幸子4
義雄が帰ったらすぐに片付けられるように。
幸子はあまり作業場を広げないように気をつける。
義雄が見たら、顔をしかめるから。
なぜしかめるのかはわからないが、機嫌を損ねるきっかけになるものは、危険だ。
複雑な図案で、ピースを小さくしたので、完成にはかなり時間がかかりそうだ。
ソファカバーにするつもりだが、まだ、椅子カバーくらいの大きさでしかない。
パッチワークができたら、綿を挟んでキルティングすることまで考えると、先は長い。
始まったばかりだ。
幸子はその、果てしなさに安心する。
作っている間は、目の前の布と、出来上がりの全体図と、針と糸とハサミのことしか考えない。
何もかも忘れて、現実から遊離している。
しかしながら、その時間は、次第にゆっくりと形となって現れ出すのだ。
空白ではない、生きた時間として。
自分が確かに何かを成した証として。
あっ。
かすかな、金属の軋む音。
門扉が開く音だ。
帰って来た!
幸子は針を大きく布に刺して、布類や裁縫道具をあわただしく片付けた。
玄関に顔を出すと義雄がいやがるので、さっと台所に立ち、ガスレンジに火をつける。
換気扇を回すと、物音が聞こえなくなるが、仕方がない。
ただいま、と言ったかどうかもわからない。
義雄は、まず手を洗って、うがいをしてから、ダイニングに入ってくる。
まじめで、几帳面だから。
肉がじゅうじゅうと音を立てて、おいしそうな匂いを漂わせる。
義雄が、黙って食卓に着いた。
「お帰り。寒かったでしょう?」
幸子は、野菜の横に肉を山盛りにして、ご飯と一緒に義雄の前に運んだ。
義雄は、黙って箸をとる。
湯気を立てている肉を、大きく開いた口に運び、かみしめた。
よかった、食べている!
幸子は続いて、温め直したみそ汁と漬物も運ぶ。




