義雄8
義雄にとって父とは、たまに会う、親戚のおじさんだ。
まず、家に帰ってこない。
どこに行っているのか、どこに泊まっているのか。
薄々分かっているが、ママに聞くのはこわい。
たまに家にいると、びっくりする。
たまにしか帰らない家でも、父は、いつもいるかのように平然としている。
そして、ママがかいがいしく世話を焼くのを、当然のように受け取っている。
義雄の顔を見れば、悪びれもせず小言を言う。
「どうか? 勉強がんばっているか?」
「はい」
「成績、落とすなよ?」
「がんばります」
そして、またいつの間にかふっつりといなくなる。
普通の父子とはこういうものなのだろうと思っていたが、そうではないらしい。
友だちの父親は、泥酔した時でさえ、家に帰ってくるそうだ。
帰ってくるのだ。
釣りに行ったり、パチンコに行ったりで、妻に嫌な顔をされても、とにかくひとまずは帰宅するらしい。
家族に意見されると、オレはいつも、お前たちのために働き通しで疲れてるんだよ、と威圧的に怒鳴ったりする。
洗面所やトイレやテレビを占拠したり、はでなおならをしたりして、家族の顰蹙を買うことも多いそうだ。
父親とは、そんなにわがままな暴君なのだろうか。
父のそういった日常的な嫌なふるまいを羅列できるほど、義雄は父と一緒にいたことがない。
義雄の家には、もちろん父のベッドがある。
両親の寝室には、二つベッドが並んでいる。
のぞいてみることはしないが、そこに、父の気配はしない。
珍しく夜帰ってきた時でも、居間のソファに寝そべって、朝もそのままそこにいたりする。
ママが掛けた毛布にくるまって。
朝の家事を忙しくこなしているママは、遠慮してテレビもつけないでいる。
「パパは、立派な弁護士さんなんだから、お疲れなのよ」
ママはさみしそうに言う。
立派な弁護士だったら、何をしてもいいのだろうか?




