第一回・依頼人、来る
初の連載小説になります
『今回開発された新型のテストロボット。彼らは人工頭脳に簡易的な「心」と自らを向上させる『自己育成プログラム』を内蔵し…』
ピッ
「面白い番組、やってねーな」
所長はそう言ってテレビを消ました。
さて、時は近未来。
科学は発達し、人類は宇宙に巨大なコロニーを作ることに成功。
さらに月、火星へも移住し、人口爆発による食糧問題・資源不足などは解決されました。
で、そういう時代に地球で探偵事務所を経営する私達。
「あーあ、近頃ろくな番組やってないよ、なんなのコレ。何やってんだよテレビ局」
とかぼやいているのは、所長の「聖山 誠」。24歳。
普段は「究極のフヌケ」「至上のグータラ」と称される人物だけど、実は天才的な武術家。
いざというときには空手や柔術、剣術で危機を切り抜けます。
とはいえ普段は本当にグータラ。
剣の稽古は毎日やってるけど、酒飲んで物を壊すわ、「新撰組最高だアァァァー ! 」などと意味不明なことをほざくわ、ついでに魔法とか妖怪とか幻想世界関連にやたらと知識持ってるわ…ほんとうにどうしょうもない物体です。
で、私はその助手の「東風 玲奈」。18歳。
この事務所で所長の助手 兼 参謀 兼 ツッコミ役をしております。
職員は僕らの他に十数名。
年齢や出身もみんなバラバラで、今はあちこちに散っています。
「所長、今月に入ってからまだ仕事ありませんね」
「まあ、まだ今月に入って一週間くらいだろ。それに俺らが暇なのは、世間が平穏だってことで…あ、でも俺らにとっては死活問題だよな…」
「先月もあんまり収入有りませんでしたからねぇ。それに今ニュースでやってたロボット、どうも警察で働くみたいですよ。そっちの方が信用できるからって、うちのお客が減るんじゃないですかねぇ ? 」
「何言ってんだよ。問題解決はしたいけど警察沙汰にはしたくないっていう連中のために俺らがいるんだろうが。それにな…」
所長はそう言って、マグカップの底に僅かに残っているコーヒーを飲みました。
ちなみにそのマグカップは、「近藤勇」「土方歳三」「沖田総司」「長倉新八」などの新撰組隊士の名がビッシリと刻まれているという、何処で売っているのかすら解らない妙なカップです。
やっぱり名前が「誠」だからでしょうか ?
「どんなにAI(人工知能)が発達しようとなあ、やっぱりからくり人形には任せられない問題ってものもあるもんさ。血の通った人間だからこそ信頼して洗いざらい事情を話し、手を握りあえる。それが人情ってやつさね」
確かに、考えてみればそのとおりですよね。
やっぱり相手が機械だと、なかなか相談しづらいこともあるだろうし…
ちなみに、現在人間型のロボットは開発されてはいますが、それほど社会に進出してはいません。
その最も大きな理由は「失業者問題」です。
大昔、イギリスで産業革命が起こったときも、産業の機械化によって失業者が増加し、ラダイト運動という機械破壊運動が起こりました。
その時は機械を動かすのはあくまでも人間だからまだ良かったのですが、AI搭載の人間型ロボットが実用化されれば人間自体がいらなくなっちゃいます。
そんなわけで、本当に深刻な問題なんですよ。
タカタカタッタッターン♪
え、今のは何の音かって ?
インターホンです。
うちの事務所の。
「おっ、客かな。玲奈、出てくれ」
「はーい」
僕は玄関に駆け寄って、ドアを開けました。
「こちら、聖山 誠さんの事務所ですよね ? 」
そこにいたのは、ショートヘアーで耳にピアスをつけた若い女の人。
顔は綺麗だけど、可愛らしいというよりは引き締まった美貌でした。
「はい、私は助手の東風と申します」
「あら、まだこんなにお若いのに助手なんて、きっと実力があるのね」
大正解 !
