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義雄2

 あくまでも、上品に、我慢強く、義雄自身が過ちに気づくように助け、改心するのを待っているのだ。


 聖母様のように!




 だが、オレはもう、だまされない。


 聖母様なんて、くそくらえだ!

 


 清く正しく美しく、ってか?

 この薄汚れた世の中で、自分だけは汚れなき、きれいな心をもっているって?


 ああ、ご立派だよ。

 ご立派すぎて、吐き気がする。



「偽善者」



 義雄は、口に出して言ってみる。

 翡翠(ひすい)と、何度も口にしたように。


 翡翠の、いい匂いの髪の毛、柔らかい身体の感触がよみがえり、義雄の身体は熱くなる。



「だから、だんなにも愛想を尽かされるんだ」



 ちくりと胸が痛むのを無視して、義雄はベッドに仰向けに寝転がり、目をつむった。






 去年の冬の初め。

 テスト前で、早く下校していた途中。

 自宅の近所の、だれもいない小さい神社の鳥居を、いつものように何気なく見やると。


 塗装がはげた、その小さい鳥居に、見知らぬ少女が寄りかかっていた。




 まっすぐな黒髪を、長い三つ編みにして。 

 きれいにそろった前髪は、ふんわりと眉にかかっている。


 たぶん、どこか私立の制服だろう。

 義雄の中学校の、ありきたりな制服ではなかった。


 緑のチェックのプリーツスカートの上に、白いシャツ。赤いリボンのネクタイ。

 ブレザーの代わりに、丸襟の紺色のカーディガンをはおっている。

 黒い学生カバンには、テディベアのキーホルダー。

 

 青白くほっそりとした顔だが、くっきりした二重まぶたに、肉感的な紅い口元。

 下唇の少し下に、ほくろがあって。



 いったい、どこのだれなんだろう。

 ゆっくりと通り過ぎながら、義雄が遠慮がちにちらちらと見ていると、少女と目が合った。



 その時。

 青白い大輪の花が、柔らかくほどけた。



 優し気に細められた目。

 紅い唇から白い歯がのぞき、ほくろが、小さい生き物のようにうごめいた。




 雷に打たれたように、義雄はその場に縫い留められた。




「よしおさん?」


 義雄は、更に驚いた。

 驚きのままに、間抜けな返事をしてしまった。


「えっと、誰だっけ?」


「わたし、ひすいよ。

覚えてない? 小さいころ、会ったことがあるけど」

「ひすい?」


 

 この子にぴったりな名前だけど。

 誰だったっけ?


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