義雄9
さまざまな思いが渦巻いて、翡翠にどう説明したものか、義雄はわからなくなった。
「あまり家にいないから、…普通の家庭って言えないかもな」
やっとのことで、こう言ってみた。
「だから、参考にならないんじゃないかな」
「そう、」
意外なことに翡翠は、落胆した顔も見せなかった。
「弁護士さんなんでしょ、よしおのお父さんは」
「うん、まあ」
「すごいよね~」
たいていの人と同じことを、翡翠が口にした。
だから、いつもの答えを、義雄は投げやりにつぶやく。
「そうなのかなあ」
「だって、ものすごく難しい司法試験に通ったんだし。
人から、先生、先生、って尊敬されるんでしょ?」
義雄は、ちょっとむかっとした。
いつものように、聞き流せばいいのに。
翡翠の感心したような口ぶりが、気に食わない。
「それはそうかもしれないけど。
でも、オレからしたら、別に、ただの父親だし。
父親っていう面からしたら、失格だよ、あの人は」
父親のことを、「あの人」と言ったのは、初めてだった。
親のことを、「あの人」なんて。
内心おびえのようなものが走ったが、義雄は無視した。
「どうして?」
「…だって、オレの事、あの人は、たまに会う親戚の子だと思っているんじゃないかな?
…暴力をふるわれたこともないし、怒鳴られたこともないけど。
だからといって、かわいがられたこともない」
大きな手で、わしわしと頭を撫でたり。
おんぶや肩車をしたり。
一緒に走ったり、キャッチボールをしたり。
よその父親と男の子のそんな光景を見る度に、義雄の小さい胸は苦しくならなかったか?
「そう…
忙しいのよ、きっと。
でも、その分、お母さんがかわいがってくれるんじゃない?」
「うっとうしいんだよ。あの女は」
口に出してから、義雄はさすがに、しまったと思った。
翡翠が、驚いたように目をみひらいている。
翡翠に非難される前に、義雄は急いで続けた。




