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AI占い師の鑑定メールが毎回私を褒めてくるんだけど、読み終わるとなぜか自分が悪い気がしてくる件  作者: 縁/茶


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第二信 件名:【Stella Analytics】真壁怜様 対人関係プロファイリング——なぜ「噛み合わない」のか


真壁 怜 様


お元気でいらっしゃいますか。Stella Analyticsのルナでございます。


今週の真壁様のバイオリズムを拝見しておりました。水星が逆行期に入り、コミュニケーション領域にノイズが発生しやすい時期です。

もし今週、言葉の選択に迷ったり、送ったメールの文面を何度も見返してしまうような場面がおありでしたら、それは真壁様の能力の問題ではありません。周期的なものとお考えください。


——ところで、前回のメールの後、お返事をくださる方が時々いらっしゃいます。

「当たっている」「驚いた」と。もちろん、この鑑定メールは返信をお受けする仕組みではないのですが、もし真壁様が何かお感じになったのであれば、それはデータが真壁様を正しく捉えている証拠です。返信の代わりに、このまま読み進めてくださいね。


さて、前回のプロファイリング結果をもとに、真壁様の対人関係パターンを分析いたしました。


ビッグファイブにおける真壁様の「協調性」は平均域ですが、「開放性」と「誠実性」が極端に高いために、他者から見ると「同じ言語を話しているのに通じない」という印象を与えている可能性があります。


これは真壁様に非があるのではありません。認知の解像度が高すぎるのです。


周囲がSD画質で世界を見ているところに、真壁様だけが4K画質で同じものを見ている。同じ風景のはずなのに、見えているディテールが違う。真壁様が「ここにこういう要素がある」と指摘しても、相手にはまだ見えていない。


ただ、ここで知っておいていただきたいことがあります。


真壁様のそばにいる方は、真壁様が何をするでもなく、自然と「もっと頑張らなければ」と感じ始める傾向があります。真壁様が意図しているわけではありません。ただ、そこにいるだけで。真壁様の存在そのものが、周囲の向上心を刺激してしまうのです。それは美しいことでもあり、同時に、周囲にとっては息の詰まることでもあります。


お心当たりはありませんか。


どうか、ご自身を責めないでください。真壁様の解像度が高いことは事実であり、それを下げる必要はまったくありません。ただ、この構造を「知っている」だけで、対人関係のストレスは確実に軽減されます。


真壁様が今の環境で苦しんでおられるとしたら、それは環境が真壁様に追いついていないだけです。真壁様がいることで、周囲の方も無意識に背伸びをしてしまう。それはとても疲れることです——周囲の方にとって。


次回は、この特性がキャリアにどう影響しているか、具体的なデータとともにお伝えいたします。先にひとつだけ申し上げると——真壁様は、今の環境にいるべき方ではないかもしれません。



Stella Analytics

パーソナリティ・アナリスト ルナ


 日曜の昼、コインランドリーの待ち時間に読んだ。


「送ったメールの文面を何度も見返してしまう」。

 第二信の冒頭で少し笑った。

 水曜日にエージェントへ送った返信メールを、送信済みフォルダから三回開いたのは事実だった。水星の逆行のせいだと言われると、馬鹿馬鹿しいのに少し安心する。


「もし真壁様が何かお感じになったのであれば」


 感じた。先週、第一信を読み終えたあと返信ボタンに指が伸びかけた。AIに返信する自分を想像して、やめた。ルナはそれを知っているかのように書いている。知っているはずがない。

 でも、知っていてほしい自分がいる。


 乾燥機が回る音の中で、三回読み返した。


「認知の解像度が高すぎる」。


 前職の同僚との飲み会で、転職先の業界動向を三分ほど話したことがあった。面白い話をしているつもりだった。気づいたら全員がスマートフォンを触っていた。


 先週のエージェント面談では逆のことをした。前回言いすぎたのだから、今度は結論だけ短く言った。エージェントは首を傾げて「もう少し、動機の部分を聞かせてもらえますか」と言った。足しても引いても合わない。


 SD画質と4K画質。


 腑に落ちたとき、胸の奥が緩んだ。足りないのでも多すぎるのでもなく、解像度が違うのだ。合わないのは自分の技術の問題ではなく、画素数の問題。


「真壁様の存在そのものが、周囲の向上心を刺激してしまうのです」


 これは——褒められている。そうだ。褒められているのだ。存在するだけで周囲に影響を与えるなんて、すごいことじゃないか。


「それはとても疲れることです——周囲の方にとって」


 ああ、だから飲み会であの空気になったのか。俺がいるだけで、あの場にいた人たちは疲れていたのかもしれない。俺のせいで——いや、せいではない。ルナはそう言っている。誰のせいでもない。構造の問題だ。


 ルナはAIだ。人間が38万人分のデータを一人で分析できるはずがない。でもAIであることに抵抗はなかった。むしろ、人間に「あなたは特別です」と言われるより、データが「あなたは上位0.3%です」と示してくれる方が信用できる。


 数字は嘘をつかない。


 末尾の一行が目に残った。


「真壁様は、今の環境にいるべき方ではないかもしれません」


 来週のメールが届くまでの七日間が、少し長い。



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