義雄7
「えっ、もしかして、カイロ、初めて? 使い方、知ってる?」
ひすいに言われて、義雄は我に返る。
「いや、もちろん、知ってる。
あったかいなあ、と思って。ありがとう」
義雄は、急いでカイロを握り、自分のズボンのポケットにねじ込んだ。
熱い。
「ねえ、『よしお』、って呼んでいい?」
前と同じように並んで縁に腰かけて、ひすいが言った。
「いや、ちょっと待って? 『よっくん』の方がいいかな?」
「よしお、がいい」
義雄は、急いで答えた。
「じゃあ、オレは、『ひすい』でいい?」
「うん」
義雄の胸は、嬉しさに温かくふくらんだ。
常緑樹と落葉樹が入り交じる雑木林の根元辺りは、ほの暗く厚く落ち葉が積もっていた。
風が、枝のすき間をこじ開けて通り抜けていく。
積もった落ち葉は、揺らぎもしない。
ひすい。翡翠。
これまで調べたことを、義雄は思い出す。
強力なパワーストーン。幸運や調和をもたらす。
糸魚川。かわせみ。硬玉。軟玉。白。みどり。白菜。キリギリス…
「…ねえ、」
ややあって、ためらいがちに、翡翠が口を開いた。
「うん?」
夢から覚めたような間抜けた声で、義雄は答えた。
「よしおの、お父さん、って、どんな人?」
「なんで?」
「普通の家庭に興味があって。わたし、ママしかいないから」
「あ…」
「あ、でも、だからって、全然平気だし、お金にも困っていないし。
でも、ほら、友だちに聞いても、女の子って、そういうところ気を遣って、なかなか話してくれないから」
ちょっと早口で話す翡翠の横顔に、義雄は見入っていた。
いつもは青白いのに、今はほおにさっと緋が差して、生き生きと輝いている。
ほんとうに、きれいな女の子だなあ。
その子が、義雄に、こんなにたくさん話してくれる。
しかも、プライベートな相談。
なんとかして、翡翠の役に立ちたい。
翡翠の女の友だちよりも。
やっぱり、頼りになると思われたい。
義雄は、父親のことをまじめに思い出そうとした。




