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Only Lover  作者:
第4章  女子会
13/33



 ちょうど風呂上がりに携帯が鳴った。冷蔵庫から出した缶ビールを置いて携帯を見る。

(せり?)

 電話は苦手だったはずだけどと訝しみながら出る。甘い期待はしない。昨日の今日で声が聞きたいなんてそんな、ありがちなことは絶対にない。

「もしもし?」

『あ、すみません、蓮見の同僚で……』

 聞こえてきたのは違う声。名乗るのを聞きながら黙って話を聞く。

『勝手に人の携帯で連絡をしてすみません。今日、同期で食事会をしていたんですが、蓮見が寝てしまって。おつきあいしている方がいるならその方にお願いするのがまずは順番かと思って……迎えに来ていただく事ってできますか?』

 図々しい。が、悪い気はしない。ただ、彼女が望んだことではないのは確実で。そして何事もなく電話の相手が話しているということは、本当にしっかり寝てしまっているんだろう。

 ただ、ちょっと気になる言い回しがあった。

「わたしが行けなくても誰かあてがあるんですか?」

 一応、穏やかな声で尋ねる。少なくとも、彼女が油断して眠ってしまうくらいに信用している同期だ。

『あてというか。わたしたちだと起こすしかなくて、そうすると一人で帰るって言い張るのは分かっているんですけど、これだけ寝てると寝過ごさないか心配で。何回か強引に迎えを呼ばせたこともあったんで、またその人呼ばせてもいいんですけど』

 誰だ、それは。

 ただ、彼女の言いっぷりだと友人、なのだろうが。

「今から向かうよ。他の人たちは時間は大丈夫なんですか?」

『わたしたちはまだもうしばらく話しているので大丈夫です。場所は……』

 場所をメモして電話を切る。

 飲む前で良かったと思いながら缶ビールをしまって車のキーを取った。ジーンズに履き替えて上も簡単に羽織る。

 俺の顔を見た時の彼女の顔が見物だな。と思うとつい笑みが浮かぶ。我ながらいい性格だ。彼女が反抗的なのも仕方ないと思うのは、こういう部分があるのを残念ながら自覚しているからだ。




 言われた店の前のパーキングスペースに車を止めて店に入る。店員に個室を示されて、軽くノックをしようとすると、中から声が聞こえてきた。

「それにしてもせりちゃん、今日はホント見事に寝てるねぇ」

「無邪気な顔」

「でも絶対明日怒るよ」

「怒るだろうねぇ。でも怒ってても拗ねてるようにしか見えないからね」

「確かにっ」

 言ってくすくす笑っている声。ひどい言われようだが、なんだか納得してしまう。相手がびびるほどの怒り方をする彼女はなかなか想像できない。

「しかしまあ、照れ屋だね」

「勝手に頼んどいたお酒、目の前にあると飲んじゃってたからねぇ」

「じゃなきゃあの空気、この子無理でしょ」

「分かっててやるんだからひどいなぁ」

「自分もでしょ」

「で、結局迎えに来る人って彼氏なの?まだ彼氏じゃないの?」

 思わずどきっとした。立ち聞きになっていることに気づいたが、入るタイミングがつかめない。

「何だろうねぇ。でもまあ、わざわざ迎えに来てくれるって言うし、大事にしてくれそうじゃない?」

「素直になれないこの子が素直になれるかねぇ」

「そこまでちゃんと読み取ってくれる大人であることを祈っときましょ」


 さすがにそこで、ノックした。

 話が止まって、静かに引き戸を開けると、女性ばかりが振り返っている。顔を見た時の反応は、見慣れたもの。

 察した様子で、奥の一人が自分の隣を見下ろした。見慣れた視線ではあるけれど、そこに媚びる様子はない。彼女たちにとってはもう、「同期の相手」でしかないんだろう。

「せりちゃん、お迎えだよ」

「ん~?」

 寝ぼけた声がその辺りから聞こえた。入り口すぐのところにいた二人が場所を空けてくれたので、促されるように座敷に上がった。回ると、寝ぼけて目をこすっている。こんなの、見たことないぞ。

 膝を片方ついてかがみ込むと、気配には気づいたのかぼんやりとした目がこちらに向けられる。



 不意打ちだった。

 完全に寝ぼけた顔。とろんとした目のまま微笑んだ彼女にがっくりと肩を落とす。そうしてみせるしか、この周りの女性陣に自分の威厳を保てなかった。赤面しそうなのを理性で強引に押さえ込んで、頭を抱え込んでため息をつく風を見せる。こいつ、本当にどうしてくれようか。

「とにかく起きなさい。送っていくから」

 年長者の声で言うと、少しだけ焦点があった目が向けられる。一瞬、泣きそうな顔に見えたそれが、だんだん頭がはっきりしてきたのか慌てた様子になる。

「はい、急に起き上がらない」

 先を読んで肩を押さえてからゆっくり起き上がらせた。

「な、何でいるんですかっ?え??」

 こっちは正真正銘頭を抱え込んでいる。自分の携帯に目をやって、そんなバカな、という顔をこちらに向けた。

「まさかわたし、呼びました?そんな、忙しい方にご迷惑を??」

「面白いね、ぼけてるんだかしっかりしているんだかどっちかにしなさい」

「いや、本気ですってば」

 微妙にずれた会話が面白い。

「と、とにかく、自分で帰りますから。大丈夫です」

「はいはい。わざわざ来たんだからおとなしくしなさい。じゃあ、回収していきますね」

「よろしくお願いします。せりちゃん、立て替えるから精算明日ね」

「えぇぇぇええ??あ~~、よろしく……?」

 もうまったく状況が分からない状態でなし崩しで引っぱられていく彼女をほほえましく見守る同期たち。

 入り口の段差で手を貸していると、本当に困惑顔で申し訳なさそうな顔になっている。迷惑だなんて思っていないし、頼っていいんだけどね。

「どうせ俺のことでつっこまれてこうなったんだろう?今日は仕事も終わっていたから大丈夫だよ」

 耳元で、中には聞こえないように言うと、ぱっと照れた顔で身を離した彼女は、驚いた顔をこちらに向けている。そう言えば再会してから自分を「俺」と言ったのは初めてかもしれない。



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