだけ親近感をわかせる自分に苦笑しながら。










がらにもなく、桜の開花を待ちわびる私がいた。










←←←←←←←←



「あぁ〜、言い忘れてたけどぉ、新しい寮母さんはぁ、男の子で〜すぅ!」




……どうしてこの人は、そんなしょうもない嘘ばかりつくんだろうか?

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