幸子2
幸子は、牛肉をボウルに入れて、すり下ろしたニンニクと甘口のしょうゆをもみ込んだ。
少し時間をおく間に、キャベツを細い千切りにして、トマトをくし切りにする。
毎日まじめに炊事をする幸子の動きは、無駄がない。
他の事を考えていても手が動き、夕食の皿数は増えていく。
一応、三人分。
手を付けられなかった皿は、次の食事を作る時に何かに混ぜ込んで、目先を変えた一品にしよう。
野菜は汁物の実になるし、肉はパンに挟んでもおいしい。
鉄のフライパンを熱して、うっすら煙があがったところに油を引き、先にほうれん草をソテーする。
あとは、牛肉を焼くだけだ。
義雄が食卓に着いてから焼こう。
電子レンジで温めるよりも、その方が、絶対おいしい。
外は真っ暗になったが、義雄はなかなか帰ってこない。
カーテンを閉めかけて、少しだけ開けておく。
温かい光が、外に漏れ出るように。
それから、灯油ファンヒーターに点火する。
あっという間に室内がぬくもってくる。
幸子は、応接テーブルの上を片付け、裁縫箱と布を載せた。
作成途中のパッチワークキルトだ。
義雄の服や布製品は、下着以外、全部捨てずに取っていた。
小さくなったり一部が破れたりしたからといって、捨てられるわけがない。
どれも思い出だらけだ。
小さいころは、何もかも幸子が手作りしていた。
おむつ、布団のカバー、肌着からカバーオールまで。
幼稚園に通うようになったら、通園のサブバッグや、上履き入れ、体操服入れ、弁当袋など。
発表会の衣裳も。普段着も。
拙い素人仕事を、ママが作ってくれたと、義雄は誇らしげに自慢してくれたっけ。
既製品の方がいいと言われるまで、いったいどれだけ縫ってきただろう。
既製品だって、捨てられない。
義雄はセンスがいいし、着心地が良い服を好むので、これもまた捨てるにはもったいない。