そう、僕はこれでも中国武術などを…
と、それはどうでもいいとして…
「いえいえ、それほどでも。お仕事の依頼でしょうか ? 」
「ええ、警察の者です。聖山さんに少々お頼みしたいことがありまして…」
「あっ、そうなんですか。じゃあ、どうぞ上がってください」
「ありがとう」
彼女はそう言うと、玄関の中にゆっくりと入ってきました。
私がサッとスリッパを出すと、彼女は再びお礼を言って部屋の中に上がり、私は彼女を所長の部屋に案内しました。
所長は彼女が入ってくると、読んでいた漫画雑誌を卓上に置き、彼女に椅子を勧めました。
「あれ ? 貴女は確か、警視庁の森川さん ? 」
「覚えていてくださって嬉しいですわ」
どうやら、所長とはお知り合いみたいです。
「それにしても、変わった音のインターホンですね」
「聞いただけでレベルアップしたような気分になるでしょ ? 」
なるかぁ ! 某有名RPGのやりすぎなんだよ !
「はい、力と素早さとMPがそれぞれ2ずつ上がりましたわ」
乗ってきた…このどうしようもないギャグに乗ってきた…
なんなんでしょう、この人…
「おい玲奈、お茶はどうした ? 」
「あっ、すみません、すぐ淹れます」
「いえいえ、お構いなく」
私がお客様用の紅茶を淹れている間、二人はお話を続けていました。
「最近開発された、警官ロボのテストタイプをご存じでしょうか ? 外見も10代の少年を意識して、今の子供達に正義を教えるという意味も…」
「はあ」
所長はやる気の無さそうな声で応じます。
興味無しのようです。
「従来の人間型ロボと比べ、運動能力、解析能力共に優れ…」
「ロボットが凄いってのは解りました。で、用件は ? 」
「それがですね…あっ、ありがとうね」
私は卓上に紅茶の入ったティーカップを置くと、近くに立って二人のお話を聞きました。
「用件はですね…そのロボット3体の教育を、貴方に依頼したいのです」
…
な
な
「「なんですとぉ ! ? 」」
私と所長は同時に絶叫しました。
「そのテストロボットというのは…」
森川女史はそれを無視して、資料を広げながら話を続けます。
「自らを高めていく『自己育成プログラム』のテストを兼ねたロボットで、そのために治安維持の活動において大切なことや、人とのつきあい方などを、武術の達人でもある聖山さんにお願いしたいのです」
「いや、武術は関係ないんじゃ…」
「できることなら柔道や剣道などもロボットに教えていただきたいのです。そうやって人間ともふれ合わせるという…」
「いや、でも俺はあくまでも探偵なんで…」
「そこをなんとか…お礼はこの通り…」
そう言って、彼女は懐から小切手を取り出しました。
所長はその小切手をしげしげと眺め、
「こりゃあ…警察もなかなか太っ腹なもんだ」
「如何でしょうか ? 」
しばらくの間所長は考えていたけど、やがて、
「まあ、とりあえずそのロボットに会ってみないとね」
と、言いました。
「解りました。では、明日は空いていらっしゃいますか ? 」
「明日は一日中、特に予定は無いですがね」
「では、明日の午前11時、科学省ロボット開発ラボに来ていただけますか」
「はいはい、明日の朝ね…解りました、参ります」
………
その後、少しして森川さんは帰っていきました…が。
「…所長」
「…なんだ ? 」
「大丈夫なんですか ? ロボットの教育なんて…」
「………だからよ、まずはロボットに会ってみないと…それに…」
所長はふと、森川さんからもらった小切手を僕の方に差し出しました。
そこに書かれていた数字は…
「さ、三千万 ! ? 」
「一緒に置いていった説明書によると、三年契約らしい」
「つ、つまり、ロボット三体を三年間教育して三千万ってことですか ? 」
「うん。俺、警察のお偉いさんとは…まあ昔いろいろあったり、ロボット開発の研究者とも結構付き合い有るし、それにこの報酬だから、断るのもなぁ…。何にしろ、明日科学省に行ってみないことには始まらねーよ」
そう言いながら、再び漫画雑誌をペラペラと読み始めました。
聖山探偵事務所の奇妙な物語が、これから始まります…
次回、ロボット三体の登場です。
早いうちに仕上げようと思ってます。