義雄11
「よしおのところと、正反対よね。
笑っちゃう」
実際、翡翠はふふ、と笑った。
「いったい、どっちがいいんだろうね?」
義雄は黙って、考え込んだ。
母親じゃなくて、女だ、ってのは。
母親らしいことや家事をしないで。
化粧やおしゃればっかりして。
男にうつつを抜かしている、ということだろうか?
とてもそんなこと、翡翠に聞けないけれど。
それから、自分の母親が、そんな風にしているところを想像してみた。
ママが、(まずありえないけど)遊び歩いて、家のことをなにもしなかったら。
義雄が学校から帰っても、食事が無い。
洗濯や掃除もしてない。
服は汚れたまま。
綿埃が積もって、物が散乱した家。
トイレは黒ずみ、風呂はカビだらけ。
それは困る。
「だからね、よしおは、お母さんを大事にしなくちゃ。
うっとうしくっても何でも、世話をしてくれるだけで、ありがたいのよ」
翡翠が、やわらかく諭した。
義雄は、しぶしぶうなずいた。
その日は、別れる前に、翡翠と次の約束をした。
「でも、ひょっとして、何か用事が入って、会えなくなったら?」
待ちぼうけなんて、義雄はもうこりごりだった。
「そうね…」
ちょっと考えて、
「なにか、目印をつけよう!」
翡翠が、おもしろそうに言った。
「来ている時、わかるようにしたらいいでしょ?
二人だけにわかるような、目印よ、」
言いながら翡翠は、ぐんぐん鳥居に向かって歩き、辺りを見回した。
しゃがんで白い玉石を拾い上げると、つま立ちして、鳥居の下の横木(貫というらしい)に、なんとか載せた。
翡翠が動くたびに、三つ編みがあちこちに振れる。
「わたしが来ていたら、この石があるから。
奥まで来て」
「うん」
力強くうなずいてから、義雄は、
「じゃあ、オレが先に来ていたら、やっぱり、こういう風に石を載せて、奥で待ってればいいよね?」
翡翠は、あのほほ笑みをくれた。




