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翡翠11

「そっか。

ひすいは、そのままN女子高に行くの?」


 翡翠の学校を調べたらしい。


 もう、いいか。

 年齢くらいは、ばらしても。

 今まで聞かなかった方が悪いんだし。


「わたし、今、高校生なのよ。

高校二年生」



 義雄は、えっ、と声を出して、そのままあんぐりと口を開けていた。

 我慢できなくなって、翡翠は声を立てて笑った。


「同級生と思ってたの?

ああ、おかしい!」

「ひどいなあ…」

「お姉ちゃんなんだから。…お姉ちゃん」



 自分たちの本当の関係についても、言ってしまいたい。



 しかし、姉だと知れば、義雄がショックを受けないはずはない。

 自分の父親を奪った女の子どもだと知れば。

 今のこの親密さは、永遠に失われるかもしれない。



 やっぱり、まだダメだ。


 舌先まで出かかった告白を、翡翠は飲み込んだ。


 翡翠が嫌われるだけならいいが、ミルクのことがある。



 進学して家を出る時に、ミルクを義雄に預けようと、翡翠は計画しているのだった。 




 ミルクを一緒に連れていくなんて、とてもできそうにない。

 経済的にも、時間的にも。


 ペット可のアパートを運よく見つけることができたとして。

 仕送りを当てにしていない翡翠は、バイトをしなければならなくなるし、ミルクにかまってやれないだろう。


 もう若くないミルクが、急な環境の変化と、孤独に耐えられるかどうか。


 だからといって、ママやあいつが、ミルクの世話をするはずがない。




 気候が暖かくなってから、翡翠は、義雄と会うたびにミルクを連れてくるようにしていた。

 そして、それとなくミルクの世話について教えた。


 ミルクもなついてきたし、なんとかなりそうだ。

 あと一年余りあるし。





 しかし、会う回数を重ねる度に、義雄の態度は親密度を増していく。

 触れこそしないが、急速に大きくなる体格と、若い男の(ねつ)っぽい体臭と、なによりも切実に求めてくるまなざしが、だんだん翡翠の負担になっていた。


 それに、ああ、義雄の手は、翡翠と見事な相似形だった。




 今のうちに、恋愛対象にはなれない関係なのだと、教えた方がいいに決まっている。

 後回しにすればするほど、ひどくこじれるだろう。



 でも、翡翠は、この他愛(たあい)ない時間を、失いたくなかった。

 のびのびと息をして、手足を伸ばして、どうでもいいことを言って笑いあえる。

 唯一の、無防備でいられる時間。



 見逃してください。

 あと少しだけ。

 罰は、後で、必ず受けますから。



 翡翠は、たぶんどこかにいる、存在を超越した何者かに祈った。






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