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2012年11月・12月  作者: 山猫亭
12月
3/7

【856】修羅のF組 冒頭

いつぞやの夜中に謎のテンションで書いていた掌編小説です。続きが書けなくなってしまったので、もし続きを書きたい! という方がいましたらどうぞご自由に。

 発端は、この二人だった。

 西に一年F組の学級委員男子。東に同じく女子。二人とも、傍から見れば模範的生徒の典型であった。

「おい君、勝手に僕の視界に入らないでほしいな。無能者を見ていると無能が感染ると父上が仰っていた」

「あら、ごめんなさぁい。あまりに存在感が薄くて見えませんでしたの。いけませんわ私ったら、虫けらも必死にカサカサ生きているのだと常々意識していたはずでしたのに!」

「……はははっ! きっと疲れているのだろう。先程から家畜の悲鳴のような物音が聞こえてくるような気がするとは。致し方あるまい、高貴な人間に相応の責務が課せられるのは世の常だからな」

「まぁいけない! 虫けらがうるさく喚いているわ、駆除しないと空気が汚染されてしまうわ――」

 ぶすーっ、という噴射音。周囲に湿っぽい白煙が立ちこめる。

「ばっぱわ! ……くそ、家畜が暴れて殺虫剤をばらまいているっ! いますぐ父上にシークレット・サービスの派遣をお願いしなくては……ぶぺぺっ!」

「おかしいわねぇ、ゴキブリでも致死量を浴びせているというのにピンピンしているだなんて。きっと相当質の悪い品種なんだわ……ぶほ、げっへ!」

 立ちこめる明らかな悪臭。見れば、男子生徒が分厚い手袋をつけて土のような物体を高らかに差し出している。

「この薄汚い犬畜生め! ライオンのフンが撒かれた場所ならば間抜けな鹿も思わず逃げ出すというが、この量ではっ――はぁーっははは! どうだ、くっせえだろう! 事実くさい!」

「く、臭過ぎる! ぶっへ! これは世にも恐ろしい巨大フンコロガシだったのだわ!」

「はっは、馬鹿め。なにを今更、減らず口を叩くか。最初から大人しく道を開けていれば臭い目に遭わずに済んだのだ! さぁいい加減に……」

 言いかけようとした瞬間、その男子生徒の口の中は水でいっぱいになっていた。何事か、と考える暇もなく、今度は全身に跳ね返った大量の水流に足を取られていた。

「んぎゃああああああああ!」

 女生徒からみるみる引き離されて廊下を流れていく男子生徒。

 ちょうど女生徒のすぐそばにあった消火栓が開けられていて、そこにしまわれた放水ホースを彼女はしかと握りしめていたのだ。

「ほーほっほっほっほ! お下劣な口ばかり利く鼻垂れボゥイはこれで身なりを改めるといいですわ! さあどんどん水圧を上げますわよー!」

 ふとその女生徒の背後に、騒動を聞きつけて数人の男子が歩み寄っていた。いずれも髪はどこかで勘違いした悪魔崇拝系ビジュアル系バンドの予備軍としか言いようのない造形をしている。

「おいおいおーい、俺の焼きそばパン係に何してくれてんだぁ?」

 集団の中心に立っている、ひと際目立つ直立した金髪の男子。ひどい巻き舌で、ろくに呂律が回ってないような口調がナイフを突きつけるが如き凄みを醸し出す。

 たいして女生徒は、そこはさすがにクラスのまとめ役であることを思い出したのか、気丈に振る舞っていた。

「フン、私の目の前で極悪猥褻物を差し出した無礼を清算しているのですわ。……な、なんですのその目つきは!?」

「おう、『今日は機嫌悪いから気分転換でカツサンドにしろよな』の目だ。あまりに計算され尽くされた合図だったからつい全部説明しちまったぜ。とにかくそういうわけだからな」

「無礼千万……蟻が人間にタカるなど世はまさに世紀末! 等しく秩序ある排水ポンプの一撃で淘汰されるといいでしょう。いきま……いいいいいやあああああああああああ!!」

 女子生徒はいつのまにか不良の集団に囲まれており、首領の金髪の合図で手際良く縦長の掃除用具入れの中に詰め込まれていった。

「開けて! 出して! 放置しないで!」

「金持ちも少しは黴臭い場所に慣れておいた方がいいぜ、社会勉強だと思ってな。俺たちも今しがたどさくさに紛れてパクったオメェの財布で、これから金の仕組みについて心行くまで学び通してくっからよ」

「人でなしいいいいいいいいいい!!!」

 学級委員の悲痛な慟哭に背を向け立ち去ろうとする男子集団の前に、一つの影が仁王立ちで伸びていた。

「おぉ? あんだぁテメェ!?」

 真っ赤なパンクヘッドをした一人がその人物に向かっていく――と、次の瞬間、彼の身体はおよそ二秒間宙に浮いていた。

「――お?」

 どしゃ、という派手な落下音。そしてショックと激痛のあまり痙攣し始めるパンクヘッド。

「な、なんだ……?」

 思わず不良集団が後ずさりする。にわかに静かになったところで、その人物は重々しく口を開いた。

「……財布を持ち主に返すか、交番に届けるよう俺に申し出ろ」

「いや後の方はおかしい」

 すかさず全員からツッコミを受ける。

「では取るべき手段は一つになったわけだな?」

「くっ……予測していたのか、ただの馬鹿なのかよくわかんねぇぞ」

「しかもなんか声が玄◯さんっぽくないか?」

「たしかに息遣いの一つにしても自ずから伝わってくるシリアスな雰囲気と鍛え上げられた筋肉の重量感を聞く者に程よく感じさせる物々しくも美しいバリトンだったぜ……」

「おめぇどんだけ詳しいんだよ……」

 呆れ顔でツッコミを入れた緑のウェーブがかかった髪の男子もまた、次の瞬間には飛んできた教卓に側頭部をぶつけて気絶していた。

「ええーっ!? つうか投げられるモンなのかよオオォ!?」

 がしゃあん、という盛大な落下音に加わる、ふたたび一糸乱れぬ不良たちの声。本当にその通りで、彼らの目の前にピッチャースタイルで佇んだ男の仕出かした驚くべき所業であった。

「コ、コイツは、まさか……」

「先週、隣の某県からやってきたという……」

「彼こそ我が守護者……!」「いやおめえ誰だよ?」

 不良たちの後ろの階段から、びしょ濡れの手がじりじりと這い上がってきていた。そう、それは先程流された学級委員の男子の手だった。

「君たちにも紹介しておこう。彼は僕の父上のもとで働いている縁で、今日からこのクラスの一員となった……」

 学級委員は最後まで言い終えることなく、階段の上でがくりと力つきてしまった。一行が視線を戻した頃には、男はすぐ背後まで音もなく忍び寄っていた。

「こいつが……!」

「俺たちの新しい担任……!」

「——奇天烈島虎衛門と申す」

 明らかに今咄嗟に考えついたような名前を、男はぼそりと口にした……

ご覧になればわかる通り、筋書きみたいなものはまったくないのが申し訳ないです……

ただ、なにか投稿しておかないとまだまだ寂しい状況ですので、思いついたら即行動! をモットーに今後も作品を上げていけたらなと思っています。もし読んで下さった方がいるならば心から感謝!

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