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翡翠5

 翡翠は、パジャマのポケットにシャーペンを落とし込むと、立って、かけがねを外した。


 ドアノブが、ゆっくりと回って、ドアが内側に開いた。



「ほら、温かいココアだよ」

 小さい盆を掲げて見せてから、背の高い男はちょっと首をすくめて、にこやかに室内に入り込んだ。


「がんばっているねえ、翡翠は。えらいえらい」



 問題集やノートが開いた机をちらっと見ると、男はノートの上に、無造作に盆を載せた。

 そして、もう片方の手に持った小さい紙袋をちらつかせながら、翡翠のベッドにどかりと腰かけた。



 翡翠は、開いたままのドア近くに突っ立っていた。


 いざとなったら、大声を出す。

 ママに知らせるためではない。

 いつも見て見ぬふりをしているママなんて、当てにするものか。

 マンション中に、知らせてやるんだ。



「廊下は寒いから、ドアを閉めて、こっちにおいで」

 断固とした口調で、男が命令する。


 ゆっくりとドアを閉めて、しかしカチャッと音がするまでは閉めずに、翡翠はのろのろと男の近くまで行く。

 男は、紙袋を翡翠に差し出した。


「開けてごらん」


 男から十分に距離を取って、手が触れないように、翡翠は紙袋の端をにぎった。

 それから、びりびりと、力任せに袋を破いた。


 中から出てきたのは、K大学の、赤本。

 男の、母校。


「まだ一年生だけど、こういうのは、早い方がいい。

目標を早く設定した者が勝つんだ。

ぼくは、なかなか進路を決められなくて苦労したから、翡翠には、早く決めてほしいと思って」



 翡翠の胸に、怒りの炎が上がる。


 勝手に決めるんじゃない!

 あんたの後輩になるなんて、まっぴらごめんだ!

 おまけにこんな、家から通えるような大学なんて、選ぶわけがない!



 嬉しそうに見上げてくる男に、吐き気がしてくる。


 こいつは本当に、わたしが自分のことを尊敬していると思っているんだろうか?

 優越感をくすぐられて、高みからもったいぶって手を差し伸べてるんだろうか?

 

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