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Only Lover  作者:
第1章  まさかの再会
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「な……なな、なんでわたしがっっ!」


 そう。思えばこの日は朝からついてなかった。そう、ついてなかったんだよ、きっと。

 とりあえずはいてみたストッキングは、どうやら伝線したのを忘れて洗濯機に放り込んだみたいで使用不可能。これはよくあることなんだけど。で、靴で隠れるところならまあいいか、と使っちゃうんだけどそれができなかった。で、やっぱりパンツにしようとしてみたら、ぺったんこの靴が履ける丈のパンツをうっかり見事に全部洗濯中。ここんとこの雨続きがいけないんだ。と思うけど今日はいたって上天気。

 よし、気分を切り替えよう。ヒールのある靴でもいいさ。よくこけるけど。なまじちょっと中途半端に背が高いから、男性陣と目線の高さが同じとか上とかになっちゃって居心地悪いことあるけど。


 て、思っていたのに。

「お前、彼氏いないだろ?」

「いないですけどっっ」

 このまま回れ右してなかったことにしたい話題を振ってきた先輩に、しっかりと腕を捕まれている。工藤というこの人は、甘いマスクの油断をしてはいけない人なのだ。就職してこの方、どれだけいじられたことか。いじめじゃないのがせめてもの救い。

「蓮見、会うだけでいいから」

 じたばたしても逃げられない。逃がしてもらえない。しかも何で仕事中にいきなりこんな話。今日、職場の玄関の自動ドア、ヒールの踵がドアの溝にはまって動けなくなったのは、入らない方がいいよという優しさだったのか?

「お見合いなんていやです。しかも代理だなんて」

 そう、この人、そろそろ仕事も終わる、今日は残業どうしようかな、と進み具合を見ているわたしをデスクから離れたブースに呼んだと思ったらそんな話をしてくれた。

「見合いなんて大袈裟なもんじゃない。本当に、ただ紹介するだけだから」

「それなら代理なんかたてなくてもいいじゃないですか。紹介するつもりだった人がダメになりました~って言えば」

 言いにくそうになぜかわたしから目をそらした工藤さん。でも手は離してくれない。

「この話、親父が元なんだよなぁ」

 工藤さんのお父さん。よく知らないけど、噂に疎いわたしにも聞こえてくるところでは超一流企業の役員さんらしいけど。

「目をかけている部下がいて、まあ仕事はできるらしいんだ。女性にも人気はある。ただ何とも、仕事ばかりで」

「ゆとりがないから女でも紹介するかって?それ、余計なお世話っていいません?」

 工藤さんのお父さんには会ったことはある。何回か。おもしろいおじさん。話題も豊富だし。

 ただ、そんなことをずけずけ言うわたしだけど、工藤さんだってそういうタイプのはず。

 それがなぜ味方に回っている?と不思議に思うと、さらにばつが悪そうな顔になった。

「親父が紹介するつもりだった女に手、出しちゃったんだよなぁ」



「あほかぁっっ」

 先輩だなんて関係ない。

 思わず思いっきり言ってしまいましたとも。

「で、責任取ってお前連れて来いってご指名」

「は?」

「親父、お前のことも気に入ってるみたいでさ、おもしろいって。で、一人なのも不思議がっててな」

「そりゃ光栄ですが」

「適当に答えるな。まあ、代打ですって言っていいから顔出してくれ。場所は」

 と、勝手に場所を説明される。場所は知ってるホテルのレストラン。こんな、仕事着だけど割と普段着ぎみで入れるか?と心配になるような場所。

「工藤さん、自分に彼女ができたからって人の世話まで」

 ぶつぶつと悪あがきを言うと、けろっととんでもない返事。

「彼女?できてないけど?」

 だって、手、出したって……。意味分からない……。世に言う「大人」の年齢になったつもりでいるのに、やっぱりついていけないわたしはまだ大人じゃないのか?

 おもしろそう~に、頭をぐりぐりと撫でられた。

 で、そのまま背中を押される。デスクに戻るのかと思ったけど向きが違う。

 確かに話している間に定時迎えましたけども。


 場所を伝えておしまいかと思いきや、わたしが逃げないようにときちんと連れて行ってくださるようで。

 しかもなぜかまずはわたし、同じ課の同期に引き渡されました。とっても楽しそうな顔。

「じゃ、よろしくな」

「はい、終わったら呼びますね」

「ちか??」

 にっこり笑ったちかに、化粧室に引きずられました。


 そうして、土壇場で言ってわたしは逃げないように確保し、わたしの服装で困らないようになぜかわたしの同期に根回しをして。

 ちかは楽しそうに、普段してるのかしてないのか分からないような化粧しかしないわたしにメイクをして、そしてワンピースを貸してくれましたよ。ただ、せめてもの救いはメイクがナチュラル仕様だったことくらいか?




 もはや疲れ切って抵抗する気力もなくたどり着いた問題の場所。

 工藤さんから、工藤さんのお父さんに引き渡されると、さすがに観念した。

 一緒に歩いて行くと、先についていた人がテーブルから立ち上がった。背、高いな。と単純な感想を抱いてからよくよくその顔を見た。

 長い足、日本人とは思えないくらいにスーツの似合うスタイル、10人、いや、100人に聞いても全員口を揃えていい男だと言いそうな整った顔。

 知っている顔よりも柔らかさが減って引き締まっているけれど。

「どうした、さすがの君も見とれるか」

 ええ、あなたの息子さんに完全な友だち、後輩感覚の女性も珍しいとおもしろがった方ですから。わたしが男性相手にぽかんとしてればそう言っておもしろがるでしょう。

 でもこの人は。

 できることなら記憶の彼方に消えてほしかった。でもそんなことはできなくて、やっと奥の方で思い出になったはずの顔。出てこないように何重にもしまい込んで、何重にも鍵をかけて。

 彼の方は表情も変えない。分からない?どうなんだろう。あまり変わらないってわたしはいわれるんだけど。

 とにかく、と気を取り直した。これならなおさら、代理で紹介なんて恐ろしいことにはなりたくない。顔を合わせてとりあえず、も無理。

「工藤さん、すみません」

 一言、断りを入れてから目の前の人にしっかりと頭を下げた。

「すみません、わたしは今日ここに来るはずだった者ではありません。事情があって代理を頼まれました」

 まさか、代理が必要になった理由までは言えないけど。

「直接工藤さんとあなたにお詫びをと思い足を運びました。お二人にご足労をおかけして申し訳ありませんでした」

 工藤さんは驚いた顔をしている。わたしがあやまる筋じゃないから。でも余計なことは言わせない。

 そう思っていたのに、わたしの話を聞いていた人は、わたしの言葉にはこたえずにその目を工藤さんの方に向けたんだ。


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