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幸子6

 実際のところ、義雄の気持ちがどう変化して、こんなに不機嫌になるのかなんて、幸子にはまるでわからない。

 ただ、無事に夕食を食べ終えてほしいだけだ。

 そのためなら、どんな理不尽にもつきあえる。


「もう、いい!」

 義雄は、乱暴に箸を置いた。

 音を立てて椅子から立ち上がると、足元に置いていた学生カバンをひっつかんで、二階に上がっていった。



 牛肉と白米、みそ汁はきれいになくなっている。

 あとの野菜類は、もともとあまり好きではないものだ。


 これくらいなら、ほぼ食べたと言える。


 食べ盛りの息子の、見栄っぱりな反抗が、幸子には哀しく、ほほえましい。



 幸子の食欲は、もう失せていた。



 でも、わたしが倒れるわけにはいかない。

 わたしが動けなくなったら、だれが義雄の世話をするのだろう?


 食べたくなくとも、食べなければ。

 自分用の皿から、少しだけ小皿におかずを取り分けて、幸子は黙々とかみしめた。



 無駄にしたくないと思うのに、結局無駄になってしまう。

 食べ残しや、手をつけられなかった料理で、冷蔵庫の中はいっぱいだ。


 再利用したくても、あとからあとから新しく残り物が出る。


 幸子は残り物でもいいが、男たちには新しく作らねばならない。

 幸子だけでは食べきれなくて結局のところ、捨ててしまったりする。


 男たちが食べるか食べないか、本当に予測がつかないのだから、どうしようもない。

 

 

 もしや食べるのではと、毎回心をこめて作って。

 たいていは裏切られる。



 わたしのしていることは、いったい何なのだろう。



 いや、こんなこと思ってはだめ。



 母親は、家庭の太陽だから。

 北風よりも強いのだから。


 いつも慈愛深く、ほほ笑んでいれば、家族はそのうちわかってくれる。


 少なくとも、わたしが(はかな)くなった時には、いやおうなしにわかるだろう。

 その時になって、後悔しても遅いのだ。



 また動悸がし始めた。

 このところ、増えた気がする。


 幸子は騒がしい胸を片手で押さえて、うっすらと笑った。

 

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