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翡翠7

 パパがパパじゃなくなったのは、あのころからか。



 いつも忙しくて、出張の多いパパだけど、それまでは本当に尊敬していたし、心から信頼していた。


 ママはいい加減だけど、パパがいるから。

 大きなパパ。偉いパパ。

 わたしを、大切にしてくれる、パパ。


 いつもお菓子やおもちゃを持って帰って、軽々と翡翠を抱き上げてくれる、大好きな頼もしいパパ。




 パパには、本当の家と家族があって、ママとは正式に婚姻届を出していないのだと知った時も、だから、なんとかそのショックを乗り越えることができた。



「パパは、こっちの家族の方が、大切なんだから。

大事なのは、書類なんかじゃない。ここよ。ハート。心でしょ」

 胸を押さえながらママが言い放った言葉に、納得もした。


 大事なのは形じゃない。

 こころの結びつきだ。


 パパは、ママとわたしを、なによりも、だれよりも大切に思ってくれている。

 世界で一番に。



 だって、パパはいつも、翡翠のことを心配してくれる。

 



 私立の中高一貫の女子校を受験したのは、パパが勧めたから。

「校風がよくて、しっかりとした教育をするし、通学に便利だから、N校に行きなさい」

 共学がいいかも、と翡翠は思っていたが、パパがすごく確信をもって言うから、口に出さなかった。


「ミルクの世話をしないといけないだろう?」

 パパが言うから、部活にも入らずに、ひたすらまじめに学校と家を往復して過ごしてきた。


「髪を伸ばした方が、翡翠には似合うよ。

邪魔なら、三つ編みしたらいい」


「友だちなんて、無理して作ることはないよ。

家族がいれば、それでいいだろ?

パパが、翡翠の親友だよ」




 隣に腰かけたパパが、翡翠の手を取り、ほんとうにそっくりだなあと白い手の甲や手のひらをじっくりと撫でさすり、指や指の間にゆっくりと指を這わせながら、顔を見つめてくるようになると、翡翠もさすがに少し変だと思うようになった。


 なにより、その目つきがおそろしかった。


 慈愛に満ちた父親の目ではなく。

 切羽詰(せっぱつ)まった執着を、押し隠した目。

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