翡翠8
それでも、まだよかった。
ママもその場にいたから。
これもまた、父親の愛情の表れの一つなのかも、と思い込むこともできた。
翡翠が高校生になると。
なにかと理由をつけて、翡翠の部屋に入ってくるようになった。
立っている時も座っている時も、身体を寄せてきて、翡翠の頭や顔や肩や背中をやたらに、じっくり、べたべたと撫で回す。
その頃はもう、女子校ならではの過激な話題にさらされて、翡翠は耳年増になっていた。
まさかそんなことが自分の身に起こるなんて信じられなかったが。
現実は過酷だった。
やめて、と翡翠が抗議すると。
「親子のスキンシップだよ。
翡翠はもう、パパが嫌いになったのかな?
パパは悲しいなあ」
全く懲りず、平然としつこくさわる手を、翡翠が思わず払いのけた時。
パパと自称する男は、突然傷ついた顔をして、翡翠から距離を置いた。
「翡翠に嫌われたから、パパはもう、ここには来ない。
ママに、よろしくね」
そして、本当に何日も、顔を見せなかった。
ママは、翡翠が訴えるのを、途中で遮り、怒鳴りつけた。
「そんなの、ただのスキンシップでしょ?
パパがそう言ったなら、そうなのよ!
いやらしい子ね! 何を勘ぐってるのよ! 色気づいて!
なんで、パパの好きにさせてあげないのよ?
かわいそうに、あの人、娘から変態扱いされて!
あの人が来なくなったら、どうしてくれるのよ?!
わたし、生きていけないわよ!」
そうして、泣きわめき、力任せに翡翠を何度も叩いた。
ママは、翡翠よりも、自分の男の方が大事なのだ。
だから、ママもあっち側だ。
こんなこと、だれに相談できるだろう?
恥ずかしい。
あいつも、ママも。
翡翠自身も。
翡翠は、これ以上ないほど、孤独だった。




